鎌田實 実の親に捨てられた僕が勇気を出して「医学部に進みたい」と養父に言った日。「あこがれ」を持ち続ければ生きるのが楽になる【2023年編集部セレクション】
2024年10月2日(水)12時30分 婦人公論.jp
鎌田先生「生きていくうえで一番大切なのは『自由』だというのが僕の信念」(写真:本社写真部)
2023年下半期(7月〜12月)に配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします。(初公開日:2023年9月19日)
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国連が設立した「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が毎年発表する「世界幸福度ランキング」。2023年、日本は総合点で世界47位と発表されました。先進国では下位の部類に入る日本。そのようななか「こんな閉塞した時代にこそ『わがまま』が大事になるのです」と話すのは、医師で作家の鎌田實先生。鎌田先生いわく「生きていくうえで一番大切なのは『自由』だというのが僕の信念」だそうで——。
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自分で自分に「宣言」して、わがままを貫く
「医師にならなかったら何になっていたか?」と考えることがあります。
僕の家は貧しく、大学に進める状況にはありませんでした。父は病弱な母を抱え、苦労を覚悟しながら、実の親に捨てられた僕を養子にしてくれた人です。そんな父に勇気を出して「大学の医学部に進みたい」というと、「そんな余裕はない」と言う。
でも夢をあきらめきれず、執拗に食い下がりました。
「落ちたらどうするんだ?」と聞くので「落ちたら寿司屋になる」と答えました。本当は映画監督だったのですが。映画が大好きだったのです。どうせ苦労するなら好きなことをやりたい。この頃からすでに僕はわがまま人間でした。でも、さすがにそれを言い切る自信はありませんでした。
でも年に一度、父が連れて行ってくれるお寿司屋さんは、僕にとって別世界。大学に受かるのがベストですが、落ちて苦労するなら、寿司職人としてチャレンジしたい……もちろん、丁稚奉公は覚悟の上です。
「国立大学の医学部だけ受ける。他には行かない」と宣言しました。「不退転の決意」です。それが自分の「覚悟」を強めました。
自分の芯を確立することが大切
「面倒はみられないけど、すべて自分でやるなら、それでいい」と、父も認めてくれました。宣言することが自分と周囲を変えたのです。
でも、宣言だけでは不十分。それが「希望」につながるものでなければいけません。「医学部に落ちたから寿司屋」と言うと、「負い目」ととらえられるでしょう。
『ちょうどいいわがまま』(著:鎌田實/かんき出版)
でも僕は卑下していたわけではありません。「寿司職人になっても人に負けない生き方ができる」という希望を持っていました。
小さな店を持ったら、お客さんに幸せを感じてもらえるような店をつくる。感動してもらえるような寿司を握れるようになりたい。強い思いと努力があれば、なんとかなるのではないかと思ったのです。
寿司屋になっていたら、いまよりももっとおもしろい生活をしていたと思います。「かま寿司」なんていって、世界展開をしていたかもしれません。
何でもおもしろがることが大事です。その中心に自分の芯を確立することが大切なのです。うまく「宣言」を利用してください。
価値観を変える「とんがりレッスン」
*わが・ままが大切。「わが」がなければ、始まらない。あとは、風にうまく乗ったり、道なりに走り抜けたり、人生の流れのままに進めばいい。
*失敗を恐れず、夢を語ることが大切。ちょうどいいわがままは人間の魅力のひとつ。
「あこがれ」を持ち続ければ生きるのが楽になる
大学進学をめぐって格闘し、最後に父が泣きながら言ったのは、こんな言葉でした。
「自由をやる。その代わりすべて自分の責任で生きろ。お前の授業料も入学金も教科書代も出してあげられないと思う。すべて自分で考えろ。その代わり自由をやる」
結果的に、人生で一番大切なものをもらったと感じました。それ以来、生きていくうえで一番大切なのは「自由」だというのが僕の信念です。
実は、医学部進学は絶対の目標ではなく、「家の貧しさから逃れ、どこにでも自由に行ける人間になりたい」という本望を実現するための手段のようなものでした。その自由へのあこがれは、いまでも僕が生きる原点になっています。
一番大事なのは、自分の心の芯が何を望んでいるかを知ることです。僕は自由にどこへでも行ける人間になりたかった。それが目的でした。医学部に入ることが目的なのではありませんでした。
でもなかには、大学に入ること自体が目的になってしまう人、医者になるのが目的になってしまう人がいます。医者になって何をしたいのか、が大事なのです。
僕は自由という言葉にこだわりました。国立大学の医学部に受からなくても、僕はへこたれなかったと思います。寿司職人になって小さな店をチェーン化して、海外に店を広げていけば自然と世界へ開かれていくと考えたのです。
寿司屋にならなくても、自分がより自由になるために自分は何をすればいいかを考えたでしょう。
「宣言」が新たな希望をもたらしてくれる
よく「カマタはいいよな。医者になったから、だから自由なんだ」と言われますが、医者はそれほど自由ではありません。開業医は設備投資が必要なのでお金に縛られることが多く、勤務医の場合も、出身大学の教授にコントロールされていることが多い。
それに比べれば、確かに僕は自由です。でもそれは「宣言効果」で不退転の決意を自分に課し、いつも自分を奮い立たせてきたからです。
いまでも、誰に言うでもなく、自分に向かって宣言しています。それがまた新たな希望をもたらしてくれます。
「カマタくん、君は自由に生きているか」……自分の質問に自分が答えます。
「私はもっと自由になるんだ。私は海だ。私は風だ」。海になったり風になったり、どこにでも行ける自分を宣言したり、大きな自分を意識したり、ときには自由になると強い思いを語ったり、「カマタくん、自由にこだわり続けているか」と言い聞かせています。
「僕は風だ。僕は風のようにどこにでも流れていく」とカマタを鼓舞します。
「私は海だ」と言いながら、「もっと大きくなれ、たくさんの人が行ったり来たりすることのできる、大きな海になれ」と自分に言ったりします。
仮に医学部に進まなかったら、もっとおもしろい世界にいたかもしれません。自分の芯の確立。それが、どんな状況でも幸せを勝ち取る生き方につながります。
価値観を変える「とんがりレッスン」
*本望は何かと自分に問いただす。その本望を実現するために絶えず自分の姿勢を点検しておくこと。自分で自分のアドバイザーになれ。
※本稿は、『ちょうどいいわがまま』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
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