マツコ・デラックスはなぜ本質を突けるのか

11月1日(木)6時12分 JBpress

「安いギャラでも出てくれるマツコ・デラックスは、MXのどこに魅力を感じているのかな」(田原)。 「ご本人によれば、『調子に乗るなよ』という自分への戒めだそうです」(大川)

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「下ネタありのトークバラエティ」だった『5時に夢中!』(東京メトロポリタンテレビジョン:TOKYO MX)は、次第に出演者のタブーなしの言論も注目されるようになってきた。だがテレビを含めた言論界は、権力とのなれ合いが目立つようになってきたと田原総一朗氏は危機感を募らせている。TOKYO MX 制作局長、大川貴史氏との対談の2回目をお届けする。タブーやクレーム、権力からの圧力にテレビはどう立ち向かうべきなのか。(構成:阿部 崇、撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)


売れっ子になったマツコがMXに出続ける理由

田原総一朗氏(以下、田原) はじめはお色気を売りにしていた『5時に夢中!』は、今では他の番組がやらない過激な言論が飛び交う場になっていますよね。いつ頃からそういうカラーを打ち出すようになったんですか。

大川貴史氏(以下、大川) 意図的にそういう方向にもっていったわけではなくて、番組をやっていくうち、自然にそうなったという感じです。レギュラー出演してくださっている北斗晶さんやマツコ・デラックスさんたちの言論が注目されるようになってきて、その結果、「『5時に夢中!』はタブーなしで、好きなことをしゃべれる場だ」という認識が、出演者にも視聴者にも浸透していったということですね。

田原 マツコ・デラックスっていま売れに売れてるわけだけど、彼女のどういうところが魅力だと思っていますか。

大川 人間に対しても、世の中の事象に対しても、鋭く本質を突く感性を持っている方だと思うんです。僕なんかを含め一般の人とは違う角度とか視点なんですけど、どこかで本質を突いているんだと思うんです。だから、マツコさんの言葉は人に届くっていうか、説得力があるんだろうなと感じています。

田原 自民党の女性議員が同性愛とかLGBTの人に対して、厳しい発言をして批判を浴びましたが、世の中的にはLGBTに対する差別や偏見ってまだまだあると思う。マツコさんも、差別されているという感覚はあるのかな。

大川 そう思いますね。田原さんは古巣の東京12チャンネルを「テレビ番外地」っておっしゃっていますけど、マツコさんも「自分の存在は番外地だ」と考えていると思います。

田原 なるほど。極めて少数派ということだ。

大川 ええ。そこの自覚があるから、言葉にすごく説得力が出てくるというか。

田原 逆になんでも言えるというわけね。

大川 はい。だから、普通のタレントさんであれば、あれくらい売れっ子になるとMXなんかはとっくの昔に出演するのをやめていると思うんです。だけど、いまでも出てくれているというのは本当に感謝をしているのですが、やっぱりMXの「テレビ番外地」という立ち位置が、マツコさんのスタンスとシンクロする部分があるからなのかなと・・・。これは僕の勝手な解釈ですけどね。

田原 売れに売れても出続けてくれるマツコに、MXはそれなりのギャラを出してるんですか。

大川 以前と比べたら出せるようになりました。といっても、たぶん他局さんの10分の1くらいのものだと思うんですけど。本当はもっとお出ししたいのですが、うちとしては精いっぱいの額ですね。

田原 マツコ・デラックスにしてみれば、安いギャラで出てくれているわけだ。MXのどこに魅力を感じているのかな。

大川 いや、これご本人が番組でおっしゃってたんですけど、「MXに出るのは自分への戒めだ」って言ってましたね。

田原 どういうこと?

大川 要するに、MXに出ることは、自分に対して「調子に乗るなよ」と知らしめるための行為だと。

田原 そういうことね(笑)。

『5時に夢中!』には堀江貴文さんも出ていますよね。

大川 はい。今でも月1で。

 堀江さんと僕、それにマツコさんも同い年なんです。要するに同じ年数を生きてきているわけですけど、堀江さんは全ての物事に対して、いつでも自分の見解をきちんと話すじゃないですか。その発言の内容には、時には間違ってることもあると思うんですけど、全てにおいてあれだけ語れるってこと自体が、すごいなって思いますね。

田原 堀江さんを番組に出し始めたのは、逮捕される前?

大川 前ですね。


ホリエモンを擁護したらナベツネ主筆と険悪に

田原 実は、僕は堀江さんが収監される時、対談の本を出したんです(『田原総一朗責任編集 ホリエモンの最後の言葉』アスコム刊)。

大川 そうでしたね。

田原 対談が終わったのが収監される前の日。

大川 そんなタイミングだったんですか。

田原 そう。最後に「さようなら、頑張って」「頑張ります」って言って別れた。で、翌日に収監です。だから実際の出版は堀江さんが収監中になりました。

大川 絶妙のタイミングですね。だったらかなり売れたんじゃないですか。

田原 いや、あんまり売れなかった(笑)。今は堀江さん、人気があるけれど、あの頃は人気なかった。

大川 ああ、そうでしたね。当時はどちらかと言えば嫌われキャラでしたよね。

 でも、田原さんは当時から堀江さんをだいぶかわいがっていらっしゃった。

田原 堀江さんはフジテレビを買収しようとしたでしょう。それでマスコミ各社のトップがみんなアンチ堀江になったんです。

大川 そうですよね。

田原 僕はそのときまで、読売新聞の渡邉恒雄(読売新聞グループ本社主筆)さんとしょっちゅう一緒に飯を食ってた。というのも彼と僕は、意見が一致する点が多いんです。彼も僕も、昭和の戦争は侵略戦争だと思っている。だから、天皇や総理大臣は、絶対に靖国に行っちゃ駄目。この点で一致するんですよ。

大川 なるほど。

田原 ところが堀江事件で、当然ながら渡邉さんはアンチ堀江でしょう。僕は堀江さんを支持した。これで渡邉さんと仲が悪くなったんです。

大川 堀江さんの一件がきっかけになったんですが。

田原 その堀江さんを、大川さんもずっと起用しているわけでしょう。彼はどこが面白い?

大川 すべての事象に独自の見解があるっていうことと、やっぱり正直、僕と同い年とは思えないぐらいの圧倒的な知識量と鋭さを持っている。それに、収監後はだいぶ力が抜けましたよね。そこも以前とは違った魅力になっていると思います。

田原 彼は、「好きなことをやるんだ」と言い切ってる。「いい仕事とか悪い仕事じゃない。好きなことをやるんだ」とね。

大川 そうなんですよ。だから、堀江さん自身が仕事や人生をすごく楽しんでいるんですよね。発言も、肩の力が抜けたものが多いので、その分、炎上することもあるんですけど、そのことも含めて本人が楽しんでいる感じがします。

田原 堀江さんはどういうときに炎上するんですか。

大川 そうですね、最近だと「新幹線に乗っているとき、シートを倒すのにいちいち後ろの席の人に断らなきゃいけないなんていう風潮が広まっているけど、これは行き過ぎだ」なんて言ったときにはそこそこ炎上していました。それに対して堀江さんがまた「炎上するぐらい極端なことを言わないと世の中って動かないんだよ」って発言したら、さらに炎上しちゃったりして。

田原 炎上するのは、MXとしてはどう?

大川 うれしいです(笑)。

田原 困らない?

大川 よっぽどのクレームは困りますけど、全く話題にならないのはもっと困ります。

田原 なるほど。MXはクレームにも理解があんだ。

大川 そう思います。


『朝生』出演陣にも少なくなったタブーなき論客

田原 炎上しなかったらMXなんて存在できない?

大川 個人的にはそう思いますね。上層部はどう考えているか分からないですけど。

田原 いや、多分上のほうもそう思ってると思いますよ。

 というのも、いまテレビが面白くなくなってきているでしょう。なんで面白くないか。テレビ局がクレームを怖がっているからなんですよ。昔は、クレームも電話で来たから担当プロデューサーが電話口で「すいません」って言っていれば収まった。

 でもいまはネットで来るから、プロデューサーだけじゃなく、編成部とか管理部門、あるいはいきなりスポンサーに行っちゃったりして大騒ぎになる。それが怖いから、いまのテレビマンはみんなクレームがこないうような番組を作るんですよ。

 大川さんはクレーム怖くないの?

大川 いや、怖いですよ。ただ、あまりクレームも来ないんです。逆にそれだけ世間に届いてないのかなと。番組が潰されるくらいのクレームがないということは、まだ世の中に対する影響力がさほどないということなんだろうなと。

田原 むしろクレームが来ればうれしいと。

大川 そうですね。潰れないくらいなら。

 ただ田原さんみたいな根性はまだ僕にはないと思います。『朝まで生テレビ!』が始まったのは僕が高校生の頃でしたが、もう毎回楽しみで、高校生ながらに「すげえな」と思ってみていたわけです。でも今の自分には、まだあれをやれるだけの根性が、僕自身にはないですね。

田原 『朝生』もいま、出演者が集まりにくくなっているんです。

大川 そうですか。

田原 当時は大島渚とか野坂昭如という、つまり戦争を知っいてる人間がいた。大島なんて、絶対に国を認めないんだ。「国家は悪だ」というのが彼の信念でね。

 それから小田実なんて、番組の中で平気で「天皇制反対。天皇制はやめろ」と言っていたからね。いまはね、そういうこと言う人間がいなくなっちゃった。

大川 確かにそうですね。われわれの世代は、『朝生』でそういう言論や姿勢を見て育ってるはずなのに、それ以上のことができていない。そう考えると忸怩たる思いがありますね。

田原 なんでできないんだろう。

大川 やっぱり勇気と根性がないのかな。

田原 いや、戦争を知ってる体験者がいなくなったからだと思う。

大川 確かに僕らは、覚悟を決めてとことんまで議論するというより、どこかで収まりがいいところを求めてしまっているような気がしますね。要するに、みんなが喜ぶようにしよう、迷惑を掛ける人がなるべく少なければいいかなって。そういう思いが先に立っちゃうところが、もう一歩踏み込めない理由なのかもしれませんね。

田原 最近、『新潮45』が休刊に至った事件があったでしょう。あの一件についてはどう思います?

大川 1つ思っているのは、多様性を尊重するのであれば、多くの反対意見に対して、同じように擁護する主張だってアリだったんじゃないかと。

田原 同感ですよ。僕は『新潮45』に同情しているです。だっていま、雑誌は何やっても売れないんですよ。だからほとんど雑誌の編集長は、半分ノイローゼですよ。どれだけ頑張って作っても売れないんだから。そこで『新潮45』の編集部はこう考えたんだと思う。「常識の逆やりゃあいいんじゃないか」って。

大川 そうですよね。

田原 常識の逆をやっている雑誌は幾つかある。例えばヘイトスピーチ。常識ではヘイトはよろしくないわけだけれど、それを前面に出した雑誌が結構売れたりしている。だから、「LGBTの人たちを社会も受け入れよう」という“常識”とは違う主張をしている杉田水脈を起用しよう、そうしたら売れるかもしれない、と。そんな発想だったと思う。そして現に、杉田が寄稿した号は部数が伸びた。

大川 売れたんですか。

田原 それで、「もう一回やろう」ということになって作られたのが問題の10月号。

大川 なるほど。

田原 編集長にしてみれば、「このままだったら『新潮45』は早晩休刊に追い込まれる。潰れるのを待つくらいなら、常識の逆やってみよう」という気持ちだったと思う。

大川 そこの気持ちはよく分かりますね。

田原 ただ、やり方は稚拙だった。どこ間違えたんだろう。

大川 やり過ぎた、っていうことですかね。そのさじ加減が難しいですよね。

田原 僕は新潮社の人間に言ったんです。「あんなもん簡単だ」と。「一発でいいから、杉田擁護派と杉田反対派の激論をやればよかったんだ」って。

大川 確かに。そうすれば“反常識”である擁護派の意見も載せられるし、本質的な議論も深まりますものね。

田原 そういう発想があったら雑誌も潰れることはなかったと思うんだけどね。でもいまは、そういうことを言う空気がなくなってきているんじゃないかな。

大川 自由な言論をしにくい空気は濃くなりつつあるかもしれませんね。


ホリエモンは逮捕されて、なぜ東芝経営陣は逮捕されないのか

田原 問題は違うんだけど、東芝の粉飾会計事件があったでしょう。7年間も粉飾決算を続けていたわけです。僕なんかは、なぜあんなこと起きるんだと思うわけ。粉飾をしていることは、かなりの社員や役員も気づいていたはずなのに、なぜ告発しなかったのかと。

大川 そうですね。

田原 答えは単純ですよ。言ったら左遷だから。みんなそれを怖がって口を閉ざしていた。

 会計をチェックする監査法人も7年間、スルーしていた。なぜか。会計操作を指摘したら監査契約が解除されるからですよ。

大川 なるほど。

田原 もっとひどいのは検察。堀江さんは有価証券報告書の虚偽記載1回で2年6か月の懲役ですよ。

 だったら東芝は、歴代社長が3人ぐらい逮捕されたっておかしくないはず。ところが誰も逮捕されない。検察も馴れ合いですよ。なんなんですか、この馴れ合いは。

 一番ひどいのはマスコミですよ。テレビも新聞も「粉飾決算」って書かない。通し場が使った「不適切会計」という表現を使う。あんなの粉飾以外の何物でもないですよ。だから僕の番組では初めて「粉飾だ」って言ったんです。要するに、検察、マスコミ、みんな馴れ合っている。

大川 そうですね。

田原 こういう不健全な社会、ぶち壊してよ。

大川 えっ、僕がですか?

田原 これからのテレビは、僕が12チャンネル時代にやっていたような、つまり危ない番組作んなきゃやっていけないと思っています。

大川 そうですよね。それくらいじゃないと見てもらえない時代になってきていますから。

田原 ね、大川さんにもその意識があるでしょう?

大川 そうですね。MXはまだまだ人々に見てもらっていませんから。

田原 もっと過激にやればいいですよ。「こんな危ない番組、やめろ」って言われるくらいの番組を作ろうよ。

大川 はい。わかりました。

次回に続く

筆者:阿部 崇

JBpress

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