これぞ京都ならでは! 洋食で飲める4軒

10月13日(金)11時0分 文春オンライン

「あまから手帖」といえば関西のグルメ雑誌の老舗で、舌の肥えた読者で知られる。その編集長が教える京都の楽しみ方。しかも今回は和食だけじゃない、京都にあるほんとうに美味しい店をご紹介。第4回はカクテルやワインと一緒に楽しめる、京都ならではの洋食の名店を紹介。


◆ ◆ ◆


京都の洋食はここから始まった


 今年は神戸開港150周年のアニバーサリーイヤーだ。関西に洋食が伝わったのは、おそらくこの1868年の開港時からで、神戸にはゴルフもコーヒーも映画も、この頃、海の向こうからやって来た。そして独自の港町文化が作られていくワケだが、1868年といえば明治元年。京都は御一新で、それどころではなかったに違いない。なんせ天皇が京を離れ、江戸に行ってしまわれたのだから。御所御用達の商いはどうなる? と、そんな時期に、西洋からやってきた食べ物のことなんか構ってられますかいな、というワケで。


 京都に初めて西洋料理店ができたのは、明治も末期になった頃。明治37(1904)年、『萬養軒』が麩屋町通錦小路上ルに開店。谷崎潤一郎は『朱雀日記』にこう記している。「案内されたのは、麩屋町の仏国料理萬養軒と云ふ洋食屋である。近来京都の洋食は一時に発達して、カツフエ・パウリスタの支店までが出来たさうな。此処の家もつい此の頃、医者の住居を其れらしく直して開業したのだが、中々評判がいゝと云ふ。」


 さすが京都と思うのは、この店が現役であること。今は、『 ぎをん萬養軒 』として、洋食というより、クラシカルなフレンチを供している。


 大正期になると、京都の洋食はいよいよ独自の路線を進み始める。そのベクトルは、大きく分けて二つあると私は思う。一つは、舞妓さん好みの洋食。代表格としては、大正5(1915)年創業の、これまた現役、先斗町『 開陽亭 』。舞妓さんのおちょぼ口でも食べられるようにと海老フライやカツレツなどを一口サイズにして三段重ねの弁当箱で供したのが、名物「洋食弁当」だ。現在は「三段赤弁当」として健在で、みたらし団子のタレをヒントに生まれたテリヤキソースを使う牛フィレの照り焼きや、海鮮フライに各種カツが入って2800円。“大人のお子様ランチ”的愉しみがあり、私も時折食べに行く。


京都初のニッカバーは洋食屋だった!?


 もう一つのベクトルは、飲める洋食。今回、私が推すのは、このジャンルだ。その元祖が、大正期に創業し、後に京都初のニッカバーとなった木屋町四条の『 一養軒 』。


京都らしい「一養軒」のカウンター

 木屋町通から露地に入ったどん突き。20席ほどの小さな空間には、歳月を重ねた店だけが持つ気配のようなものが満ちていて、カウンターの古傷をなでなで飲むニッカのハイボールは、実にふくよかな味がする。エビコロッケ……もとい、この店ではエビコロッキー、自家製マヨネーズがリッチなメキシカンサラダなどを盛り合わせたオードブルをアテに1、2杯。


 チキンオムレツは、鶏のこま切れと粗みじん切りの玉葱がゴロゴロ入っていて、飾り気のない味だが、オカンの作る洋食みたいで沁みる。初めて訪れた夜、御年66歳の店主・矢野保夫さんに聞いたのだが、矢野さんの母と妹が2階の厨房で作ってるのだそう。ローストビーフ(一養軒風)がまたいい。ホンマに焼いた牛肉が出て来るのだが、コレ、ビフテキちゃうのん? なんて野暮は言いっこなし。懐かしくも、しみじみ旨いデミグラスが、ハイボールにも、寂びたバーの雰囲気にも似合っていて、杯を重ねていくと、泣けるほどの郷愁が身体を突き抜けていく。


正統派洋食をカクテルと一緒に

 洋食をアテに飲む。私がその愉しさを知ったのは、河原町御池の『 タバーン・シンプソン 』だった。昭和50(1975)年創業の大人の社交場的バーで、昭和の映画に出てきそうなレトロモダンな雰囲気に圧倒された。京都在住の先輩に連れられ、薦められるがままに食べた。「ココのフライドチキンは抜群やで」「タンシチュー、これは外されへん」「名物のオマール海老のパイ包みも食べときよし」。いやはや、目から鱗がぼろぼろ落ちた。なんだ、この上品で、深みのある味わいの連打は! 


 タンシチューのタンのブリンッと弾力があるのに柔かい具合とか、デミグラスソースの奥行きのある旨みとかに一々唸りながら、白飯でなくカクテルと合わせるなんて……大人やわぁ、と酒飲みの階段を一つ上がった夜だった。あれからもう10年が経つが、以来、この界隈で洋食気分になったらば『タバーン・シンプソン』の扉を押す。



オーセンティックバーの絶品ナポリタン


 最近の大ヒットといえば、木屋町二条の『 Bar K6 』。以前から、こちらの玉子サンドが好物で、2軒目、3軒目にと何かと足の向くバーだったのだが、18時の開店直後に訪れてビックリ。洋食メニューがこれほど充実していたとは。


バーで洋食なら「Bar K6」へ

 オーナーの西田稔さんが「喫茶店の懐かしい味を狙っている」と薦めてくれたナポリタンを食べて瞠目した。スパゲティーニのアルデンテの具合、完璧。焦がしケチャップは洗練された甘みで、バターの風味でトマトの香りがふくらみ、一層華やかになっている。喫茶店の、というよりは、リストランテで出てきてもおかしくないモダンな味わい。正直、今まで食べたナポリタンの中で、ぶっちぎり旨かった。それをブルックリンラガーIPA片手に味わえるなんて“口福”至極だ。2杯目はウイスキーベースのカクテルを選び、ハンバーグと合わせてみた。噛めば流れ出す肉汁、コク深いデミグラスソース。そこに重なるウイスキーのスモーキーな薫香。いやはや、こんなマリアージュがあったとは! 


 しかし、こちらのデミグラスソース、バーの域を超えている。聞けば、厨房でシェフが牛骨を焼くところから3日かけてとるそうな。シェ、シェフ? なんでもできる器用なバーマンの料理に出合うことはあるけれど、オーセンティックバーにシェフとな。


ナポリタンとハンバーグは必食

 U字とI字のカウンターが2本走る店内は38席と大箱で、バーの重厚感がありながらも、ダイニングの風情。開店は23年前、巣立った門下生数知れずの、京都屈指の名門バーは、飲み足りないからと2軒目に行くだけではもったいない。洋食で飲みたい気分の夜、1軒目にも全力でお薦めしたい。



尾崎牛のハンバーグ&カレー


 バーばかり書いたので、ラストは、ワインで愉しむ洋食を一つ。柳馬場押小路上ルの『 洋食おがた 』。店主・緒方博行さんといえば、肉だ。


 グランドメニューも充実している上に、その日のおすすめが手書きで記されているから目移り必至だが、ステーキ、ハンバーグ、カレーは外すべからず。こちらの牛肉、聞いて驚くなかれ。宮崎県から届く尾崎牛なのだ。


尾崎牛で作るハンバーグ

「赤身に力があって、融点が低いので後味も軽い」と緒方さんが惚れる、この名声高きブランド牛は、ステーキで楽しめるだけでなく、なんとハンバーグにも使われる。合わせるのは、「尾崎さんの紹介で出合った」という同県産の南の島豚。どちらも1カ月熟成し、同割で合挽きに。漆黒のデミソースに覆われた肉の塊を大きくカットしたら、大胆にガブリといっていただきたい。気持ちいほどの弾力に続いて、旨みがドッパーと口中を満たし、馥郁たる香りが広がる。デミソースにも尾崎牛のスジ肉の旨みがたっぷりで、ほろ苦さと甘みのバランスが素晴らしく、コクは豊かで深い。


 さて、締めはビーフカレーだ。ここにも尾崎牛が惜しげもなく使われる。脂で野菜を炒め、ベースのスープはスネ肉でとるのだそう。一口食べれば、その牛肉由来のリッチな旨みに陶然となるはずだ。


リッチな旨みのビーフカレー

 締めまで赤ワインを欲する肉系洋食として紹介するつもりだったが、実は先日、フードコラムニストの門上武司さんからこんな話を聞いてしまった。今夏より、話題の静岡・焼津の『サスエ前田魚店』から定期的に駿河湾の幸が届いているのだそうな。特に初夏のアジは素晴らしく、そのフライが感動的だったと興奮気味に教えてくれた。写真を見たら断面がレアだった! うー、食べたい。来年の初夏までお預けとは……残念すぎる。けれど、この時季から揚がるキンキや寒鯖なんかも駿河湾から届くのだろう。それらを楽しみつつ、初夏を待とう。


 実は朗報がもう一つある。『洋食おがた』で、とびっきりのサービス精神を発揮していた野呂和美さんが、この夏、独立。二条に『 リストランテ野呂 』をオープンさせた。名物は、メンチカツ。デミグラスソースとバルサミコ酢の……いや、これ以上は書くまい。「あまから手帖」11月号の発売前だった。10月23日発売、詳細は115ページに。イタリアンだが、ちょいちょい洋食もオンメニュー。むろん、飲める洋食だ。



中本由美子

「あまから手帖」4代目編集長。1970年生まれ、名古屋育ち。青山学院大学経済学部を卒業後、「旭屋出版」にて飲食店専門誌を編集。1997年、(株)クリエテ関西に転職。「あまから手帖」編集部に在籍する。2001年フリーランスに。「小宿あそび」「なにわ野菜割烹指南」などのMOOK・書籍を担当後、2010年、「あまから手帖」編集長となる。

あまから手帖

1984年創刊。関西の“大人の愉しい食マガジン”として、飲食店情報を軸に、食の雑学、クッキングなど関西の“旨いもん”を広く紹介する月刊誌。最新号は11月号「御堂筋線かぶりつき」。MOOK「京都 昼の100選」も好評発売中。



(中本 由美子)

文春オンライン

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