親子がハマる小学校の『デカめの水たまり』とは? 新入学家庭が知っておくべき大後悔しないための【5つのコツ】
2021年10月13日(水)13時7分 マイナビ子育て
小学校への入学を前に、『小1の壁』という言葉に不安を覚えるパパ・ママは多いことでしょう。子どもの小学校入学をきっかけに、仕事と子育ての両立が難しくなってしまうなどの「壁」を乗り越えるために、その実態と対策について子育てアドバイザーの高祖常子さんにお話を伺いました。
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小学校入学で何が『壁』になる?
——『小1の壁』という言葉は有名ですが、実際にはどんなことを指すのか知らないパパやママもいると思います。『小1の壁』は小学校への入学をきっかけに、仕事と子育ての両立が難しくなることと考えていいでしょうか?
高祖常子さん(以下、高祖) そうですね。どういったことを「壁」と感じるかは、ご家庭によって違いがあるかと思いますが、多いのは「仕事と子育ての両立の問題」を困難に感じることでしょう。
■『小1の壁』に陥りやすいケースの例
✅ 時短勤務ができない、しづらい✅ リモートワークさせてもらえない✅ 残業が多い✅ 夜間の仕事、土日の仕事がある✅ 家事・育児がワンオペ
高祖 パパ・ママ両方が仕事の融通がききにくかったり、単身赴任などで家事・育児の夫婦協力体制を取るのが難しい場合などは特に、子どもの小学校入学によって困難さを感じやすいでしょう。
タイムスケジュールで『壁』を洗い出してみよう
高祖 とはいえ、どんな場面でどんなことが『壁』になりうるか、具体的にはわかりませんよね。それを把握するため、まずは家族みんなの1日のタイムスケジュールから考えてみましょう。
——家族の1日のタイムスケジュールを作ると、どんなメリットがありますか?
高祖 タイムスケジュールには・親と子どもはそれぞれ何時に家を出るのか・親と子どもはそれぞれ何時に帰ってくるのかなどを書き出して“見える化”します。
▲記入例
高祖 低学年のうちは、まだ長時間1人きりで過ごすことは避けたいところ。タイムスケジュールで「子どもが1人になってしまう時間帯」を見つければ、そこをどうすればいいか考えやすくなります。漠然とした不安が明確になり、対策を立てやすくなるのです。
また、書き出すうちに・登校班はある? 集合時間はどこに何時?・学校は何時から登校できる?・学童の時間延長は当日でもできる?などの確認しなければならないこともリストアップできるので、それらをひとつずつ片付けていくこともできます。
見えてくる、保育園時代とのギャップ
※画像はイメージです
——保育園に比べると、小学校で過ごす時間は2〜4時間も短く、その上半日で学校が終わる日もあれば、夏休みなどの長期休みも……。学校と家庭以外の「子どもが過ごす場所」が重要ですよね。
高祖 放課後は放課後児童クラブ(いわゆる学童保育で厚生労働省管轄)を利用している場合が多いですね。さらに放課後児童クラブの4割は18時30分に閉所します[*1]。
——会社で働いていると、18時30分までに親が迎えに行ったり自宅に帰るのは大変ですからね。
高祖 だから民間学童保育を利用する人もいます。民間学童保育は利用料が高いですが、送迎をつけられるところも多いんですよ。
——地域によっては学童保育を使いたいお子さんが多すぎて、学童保育に入れないケースもあると聞いたことがあります。預け先を探す時点でハードルが高いのは大変そうです。
[*1]「令和4年(2022 年)放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」厚生労働省
小学校入学で起こる「親子の困りごと」とは?
——『小1の壁』で起こる“困りごと”について、具体的に教えてください。
パパママ|家も職場も回らず、よぎる「退職」の2文字
※画像はイメージです
高祖 一番多いのが、子どもを預けられない時間が増えることで、家庭も仕事もうまく回らなくなることですね。会社が決めた時間帯に合わせて絶対に働かなくちゃいけない、同僚に迷惑をかけちゃいけない、とがんばりすぎてしまって、その結果家庭と仕事が両方傾いてしまい、それならば……と退職したり時短にする人は結構多いんです。
——仕事を続けていても、勤務時間が足りなくなって昇進しにくくなるケースもありそうですね。あとはお子さんのお世話が不十分になったり。
高祖 そう、それで突然仕事を辞めちゃう親御さん、特にママは少なくありません。パパよりもママの方が「子どものことは自分がどうにかしないと」って思考になりやすいんですね。「私が」時短にしなくちゃ、「私が」もっと早く帰ってこなくちゃ、というふうになって、追い詰められてツラくなっちゃう。
子ども|劇的な「環境の変化」に戸惑うことも
——小学校に入学してから、お子さんが精神的に不安定になるケースもあるようです。
高祖 保育園から小学校に移って、一番生活が激変するのは子ども自身です。もちろん子どもによっては入学からの新しい生活にすんなりなじんで、トラブルが起きない子もいます。一方で、家の中で子どもがぶっきらぼうになったり、学校や学童保育で暴れたり、逆にお調子者になったり、そこまでいかなくても淋しがることもあるかもしれない。
家で子どもがいつもと違う様子を見せたとしても、それは学校や学童など家の外でがんばってるからだし、親を信頼しているからそういう自分を見せている、っていうのはあるんですよ。ママやパパは自分を責め過ぎないようにしてくださいね。
※画像はイメージです
——保育園と小学校では「先生と子どもの関わり方」が違うことは大きいんでしょうか。
高祖 確かに、保育園や幼稚園に比べると、小学校では集団行動が増えますからね。お子さん1人1人を細やかにケアするのは難しくなります。
——他にも、親の留守中に自宅が子どもの友だちのたまり場になる、親自身が忙しくて余裕をもって子どもに接することができなくなる、という話も聞いたことがあります。あと、せっかく学童保育に入ったのに子どもが行きたがらなくなったりとか。
高祖 そうですね。子どもの成長や発達で、壁と思っていた問題が解決することはあるし、一時的に新しい問題が起こることもあるんです。
『小1の壁』を乗り越えるためにやるべき“5つのこと”
——『小1の壁』を乗り越えるには、どんなことをしていけばいいのでしょうか。
① 大人だけでなく「子どもにも相談」する
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高祖 まず、パパやママだけでどうするか決めるんじゃなくて、子どもにも相談しましょう。
——子どもにも相談するのは、盲点でした!
高祖 子どもも幼いなりに、放課後にどう過ごしたいか、親がいない朝にはどうしたいかなどの希望や思いはあるんですよね。子どもに相談してみたら、「友だちと登校したい」「一緒に登校するって約束してる」と、親が想定していないやり方を言い出すかもしれません。そうしたら、友だちの親と相談した上で、「家を早めに出てお友だちの家に迎えに行かせ、一緒に登校してもらう」というやり方も見えてくる。
また、親が「朝、子どもが一人でカギをかけて家を出るなんてムリ」と思い込みで壁を感じていたとしても、お子さんは壁とは感じていないこともあります。1〜2ヶ月だけ親が会社と相談して出勤時間を遅らせて、登校する時にカギをかける練習を続けさせたらできるようになったり。
だから、親だけでカッチリと『小1の壁』の対応策を組み立て過ぎない方がうまくいくと思います。親が学童保育に預けられるように手続きを済ませてホッとしていても、子どもが学童保育に行きたがらなくなるのもよくあることですし。
② ダメと思い込まず「会社に相談」してみる
高祖 『小1の壁』は仕事と深く関わっている問題ですから、「辞める or 辞めない」という0か100かで悩む前に、働き方を会社に相談してみるのもおすすめです。
たとえば、「子どもが小学校入学後しばらくの間、出勤時間を15分だけずらしたいのですがどうでしょうか」「30分早めに出勤して、その分退勤を早くさせてもらえるとありがたいです」というふうに相談してみてもいいと思います。
『小1の壁』というと、まるで小学校6年間ずっとその状態が続くように錯覚してしまいますが、そうではありません。期間は子どもが慣れるまでの数ヶ月間だけなど、限定的でも大丈夫なのです。また、時間も数時間単位ではなくても対応可能なことも多々あります。
——会社に迷惑がかからないかとか、断られたらどうしようとか思ってしまい、相談を躊躇するひともいそうです。
高祖 仕事を辞めたり転職する方が、相談するより大変です。だからまずは相談した方がいいと思うんです。
会社は、社員が「困っているので働き方を変えたい」と相談してこなければ、勝手に色んな働き方を用意してはくれないんですよね。だからフレックス制にしたい、在宅勤務にしたい、時短勤務したい、など社員の方から希望を伝えてみてほしい。会社に状況を理解してもらえれば、柔軟に対応してもらえる可能性はあるのです。会社としても、急に辞められて新しく人を見つけて採用するよりは、働き方が変わってもスキルがある人に今後しっかりと長く働いてもらった方がいいはずですから。
③ 一人で背負わず「サポートの選択肢」を増やす
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高祖 先ほどの1日のタイムスケジュールをもとに、・子どもが何時から何時までに1人になる?・宿題はどのタイミングでやる?・お風呂や夕食のタイミングは?・買い物は? 帰宅途中にできる?・子どもは何時に寝る?などを考えて、当てはめてみましょう。そうすると、どうしても今までのやり方や自分だけの力ではどうにもならないことも出てきます。
——そうなると、仕事を辞めることが頭をよぎってしまいますね……。
高祖 それはできるだけ避けたいところです。まずは夫婦で協力し合い、仕事時間を融通し合うのはもちろんのこと、地域のファミサポさんに子どもが自宅に1人になる時間帯だけ一緒にいてもらったり、登下校や学童保育への送り迎えをお願いしたり、近所の信頼できる方に事情を話して子どもがカギをかけられたかどうかだけ見てもらうとか……。いろんな人に相談して借りられる手は借りて、選択肢をできるだけ増やしましょう。
——自分だけ、自分たちだけでどうにかしようとしない方がいいんですね。
高祖 そうですね。選択肢が限られると、「こうしなくてはいけないのに、できない! つらい!」と追い詰められやすくなりますから。家族で相談して、人やサービスの手を借りたり相談しながら、自分とみんながハッピーになれるやり方を見つけてほしいんです。
④ 親同士で「情報交換」できるようにする
高祖 小学校に入ってからはママ友さん、パパ友さんとも連携してお互いに協力できたらいいですね。
——子どもを預かり合ったりするということでしょうか? 気を気を遣ってしまってなかなかそこまではできそうにないです……。
高祖 子どもを預かり合えるのもいいんですが、そこまでしなくても、同じ園に通っていて今度同じ小学校に入る親同士で情報交換のためのLINEグループを作っておくとか、同じ小学校に行く子の親を紹介してもらうと、小学校やクラスの情報を共有できて心強いですよ。
——そういえば出先でノートを買う時、学校で使っている種類がわからなくてママ友に連絡して聞いたことがあります!
高祖 そうそう、そういう情報交換ができるだけでも助かります。入学したての頃は、子どもが親にうまく説明できなかったり、配布物を持ち帰らなかったり、連絡帳がきちんと書けなかったり……は、“あるある”ですね。だから・こんなプリントが配られたけど、持って帰ってきた?・しばらく休んでたけど、明日何持っていけばいい?・うちのクラスは図工でこんなものを準備するように言われたよ!・子どもの説明があやふやなんだけど、〜〜ってどういうことか知ってる?など、同級生の親との「横のつながり」がとても助かります。
もし、同じ園の知り合いがいなければ、保護者会で話した親同士で連絡先を交換しておくのもいいですね。
⑤ 子どもと「リラックスして会話」の時間をとる
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高祖 小学校に入学する4月は、会社の年度替わりの時期でもあるので、親も忙しくしていて子どもの様子に気づきにくいこともあるでしょう。
「子どもがなにも言ってこないから大丈夫だろう」と思うかもしれません、自分から言い出すのは難しいものです。かといって、刑事ドラマの聞き取りみたいにすごい勢いで「学校はどう?」「友だちはできた?」「勉強は難しくない?」って親が聞いても、子どもは話しにくいんです。
なので、話しやすくなる環境づくりが必要となります。
——話しやすくなる環境とはどんなものでしょうか?
高祖 親子で緩やかな時間を作ると、子どもから話がしやすくなりますよ。
帰宅後、親子で並んで洗濯物を畳んだり、夕飯の食材の皮むきとかを手伝ってもらうのは結構おすすめです。仕事でも、みんなでひたすら書類をセットしながらの会話なんかは、取り留めもないことを話しやすく、リラックスできますよね。家でもそういうふうに、何かやりながらしゃべるといいですよ。日頃から「いつでも聞くから、なんでも話してね」と伝え、その機会もそれとなく作れるといいですね。
——それはいいですね。でも、ゆっくりお手伝いを頼めないくらい忙しい場合はどうしたらいいでしょう?
高祖 学童保育から一緒に歩いて帰ったり、習い事などに車で送迎する時でもいいと思います。一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったり、一緒に寝る時でもいい。問い詰めたり強く聞き出そうとしないで、親が気持ちに隙を作ってゆったり子どもとの会話を楽しんでいると、ぽろっと子どもの本音が出たりする。そうしたら、子どもの言ったことを「〜〜だったのがいやだったんだね」と繰り返したり、「あなたもがんばってるね」と受け止めたりして、じっくりと聞いてあげてください。
『壁』ではなく『水たまり』ぐらいにとらえて
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高祖 『小1の壁』という言葉を聞くと、まるでどうにも揺るがない障害物があり、困難な状態が今後ずっと続くのだと不安になってしまう人もいるでしょう。
でも、忘れないでください。もし小学校入学とともになにか問題に直面しても、子どもも親も今のままではありません。家族が成長し、順応することで解決することもたくさんあります。
最初はちょっと大変かもしれないけれど、飛び越える方法があり、飛び越えずとも迂回したり、実際に踏み出してみたら意外に浅かったり、時間が経てばいつしかそこにあったことさえも忘れてしまうような……それは、『小1の水たまり』と言った方がいいのかもしれません。
最初の困難はだんだん自然に蒸発して消えていきますが、これからの小学生活で「初めは喜んで行っていた学童を辞めたいと言う」など、入学時にはなかった新たな『水たまり』ができることもあるでしょう。
子育てにまつわる悩みは「親自身が考え、乗り越えなくては」と思いがちですが、子どもには子どもの視点もあります。小学校に入学すると、親よりも子どもの方が生活が大きく変化します。家を出て、慣れない環境で楽しくもひたむきに過ごして帰ってきた子どもたちは、想像以上に疲れてます。ぜひ子どもの話にもゆっくり耳を傾けつつ、自分たち親子らしい「水たまりの攻略法」を探してみてください。
——子どもの視点、大事ですね。親と子どもで感じたこと、希望や悩みも話し合いながら、『小1の壁』対策だけじゃなくこれからの働き方や親子の接し方も考えていきたいと思いました。ありがとうございました。
(話:高祖常子、取材・文:大崎典子)