東洋大の指揮官・酒井俊幸が描く三大駅伝の戦略、「出雲駅伝」で駅伝デビューする強力ルーキーの野望
2024年10月5日(土)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
出雲駅伝は1年生4人がエントリー
10月14日に開催される出雲駅伝。東洋大の選手エントリーは大胆だった。
4年生は昨季の三大駅伝すべてに出場している小林亮太と、箱根駅伝9区2位の吉田周のみ。昨年アンカーを務めた主将の梅崎蓮、トラックシーズンで活躍した石田洸介は外れた。一方で三大駅伝を経験していない選手6人を登録。なかでも1年生は宮崎優、内堀勇、馬場アンジェロ光、迎暖人の4人を入れてきたのだ。
9月中旬の猪苗代合宿時に酒井俊幸監督は、「出雲駅伝に関しては今夏、頭角を現してきている子たちを思い切って起用したいなと思っています。失敗しても経験になってくれればいいですから」と話しており、予告通りのエントリーだったといえるだろう。
酒井監督は「1年生の突き上げがチームに刺激を与えている」と評価していたが、ルーキーたちはどんな思いで駅伝シーズンに向かっていくのか。
猪苗代合宿で語った1年生の野望
猪苗代合宿には4人の1年生が参加した。そのなかで前半シーズンに最も活躍したのが松井海斗だ。
埼玉栄高時代は昨年の全国高校駅伝1区で区間2位に入るなど、駅伝で大活躍。今季は5000mで関東インカレの1部で5位に食い込むと、U20日本選手権で2位(自己新の13分46秒34)に入り、U20世界選手権にも出場した。10000mは6月の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会1組でトップを奪っている。
出雲駅伝のエントリーは外れたが、「全日本と箱根はチームに貢献する走りができればいいと思っています」と話す。そして箱根駅伝は上り区間の5区にチャレンジしたいという。
「地元で起伏のあるコースを⾛ってきたので、5区を走ってみたい気持ちがあります。上りに自信があるというわけではありませんが、挑戦してみたいですね。一斉スタートとなる1区の勝負と、花の2区にも興味があります。1年目から箱根駅伝は往路で勝負したいです」
東洋大牛久高出身の宮崎優は高校時代から松井と好勝負を演じてきた。昨年は関東高校駅伝1区で区間2位、全国高校駅伝1区で区間3位と好走しながら、松井に勝つことができなかった。大学では1年目から関東インカレ、全日本大学駅伝関東学戦推薦校選考会(以下、全日本選考会)に起用されている。
しかし、宮崎本人は、「関東インカレ(1部5000m28位)は納得いく結果ではありませんでしたし、全日本選考会(3組4着)も最低限の走りになってしまいました」と自身の結果に不満を抱いている。
腰を痛めた影響で夏合宿の前半は出遅れたが、出雲駅伝にはエントリーされた。トラックよりロードを得意とする宮崎はどんな走りを見せるのか。
「今季最大の目標は箱根駅伝の優勝です。そのためにも出雲や全日本に出場するチャンスがあれば、怯まずに攻めの走りをして、チームに貢献したいです。自分は上りが好きなので、箱根は5区を狙いたいと思っています」
面白いことに松井に続いて宮崎も上り区間を目指している。なお前回5区(区間10位)を務めた緒方澪那斗(3年)は、「5区でリベンジしたい気持ちもありますが、できれば往路で勝負したい」と話しており、1年生が山区間に抜擢される可能性もありそうだ。
巨摩高出身の内堀勇は昨年の関東高校駅伝1区は松井、宮崎に続く区間3位。関東インカレは1部10000m(29位)に出場するも、全日本選考会は出番がなかった。
「今季は故障などで中断することもなく、いい練習ができたと思います。ただ、レースに関してはあまり良くなかった」と本人は納得していない。また全日本選考会の松井と宮崎の活躍を見て「悔しい」と感じただけに、三大駅伝にかける思いは強い。
「出雲と全日本はメンバー争いに加わり、チームを下から押し上げていきたいと思っています。箱根駅伝は山下りの6区を希望しています。夏合宿で土台を作ったので、今後はスピードを上げる練習や、区間に合わせた練習をしていきたいです」
前回6区を区間8位(58分58秒)と好走した西村真周(3年)は、「6区で区間賞を狙いたい」と話しており、内堀が先輩を脅かすことで、区間配置のバリエーションが増えてくる。
拓大一高出身の迎暖人はメジャー大会の活躍はないが、期待値の大きい選手だ。酒井監督の元チームメイト(学法石川高、コニカミノルタ)で全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)のVメンバーである忠一さんを父に持つ。今季は5000mの自己ベストを14分04秒07まで伸ばして、全日本選考会に続き、出雲駅伝もエントリーメンバーに食い込んだ。
「夏合宿は離脱することなく予定通りのメニューができています。同学年のなかで競争意識があるので、お互いに負けたくないと思って練習に励んでいます。1年目から箱根駅伝を走りたいと思っていますし、出雲と全日本もメンバー争いに加わっていきたいです」
チームは夏合宿をナイキの『ペガサス プラス』で走り込んできた。その成果が三大駅伝で試されることになる。
指揮官が考える三大駅伝の戦い方
出雲駅伝は1年生4人だけでなく、網本佳悟(3年)と濱中尊(2年)の三大駅伝未経験者もエントリーされた。なかでも注目は日本インカレ10000mで8位入賞を果たした網本だ。
「出雲駅伝からチームに貢献したいと思っています。 箱根駅伝は優勝という⽬標があるので、どの区間を任されても区間3位以内で走りたい。ひとりで淡々と走るのが得意なので、復路で勝負したいです」と三大駅伝に向けて、意気込んでいる。
出雲駅伝はフレッシュなメンバーで臨むことになるが、酒井監督は三大駅伝の戦い方をこうイメージしている。
「出雲はとにかく経験を積ませたいですね。全日本はスピード区間とロング区間のバランスが非常に難しいんですけど、出雲で経験を積んだ選手と、集大成となる選手の両方を起用するつもりです。前半のスピード区間で耐えて、中盤4〜6区で上げていければ、7区、8区の走りも変わってくるかなと思っています。いずれにしても箱根で勝負するために全日本でも上を目指していきたい」
昨季は全日本で過去ワーストとなる14位に沈みながら、箱根では4位まで順位を上げた。今季は全日本で上位争いを繰り広げて、正月決戦で総合優勝をつかみにいきたい考えだ。
全日本大学駅伝は梅崎蓮(4年)、石田洸介(4年)、松井海斗(1年)の起用が見込まれるだけに、出雲駅伝で〝新たな風〟が吹き込むと面白い。
筆者:酒井 政人