天狗が棲む山岳信仰の聖地、滋賀の太郎坊・阿賀神社、勝運を招く知られざるパワースポット

2024年10月15日(火)8時0分 JBpress

取材・文=吉田さらさ 写真提供=太郎坊・阿賀神社


修験者は天狗と見なされ、太郎坊と呼ばれた

 滋賀県は奈良や京都に近く、琵琶湖が水運の要衝であった。日本海を渡ってやってきた渡来人が多く住んだところでもあるため、由緒の古い寺社仏閣がたいへん多い。私もこれまで何度となく足を運んだが、まだまだ訪ねるべき寺社が残っている。今回は、その中のひとつ、東近江市の太郎坊宮を訪ねた。

 電車で行く場合は、近江鉄道の太郎坊宮前駅で降りるとすぐ、最初の鳥居がある。このあたりからすでに、この神社がある岩峰太郎坊山(赤神山)も見えてくる。標高は357.2mとさほど高くはないのだが、おにぎり型の山頂がつんと聳え、岩肌がむき出しになっているところが多く、なかなかの迫力である。その中腹あたりに何やら巨大な建造物も見えるが、それが太郎坊の建物のひとつ、参集殿だ。

 二つ目の鳥居の先に石段があり、742段登れば本殿に行けるが、この石段は急こう配でかなりきつい。足腰に自信のない方は車で参集殿の少し下にある駐車場まで行く方法もある。わたしは迷わず後者の道を選択。石段はここからも続いており、本殿まであと260段。表参道と裏参道があり、反時計回りに本殿まで行って戻って来るのが一般的ルートだ。

 ここでご由緒の話をしておこう。創祀はたいへん古く、今から1400年前と伝わる。岩肌が露出した神秘的な山容の赤神山は神が宿る場と信じられ、山自体をご神体とする山岳信仰の聖地とされていた。

 この山で修行をする修験者は天狗と見なされ、太郎坊と呼ばれた。それがこの神社の呼び名となったのだが、正式名称は阿賀神社である。境内のあちこちには、願掛け天狗など、天狗をキャラクター化した像がある。天狗の姿をした『飛び出し坊や』の標識も見かける。ちなみに、みうらじゅん氏に注目されて全国的に有名になった飛び出し坊やの標識は、滋賀県のこの地域の発祥とされる。

 長い歴史の中で、著名な人物の崇敬も受けてきた。聖徳太子はこの神社の霊験あらたかさを知り、国家の安泰と万人の幸福を祈願しにやってきた。実は東近江一帯は聖徳太子がやってきたという伝承が広く伝わる地域なのである。

 時は流れて平安時代の初期、天台宗の開祖、伝教大師最澄もこちらに参籠した。その後この神社では山岳信仰、神道、仏教が混然一体となった独特の信仰形態が確立されていった。源義経もこちらに参詣したと伝わっている。義経は源氏興隆を祈念するために訪れ、その折に座した「義経公腰掛岩」と呼ばれる石も石段の脇に現存する。聖徳太子、最澄、義経とは、なかなか凄い顔ぶれである、

 祭神は正哉吾勝勝速日天忍穂耳大神(マサカアカツカチハヤヒアメノオシホミミノオオカミ)。一度聞いただけでは覚えられないようなお名前だが、天照大神の第一の御子神で、「まさに勝った、私は勝った。朝日が昇るように鮮やかに、速やかに勝利を得た」という須佐之男命の言葉が元になっているという。このことから、この神社には勝運のご利益があるとされる。そのためビジネスマンやスポーツ選手のお参りも多く、勝守りも授与されている。


太郎坊詣でのハイライト「夫婦岩」

 石段を登り詰めたところに、太郎坊詣でのハイライトとも言える巨岩「夫婦岩」がある。高さ数十mの巨大な岩盤が二つ並んでおり、昔、神様がそのお力でひとつの岩を左右に押し開いたものと言われている。

 実際には、太古の昔に何らかの自然の力によって割れたものであろうが、その神秘的な姿を見ると、自然とは神の意志のことなのかも知れないと思えて来る。巨岩の隙間は幅約80cm、高さ約12m。ここを通って本殿に参詣できれば病苦が取り除かれ、所願が成就するが、悪い心がある者は岩にはさまれてしまうと言われている。心を鎮め、願いごとをしながら通ろう。

 夫婦岩を抜け、石段を昇ると御祭神が鎮座する御本殿がある。京都の清水寺本堂と同じ懸け造りで、舞台からの眺めが素晴らしい。天気がよければ鈴鹿山脈や奈良県の山々まで見えるという。すぐ下に広がる平地は古くは蒲生野と呼ばれていた。古代には大和王権の御狩場だったところで、額田王が「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」という歌を詠んだのもこの場所だ。現在は豊かに作物が実る田園地帯となっている。

 そこから裏参道と呼ばれる石段が続く。傍らの七福神像にお参りしながら下っていくと、一願成就社がある。参拝者自らが願掛け神事をするところで、特に病気平癒、受験合格などの祈願をする人が多い。天井には蒲生野に咲く四季の花々を描いた美しい天井ががある。この社の脇からお百度詣での道に入ることもできる。

 最後に、下界からもよく見える巨大な建物、参集殿について。ここは研修道場として建てられたもので、結婚式や披露宴、各種の展示会などにも使われている。1階には百畳敷きの大広間があり、窓から湖東平野を見渡すことができる。茶道体験、香袋作りなど、気軽に参加できるイベントも数々行われている。

 中でも興味深いのは、おまもりづくり体験だ。100種類以上の袋が用意されており、好きな袋と好きな色の紐を選び、神様のみたまと願いごとを書いた紙をその中に入れて、オリジナルのお守りを作る。これにより、おまもりをより身近に感じて大切にする人が多いという。

 毎年春には、参道の桜が見事に咲き誇り、参集殿の立派な姿が映える。四季ごとに美しく、楽しいイベントも多い太郎坊。ぜひ一度出かけてみて欲しい。

筆者:吉田 さらさ

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