川崎市が持つ多様性の価値を、次の100年へもつなげていきたい。川崎市長と指出が語り合いました。

2023年10月5日(木)11時0分 ソトコト

人情味あふれ、多様なものを受け入れるまち。


指出一正(以下、指出) 今朝は川崎駅からここまで歩いて来たのですが、市役所の通りはきれいで歩きやすかったです。緑もきれいで、すっかりひと昔前の川崎の印象とは変わった気がします。
福田紀彦(以下、福田) 久しぶりに川崎に来られた方は駅周辺が変わってしまっていて、ここはどこだという感じがすると思います。川崎駅周辺は再開発で変貌を遂げました。私が小さい頃は労働者のまちのイメージが強かったのですが、やっぱり変わらないものもあって、川崎の人々はウェットというか人情味が深くて、来た人々にはウェルカムですし、出ていった人たちにも「これからもよろしくね」と。じゃあさよならじゃなくて、常につながりを保つようなところが土地のDNA的にあると私は思っています。そこがこのまちの魅力でしょうか。まちがきれいになったことが魅力ではなく、都会にありながら田舎っぽいところもあることが、川崎の一番の魅力だと思っています。





指出 都市部にありながら人情味があるというのは魅力的ですね。
福田 もともと川崎は、400年前頃に東海道の川崎宿として生まれたまちで、人が集まってくるところだったんですね。人やあらゆるものが集まるし通過していく。だから今も入ってくるもの、新しいものに寛容であるし、変化に対して臆病ではないといいますか、そういう風土が意外と残っていますね。当時は多様なものを受け入れていた不思議な空間だったと思われますが、それが現代にも残っているように感じます。
指出 なるほど。今、各地域が移住者を増やすためのいろいろな取り組みをしていますが、僕はその土地が「愛されキャラ」かどうかが大事だと思っているんです。川崎は愛されキャラだなと思いました。川崎に住んで楽しいなというエネルギーが周りにも伝わってきますね。
福田 ありがとうございます。まちはきれいになってきましたが、市民からも再開発であまりきれいにしすぎない方がいいのではという声もあります。実は私もそう思っているんです。すべてがきれいに整いすぎているより、ちょっとずれているところがあるほうがいいといいますか、繁雑なところもあるほうがおもしろいといいますか……。ああいうところって何といいますか、人間が生きる上で必要なものだと思うんですね。人間が全部コンクリートの中で生きられるかというとそうではない。完璧に整った都市開発より、若干抜けている感というか、そういうものがあった方が楽しいと思います。昔ながらの路地や飲み屋街も少し残っていたほうがいいということですね。
指出 なるほど。僕は魚釣りをするのですが、川は蛇行している部分があるからこそ、そこで生き物が住めるんですね。人間も生物ですから、まちにそういう部分があった方が住みやすいのかもしれませんね。ストレートなまちづくりではなく、クランクしているまちづくり、すこし曲がったところがあった方が人間は住みやすさを感じるのではと思いました。川崎もクランク的要素があるのかもしれませんね。





東京でも横浜でもない、川崎ならではの魅力。


指出 さて、2024年の市制100周年、おめでとうございます。100周年を迎えるにあたっての市長の思いをお聞かせください。
福田 川崎は100年前、人口5万人に満たないまちから始まって、現在は約154万人と30倍以上に発展を遂げました。それには住民が川崎生まれ川崎育ちの人々だけでなく、国内外からさまざまな人が来たことが理由にあります。彼らが高度成長期を含めて産業を支えてくれて、まちを発展させてきた歴史があります。ある意味、“元祖・多様性のまち”なんですね。そしてもともと多様性があったからこそ外から人が集まって来やすかったのだと思いますし、これからもその多様性の価値を川崎市は大切にしていかなければならないと思います。これまでの100年も、これからの100年も、川崎の価値である多様性を大事にしていきたいなと思っています。市民の皆さんにも、そういえばこれまでもそうだったよね、これからもその多様性を大事にしていきたいよね、と思ってもらえるような100周年にしたいと思います。さきほどの「愛されキャラ」のように、市民にとって「ああ、川崎っていいところだなあ」と、じわっと感じられるまちであってほしいと思います。こういう都市部であれば当然、人の出入りは激しいわけですけれども、ここで生まれて、育って、あるいはたまたま仕事で数年住んだだけの人にとっても、第一の、第二の、第三のふるさとであってほしいし、川崎っていいまちだなあと思ってもらえるような、そういうまちづくりをこれからもしていきたいと思いますね。
指出 それはまさにウェルビーイングの観点ですね。これからは中長期的に幸せを感じられることって大事だと思いますが、それが川崎というまちには内包されていると、今、お話を伺っていて思いました。





指出 市長が思う川崎の好きなところ、魅力はどのようなところでしょうか。
福田 私は7区ある行政区がそれぞれに全く違う特徴があって、よくそれを7色の虹に例えますが、7色合わさって全体としていいまち、いい色が出ていると思います。7つの区は見事に違うんですよ。土地形状ももちろん違いますが、住んでいる人々のカラーも違います。これも不思議ですが、例えば溝口周辺は元々、大山街道が通る商業のまちだったので、何となく今もそんな雰囲気があるんですね。宮前区や麻生区は、現在は実際には農家は少ないのですが、なぜか若干おっとりとした農耕民族的雰囲気があります。そして川崎区は非常にウェットな感覚があって、一緒にお酒を飲んだら友達になれるよう雰囲気があります。私の実家がある麻生区はまた雰囲気が違いますね。人もそうですし、街並みも違うし、それぞれの良さがあって、それらが合わさって共和国的だと思っているんです。
指出 共和国的、いい表現ですね。
福田 それぞれの区に行くと、それぞれの区の良さを満喫できるのが川崎の良さかなと思います。ひとつの市に海もあれば、川、丘陵地、山がある。緑豊かで、最近では高層ビルもあって、まるで日本列島の縮図のようなおもしろいところだと思います。
指出 それはおもしろいですね。





重なり合って、無限の可能性を生み出していく。


指出 ところで川崎市は2016年に、市制100周年に向けてのブランドメッセージを策定されました。このメッセージに込めた思いをお聞かせください。
福田 ブランドメッセージは「Colors,Future! いろいろって、未来。」です。ロゴマークは、川崎市の川の字を、赤・緑・青の3色で表現しています。川崎の価値って何だと徹底的に議論した中で、やはり最終的に残ったのは、根っこにある多様性の部分。それをどう表現するかというところにいきつきました。そして最終的に光の3原色、赤、緑、青で、表現していこうとなりました。3原色を重ね合わせることで無限の色を表現できる。やはり私たちはDNA的に重ね合わせることがうまいまちだと思っていまして、ステートメントの中でも私たちは1色ではないと言っているのですが、川崎は1色ではなく、いろいろな色を重ね合わせることで価値を生み出すということを、ブランドメッセージに表現したかった。3原色を微妙にずらしながら色をつくりだしていく。川崎のまちを体現しているブランドメッセージでありロゴであると考えています。
指出 なるほど。もともと日本の集落というのは、そこに田んぼがあったり生き物がいたりという中で人が暮らしていたという、重ね合わせの文化だと私は教えられてきたのですが、それが今はセパレートしていくまちづくりが多い。人々が一緒に暮らすというのは、重ねる、を作り出していくということだと思いますので、このブランドメッセージは「重なりの広がり」なのかなと、お話をお聞きしていて感じました。





指出 最後に、これから川崎市がどのようなまちになっていってほしいですか。
福田 そうですね。川崎って人がいるから産業ができたのではなく、産業があるから人が集まってきた。そういう意味で、これまで川崎市には日本を支えるような産業があったので、人口も膨れ上がり成長してきたのだと思います。そしてこれまでの成長産業、100年この川崎を支えてきた産業は大構造転換の時期にあると思います。鉄鋼産業も2023年9月に高炉が閉じられることになり、これからは脱炭素、川崎はこれまで炭素の世界で生きてきたのに、180度転換して脱炭素の社会を生き抜いていかなければならない。大構造転換が始まっています。それを市も民間企業と一緒にやっていこうとしています。川崎市の発展は日本の成長産業の発展につながることもあり、使命感を持ってやっています。これからの川崎で産業は変わるけれども、そこに根付いているウェットな、つながりを大事にする文化は変わることはないと思っています。変わるものと変わらないものの両方を大事にしていく、これは川崎で100年続くスピリットだと思います。つまり変化に対して寛容であること、おそれ・躊躇がないことは、新しい産業が生まれる土壌があることだと思います。その新しい産業に集まってくる人たちがいて、その人たちからまた新しい文化が生まれると思います。ちょうど100年を境にして、また川崎の第2ステージが始まるのだと思います。人が集まり、日本の成長を支えられるような、また新たな産業や文化が始まっていけばいいなと考えています。
指出 100年積み重ねられた価値を、これからの100年へもつなげていけるといいですね。それを楽しみにしています。





福田紀彦(ふくだ・のりひこ)
川崎市長
川崎市立長沢小・中学校卒業後、渡米。米国アトランタ・マッキントッシュ高校卒業。米国ファーマン大学卒業(政治学専攻)。2003年神奈川県議会議員に最年少で初当選。2007年再選。早稲田大学マニュフェスト研究所・客員研究員、県知事秘書などを経て2013年、川崎市長に初当選。2017年、史上最多得票で2期目再選。2021年、史上最多得票数を更新し3選を果たす。趣味は料理。妻、長女、長男、次男の5人家族。


指出一正(さしで・かずまさ)
ソトコト編集長
上智大学法学部国際関係法学科卒業。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、山形県・小国町「白い森サスティナブルデザインスクール」メイン講師、群馬県庁31階「ソーシャルマルシェ&キッチン『GINGHAM(ギンガム)』」プロデューサー、内閣官房、環境省、国土交通省、総務省、農林水産省、など行政の各委員、民間委員を歴任。大阪・関西万博日本館クリエイター、BS朝日「バトンタッチ SDGsはじめてます」監修著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。


text by Yoshiko Endo
photographs by Hidehiro Yamada

ソトコト

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