卒業15年後の平均年収<バブル世代>477万円、<氷河期後期世代>415万円。「卒業後の年数がたつほど世代間の差は広がり…」

2024年10月24日(木)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

1990年代半ばから2000年代初頭に就職活動をした「就職氷河期世代」は、2024年時点で30代の終わりから50代前半にあたります。今も多くの問題を抱えており、厚生労働省が様々な支援を続けています。このような状況のなか、労働経済学を専門とする近藤絢子教授は「コロナ禍の経済活動への影響が落ち着いた今、改めて就職氷河期世代に目を向けなおすべき」と語っていて——。そこで今回は、近藤教授の著書『就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差』から一部引用、再編集してお届けします。

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就業状態の推移——世代間の差は徐々に縮まる


就職氷河期世代が学校を卒業後、現在に至るまでの就業状態や年収の推移を、「労働力調査」(総務省統計局)や「賃金構造基本調査」(厚生労働省)のデータで見ていこう。

図1−1は、労働力調査の特定調査票(2001年以前は特別調査)のデータを集計して、各世代の男性の、卒業後の就業率の推移を学歴別にプロットしたものである。

世代の定義は、バブル世代(87〜92年卒)、氷河期前期世代(93〜98年卒)、氷河期後期世代(99〜04年卒)、ポスト氷河期世代(05〜09年卒)、リーマン震災世代(10〜13年卒)である。

学校卒業年の翌年から15年分(ポスト氷河期世代以降は一番若い学年が2022年現在到達している年数)をプロットした。

図1−1を見てまず目につくのは、どの学歴でも、バブル世代は一貫して他の世代よりも就業率が高いことだ。

一般的に男性は、卒業直後の就業率は壮年期よりもやや低く、数年かけて上がった後は高い水準で安定するが、バブル世代は卒業直後から他の世代よりも就業率が高く、その後もずっと高いままである。

卒業直後の就業率が次に高いのは氷河期前期世代で、最も低いのは氷河期後期世代、ポスト氷河期世代とリーマン震災世代はその間にくる。

ただし、就業率に関してはおおむね5年目くらいで氷河期前期世代の水準には追い付く。これは、そもそも欧米と比較して、日本の30代男性の就業率は高いためだ。

最も低い氷河期後期世代の高校卒でも90%近く、大学卒では95%を超えている。

就業率が100%を超えることは定義上ありえないので、世代の差はそれほど大きくならない。

人口に占める正規雇用者の割合


同じ要領で、人口に占める正規雇用者の割合をプロットしたのが図1−2である。


<『就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差』より>

バブル世代が一貫して他の世代より高いことと、卒業直後の水準が次に高いのは氷河期前期世代で、最も低いのは氷河期後期世代である点は就業率と同じだ。

ただし、就業率以上に氷河期前期世代と後期世代の差が大きく、しかもポスト氷河期世代やリーマン震災世代は氷河期後期世代とほとんど差がない。

また、就業率と比べて、氷河期後期以降の世代が氷河期前期世代に追いつくまでの時間も長く、高校卒に関しては15年後もまだ追いつけていない。

バブル世代と氷河期前期世代、氷河期前期世代と後期世代の間に明確な差があり、ポスト氷河期世代やリーマン震災世代が氷河期後期世代と前期世代の間の後期世代寄りにくる。


『就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差』(著:近藤絢子/中央公論新社)

図1−2から新たにわかるのは、この世代間の差が、卒業後かなりの年数持続するということだ。

なお、特に年長の世代で正規雇用比率が右下がりになっているのは、年齢を経るにつれて徐々に自営業者が増えていくためであり、非正規雇用が増加しているわけではない。

卒業後1年目に自営業に就く割合は最も多いバブル世代で3.7%程度だが、卒業15年目には13.7%にまで増加する。

年収の推移——世代間の差は縮まらない


図1−3は同じ要領で年収をプロットしたものだ。


<『就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差』より>

労働力調査からは、年収は50〜100万円とか700〜1000万円といった階級しかわからないため、各階級の中央の値を取り、2015年基準の消費者物価指数で実質化した。

働いていなかったため年収がゼロの人は、ゼロとしてデータに含まれている。

就業率や正規雇用比率と同様に、年収も、バブル世代は他の世代よりも明らかに高い。次が氷河期前期世代で、氷河期後期世代になるとさらに下がる。

一方で、氷河期後期世代とそれ以降の世代の間にはほとんど差がない。

年収が就業率や正規雇用比率と違うのは、卒業からの年数がたっても、必ずしも差が縮まっていかない点だ。

高校卒の氷河期前期世代と後期世代の差や、大学・大学院卒のバブル世代と氷河期前期世代の差などは、むしろだんだん拡大していくように見える。

ちなみに、卒業15年後の段階で全学歴の平均値を比べると、バブル世代の平均年収は477万円なのに対し、氷河期後期世代は415万円と、62万円も差がついている。

月あたりにして5万円、かなりの差である。

正規雇用の年収にも差がついている


一方、氷河期後期世代と、もっと若い世代の間の差は、データの取れる範囲ではおおむねプラスマイナス10万円の幅に収まっている。

年収の世代間格差の一部は、就業率や正規雇用比率の格差によるものだ。就業していなければ年収はゼロになるし、正規雇用よりも非正規雇用のほうが、平均的な年収が低いからだ。

しかし、卒業から10年以上たっても世代間の差が縮まらないのは年収だけであることから、正規雇用で働いている人たちの年収にも差がついていて、それが年齢とともにむしろ拡大していることが示唆される。

フルタイム雇用者のみの別のデータを用いても、やはりバブル世代、氷河期前期世代、氷河期後期以降の世代、の順で年収が低くなり、卒業後の年数がたつにつれて世代間の差が広がっていく。

まとめると、年収についても、バブル世代と氷河期世代に差があるだけでなく、氷河期世代の中でも前期と後期で差がある。

その反面、若年労働市場が逼迫(ひっぱく)したと言われている時期に卒業したポスト氷河期世代は、氷河期後期世代とあまり変わらず、氷河期前期世代よりも低い水準にとどまっている。

また、就業率や正規雇用比率と異なり、年収の世代間格差は歳をとっても縮まらないという特徴がある。

※本稿は、『就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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