ウンコが漏れるメカニズム

11月1日(日)6時0分 JBpress

イラスト:近藤慎太郎

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 現代人は非常に多くのストレスにさらされており、そのしわ寄せが肉体的な症状となって現れています。不眠やうつなどメンタルの問題に加え、急激な腹痛、下痢に悩んでいる人もたくさんいます。

 腹痛、下痢の多くは過敏性腸症候群(IBS)である可能性が高く、食生活の改善、適切な治療によって治癒が目指せます。ぜひ本連載の過去の回(第16回、第17回、第18回、第19回)も参考にしてください。

 さて、IBSともオーバーラップするのですが、「下痢ではないんだけども、突然猛烈な便意が襲ってきてトイレを我慢できなくなる」とか、「気が付いたら少し漏れていた」という経験がある人もいるかもしれません。

 これは、いわゆる「便失禁」や「その一歩手前」という状態になります。「便失禁なんて高齢者の話だろう?」と思う方もいるかもしれませんが、決してそうとは限りません。

 確かに、高齢者に多いのは間違いなく、65歳以上の7.5%の人が便失禁の経験があります。

しかし高齢者だけではなく、20〜65歳という若い年齢でも4%、つまり25人に1人は便失禁を経験しているのです。このデータを基にすると、なんと日本には500万人以上の便失禁患者が存在すると推計されます。

 しかも、この人数には介護施設の入所者など、いわば「便失禁のリスクが高い人」は含まれていません。つまり、一般的な生活を送っていたとしても、実に多くの人が便失禁に悩んでいるということが分かるのです。

 では便失禁はなぜ起きてしまうのでしょうか?


便失禁の原因として一番多いものとは

 まずは、繰り返し解説してきたIBSによるものです。これは、大腸の蠕動運動にムラができてしまい、下痢や便秘を繰り返してしまう疾患です。急激に腹痛が起きて下痢をしたという経験は誰しもあるのではないでしょうか。トイレに間に合わず失禁してしまったというケースも十分ありうるでしょう。しかし、実はこれは便失禁の原因として多いわけではありません。

 次に直腸がんや前立腺がんで、手術や放射線療法を行うと、肛門周囲にダメージが蓄積し、排便機能が低下することがあります。もっと重大な病気を治すために行った治療での合併症なので、いたしかたない面もあるかもしれません。しかし、これも便失禁の原因として多いわけではありません。

 便失禁の原因として一番多いのは、肛門を締めたり緩めたりする、「肛門括約筋」の損傷や、機能低下によるものです。

 肛門括約筋は、肛門をグルッと一周囲んでいる筋肉です。内側にある「内肛門括約筋」と外側にある「外肛門括約筋」の二層構造になっています。

 内肛門括約筋は「不随意筋」といって自律神経がコントロールする筋肉です。肛門を締めようと意識しなくても、自律神経の働きで勝手に締めてくれています。「自律神経」というと、「私たち自身がコントロールできる神経」と誤解しがちですが、実は全く逆で、「私たち自身は一切コントロールできない神経」のことです。

 たとえば、心臓の拍動をつかさどるのも自律神経です。もちろん拍動は直接的にはコントロールできません(自分で勝手に止めたりすることができたら大変です)。消化管の動きも自律神経です。下痢を起こす腹痛になっても、自分の意志でピタッと止めることはできません。内肛門括約筋も、自分ではコントロールできないのです。

 一方、外肛門括約筋は「随意筋」と呼ばれる筋肉で、手足の筋肉と同様に、自分の意思で締めたり緩めたりすることができます。

 内肛門括約筋は普段はしっかり締まっていますが、便が肛門の近くまで降りてくると勝手に緩みます。それとほぼ同時に私たちは便意を感じるので、便が漏れないように自分の意思で外肛門括約筋をしっかりと締めて、トイレに行くなり、少し待つなり判断することができます。しかし、損傷や機能低下によって、この2つの筋肉の協調作業がうまくいかないと、ギリギリまで便意を感じられなくなったり、気づかないうちに便失禁したりしてしまうのです。


肛門括約筋の機能低下を引き起こす原因

 この肛門括約筋の損傷や機能低下を引き起こすのは、主に「加齢」と「分娩」で、この2つで約70%を占めていると報告されています。

 加齢で筋肉が衰えるというのは容易に想像できますが、要注意なのが後者の分娩です。なんと、自然分娩で出産した人のうち、10〜30%が便失禁を、38%が尿失禁を経験していると報告されているのです。なぜ分娩は、ここまで失禁のリスクが高くなるのでしょうか。

 前述した肛門括約筋を含む「骨盤底筋群」は、妊娠中には子宮内の胎児と羊水の重みをしっかり支えています。そして胎児が成長していくにつれ、非常に大きな力が常時かかっている状態になります。さらに出産時には、胎児がその間を押し開けるようにして生まれてきます。

 尿をためる「膀胱」、胎児がいる「子宮」、便をためる「直腸」の3つは、骨盤の前から後ろにかけて並んでいるので、出産時に子宮から胎児が出てくるときには、その前後にある膀胱や直腸を支える筋肉にも非常に大きなストレスがかかり、場合によっては筋肉が損傷してしまいます。その結果、分娩後に便や尿の失禁に悩む人が非常に多くなるのです。

 また、失禁症状が分娩後に認められなかったとしても、加齢とともに筋力が低下してダメージが顕在化し、後になってから症状が出てくるということも多々あります。

 ですので、分娩後に症状に悩んでいる人はもちろん、悩んでいなくても将来的なリスクを軽減するために備える必要があるのです。


お勧めは骨盤底筋体操

 便失禁を改善させる方法はいくつかありますが、実生活の中で、いつでもどこでもできるものと言えば、「骨盤底筋体操」がお勧めです。

 加齢とともに色々な症状が出るのはやむを得ない部分もありますが、できるだけ快適な生活が長く続くよう、常日頃から備えておくことが大切です。失禁に対して懸念がある方は、骨盤底筋体操を日々のルーティーンに加えてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
●Medical note「便失禁の原因−複数の要因が重なり合って生じる」

●『国際標準に準拠した便失禁の診断と治療』日本大腸肛門病学会雑誌68 巻 (2015) 10 号

●便失禁診療ガイドライン2017年版

●EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

筆者:近藤 慎太郎

JBpress

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