留学生抜きで出雲4位に入った創価大、全日本大学駅伝でも「台風の目」になる予感十分…その要因は?
2024年10月30日(水)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
留学生不在のレースに奮起
10月14日の出雲駅伝で今季の三大学生駅伝が幕を開けた。國學院大が5年ぶりの優勝を飾ったレース。順位以上に評価できる戦いを見せたのが4位に入った創価大だろう。
3区を予定していたスティーブン・ムチーニ(2年)が欠場。榎木和貴監督が就任して以来、初めて留学生不在の駅伝になったが、チームは奮起した。
1区石丸惇那(3年)がトップと26秒差の10位でスタートすると、2区吉田響(4年)が凄まじかった。序盤から突っ込んで、2.5km付近で早くも2位に浮上。4km過ぎにはトップに立って、後続を引き離す。そして14秒以上のリードを奪ったのだ。
レース前日の記者会見で、「3区ムチーニでトップに立つ展開ができればなと思っています」と榎木監督は口にしていたが、2区吉田で首位を駆け抜けた。
エースたちが集った3区には当初5区を予定していた山口翔輝(1年)が抜擢された。8日前の奥球磨駅伝でも起伏のある3区で区間賞を獲得した選手。中間点付近で青学大、駒大、國學院大の集団に飲み込まれると、上り坂で引き離されて4位に転落した。それでも区間7位でまとめて、ルーキーが大役を全うした。
その後は安定したレース運びを見せる。4区吉田凌(4年)が区間4位、5区黒木陽向(3年)が区間6位、6区小暮栄輝(4年)が区間6位。後続のチームを一度も前に出すことなく、4位でフィニッシュした。
この結果に榎木監督は、「ムチーニの欠場に選手たちは落ち込むことなく、むしろ日本人だけでも『やってやろう』という強い気持ちに切り替わりました。吉田響は期待通りに走り、3区山口も最後まで粘りのある走りをしてくれた。そして黒木と小暮が三大駅伝を経験できた。ベストメンバーを組むことはできませんでしたが、すごく自信を得た試合になったと思います」と手応えを十分につかんだ様子だった。
「山の神」候補が平地を快走
創価大、躍進の原動力となったのが吉田響の爆走だ。「山の神」候補が、スピード区間でも強さを発揮した。吉田が目指したのは佐藤圭汰(駒大)が保持する区間記録(15分27秒)の更新だった。
「佐藤君の記録を抜くために、キロ2分43秒6ペースで押していこうと思っていました」と吉田。最初の1kmを2分37秒でぶっ飛ばすと、出雲の最短区間にライバルはいなかった。暑さと向かい風に記録を阻まれたが、区間2位の選手に32秒差をつけるダントツの区間賞となった。
本人は「佐藤君の記録に程遠かったのは悔しいです」と納得していなかったが、「自分はロングが得意なんですけど、ショート区間でも走れることを証明できたのは自信になりました」と笑顔を見せた。
吉田は今季4レースに出場して、すべてで自己ベストを更新。特に5000mは13分39秒94と大幅にタイムを短縮している。誰かについていくのではなく、自分でガンガンと切り込んでいくのが魅力の選手だ。
「全日本も他大学のエースと張り合えるような走りをして勝っていきたい。箱根駅伝は5区で区間記録を塗り替えて、『山の神』と呼ばれるような存在になりたいです」
吉田響という“切り札”がいる創価大は11月3日の全日本大学駅伝でもレースを大きくかき乱してくるだろう。
伊勢路でも攻め込んでいく
全日本は出雲を走った6人に加えて、前回1区4位の織橋巧(2年)、同7区4位のスティーブン・ムチーニ(2年)らが入る構成になるだろう。夏に故障のあった小池莉希(2年)が間に合えばさらに面白くなる。
ムチーニは出雲の2日前に転倒。膝を打撲したが、全日本は万全な状態で臨めるだろう。前回は全日本がキャリア初駅伝で苦戦した部分があるが、箱根2区を経験して、今季は日本インカレ5000mで優勝した。1年前より明らかに力をつけている。
またムチーニが出雲を欠場したことで、山口翔輝が1年生ながらエース区間を担い、夏に新型コロナウイルスに感染した影響で「7割くらい」の状態だった黒木陽向(3年)にも学生駅伝の出番がまわってきた。
出雲駅伝で得た経験がチームの自信になっている。
「全日本は優勝を狙いつつ、最低限『3位以上』という目標をクリアしたいですね。できれば出雲でやりたかった展開に持ち込みたい」と榎木監督。全日本はアグレッシブな戦略で臨むことになりそうだ。
前回は2区で11位まで順位を落としているだけに、前回5区区間賞の吉田響を2区(もしくは3区)に起用する可能性が高い。1区次第では、出雲2区で区間2位に32秒差をつけた“絶対エース”でトップに立ち、主導権を握ることができる。
さらにムチーニを中盤区間に配置すれば、大量リードを奪うことも可能だ。後半区間はロードの安定感がある吉田凌(4年)、小暮栄輝(4年)、上りに強い野沢悠真(3年)らが控えている。
ムチーニが終わった時点で2分近いリードを確保できれば、後続のチームも追いかけるのは難しくなる。創価大の過去最高順位は5位。3回目の出場で“日本一”に手が届くかもしれない。
筆者:酒井 政人