急速に進化した慢性腎臓病の治療。専門医「1983年に人工透析の開始年齢は平均52歳だったが今では…」注目すべき<新薬>と<運動療法>とは?

2024年10月19日(土)6時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

日本の20歳以上の慢性腎臓病(CKD)の患者数は、約1480万人と推定されるそう。腎臓は「沈黙の臓器」と言われ、気づかないうちに悪化してしまうおそれがありますが、東北大学名誉教授の上月正博先生は「かつて<不治の病>とされてきた慢性腎臓病は、運動と食事で<治せる病>になりつつある」と語っています。そこで今回は、上月先生の著書『腎臓の名医が教える 腎機能 自力で強まる体操と食事』から一部引用、再編集してお届けします。

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腎臓病の治療は急速に進化している


健康に長生きするためには、慢性腎臓病は警戒すべき病気です。

幸いなことに、慢性腎臓病への治療は急速に進化しています。慢性腎臓病は早期に発見し、治療を進めれば、もう不治の病ではないのです。

運動療法もその大きな進化の一つですが、ほかにも進展が見られます。その一つが、人工透析を開始する時期の変化です。

例えば、1983年の人工透析の開始年齢の平均は52歳でした。

それが、2021年には、平均71歳になっています。この40年で、20歳近く開始年齢が遅くなりました。

腎臓の治療が効果を上げるようになり、人工透析の開始時期を遅らせることが可能になったのです。

生活習慣病との関係


また、人工透析を受ける患者さんの平均年齢も、後退しています。

やはり1983年、患者さんの平均年齢は48歳でした。それが、2022年には、71.42歳です。40年前に比べて、なんと23年も平均年齢が長くなりました。


『腎臓の名医が教える 腎機能 自力で強まる体操と食事』(著:上月正博/徳間書店)

治療薬の進展があり、人工透析を受ける人の健康状態のコントロールができるようになったのです。40歳代で亡くなるような例は少なくなり、多くの人が長生きできるようになりました。

慢性腎臓病は生活習慣病と密接につながっています。持病の生活習慣病が悪化すれば、腎機能にも悪影響が及びます。

高血圧、糖尿病、脂質異常症という生活習慣病の治療のために有効な薬が生まれ、使われるようになりました。投薬治療によって、生活習慣病が改善する人が増えたのです。

その結果、腎臓の状態にもいい影響を及ぼすようになりました。

注目すべき2つの新薬の効果


最近では、生活習慣病の治療薬だけではなく、腎臓病自体に働きかける薬が出てきました。ここで、代表的な新薬を2つ紹介しておきましょう。

(1)SGLT2(エスジーエルティツー)阻害薬
(2)HIF(ヒフ)—PH(ピーエイチ)阻害薬

一つめのSGLT2阻害薬は、もともと糖尿病の治療薬です。それが、慢性腎臓病にも効果があることがわかり、保険適用されるようになりました。

SGLT2という物質は、腎臓の尿細管という場所で、体に必要なブドウ糖やナトリウムを再吸収する働きをしています。SGLT2阻害薬は、この再吸収を阻害します。

これによって、余分なブドウ糖が再吸収されずに尿として排出されるため、血糖値を下げるのです。

この尿細管でブドウ糖が再吸収される際、酸素を消費します。このため、再吸収量が増えると、酸素をたくさん使ってしまい、腎臓が低酸素状態に陥ります。

そして、低酸素状態に陥った腎臓の組織が繊維化していくのです。繊維化が進むと、腎機能が低下し、腎不全が起こりやすくなります。

この阻害薬によって再吸収を抑制すると、腎臓の低酸素状態が回避されるため、繊維化による腎機能の悪化を防ぐとされています。

SGLT2阻害薬は飲み薬です。慢性腎臓病の初期段階から、これを服用することで人工透析を回避したり、透析の開始時期を遅らせたりすることが期待できます。

HIF−PH阻害薬の効果


HIF−PH阻害薬は、慢性腎臓病が原因で起こる貧血を改善する薬で、こちらも保険適用になっています。

腎臓では、赤血球の産生を促す「エリスロポエチン」というホルモンが作られています。

慢性腎臓病によって腎機能が低下すると、エリスロポエチンの産生が不足し、必要な赤血球が作られないため貧血になります。こうした貧血を「腎性貧血」といいます。

HIF−PH阻害薬は、腎臓のエリスロポエチンを作る機能を改善させ、赤血球の不足や貧血を改善する効果をもたらします。

腎性貧血が起こると、動悸や息切れ、立ちくらみ、疲労感といった貧血の症状が起こってきますが、HIF−PH阻害薬はこれらの症状の改善にも役立つのです。

HIF−PH阻害薬も飲み薬であるため使いやすく、さまざまな貧血症状に悩む患者さんの助けとなっています。

慢性腎臓病による貧血の症状にお困りの人は、ぜひ担当医師に問い合わせてみるといいでしょう。

腎臓が弱ってきたら運動習慣は必要


慢性腎臓病の治療における、もう一つの大きな進化が、運動療法です。腎臓リハビリの主要な構成要素である運動療法を習慣化することが、慢性腎臓病の予防や改善に役立ちます。

腎機能が基準値以下に低下しているが、人工透析には至っていない時期の患者さんを、「保存期慢性腎臓病患者」と言います。

保存期においては、現段階で残されている腎臓の機能をキープし、悪化をできる限り防ぐことが目標となります。

すなわち、人工透析に至らないようにする、もしくはその時期を遅らせることです。そのために、運動が有効であることがわかっています。

安静第一にしていると、患者さんが運動不足からサルコペニアやフレイルに陥りがちでした。サルコペニアも、フレイルも、慢性腎臓病の悪化要因です。その予防に運動が効果を発揮します。

また、低栄養状態を予防することもできます。運動の習慣化によって活動量が上がれば、当然ながらお腹も減ります。それが健康的な食生活を呼び込むのです。

こうした人たちにとって運動は、以下の4つの意味を持ちます。

・保存期慢性腎臓病患者の運動の効能
(1)運動で腎機能は悪化せず、むしろ改善する
(2)人工透析への移行を防止するための治療法として必要
(3)運動が心血管疾患の予防に有効
(4)サルコペニアやフレイル、低栄養状態の予防に有効

人工透析を受けている患者さんの運動の効能


また、人工透析を受けている患者さんにとっても、運動は重要です。

これまでは、人工透析を続けているうちに足腰がどんどん弱り、サルコペニアやフレイルを発症し、ついには車イスに頼るという人がかなりいました。

足腰が弱るのを防ぎ、人工透析の効率を上げるのに、運動が効果的であることを多くのデータが示しています。

高齢の患者さんが陥りやすい低栄養状態を予防するのにも、運動が役立ちます。

こうした人たちにとって運動は、以下の4つの意味を持ちます。

・人工透析を受けている患者さんの運動の効能
(1)運動で人工透析の効率が上がる。疲労も残らなくなる
(2)ADL(日常生活動作)の改善、降圧薬を減らし、心不全治療のためにも有効
(3)運動が心血管疾患の予防に有効
(4)サルコペニアやフレイル、低栄養状態の予防に有効

保存期の人や人工透析を受けている人は、心血管疾患に健常者よりもかかりやすいとされますが、心血管疾患の予防にも運動が有効であることがわかっています。

※本稿は、『腎臓の名医が教える 腎機能 自力で強まる体操と食事』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

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