荀彧・郭嘉・司馬懿・周瑜・魯粛・諸葛亮、天才6人がバトルしたらどうなる?
2024年10月25日(金)5時55分 JBpress
約1800年前、約100年にわたる三国の戦いを記録した歴史書「三国志」。そこに登場する曹操、劉備、孫権らリーダー、諸葛孔明ら智謀の軍師や勇将たちの行動は、現代を生きる私たちにもさまざまなヒントをもたらしてくれます。ビジネスはもちろん、人間関係やアフターコロナを生き抜く力を、最高の人間学「三国志」から学んでみませんか?
天才6人の勝ち方
前2回の記事で解説してきた、三国志の天才軍師たちの戦い方と勝ち方。ここで振り返りとして、天才6名の勝ち方をまとめて列挙しておきたいと思います。
【荀彧】大局的な流れを読み、物事の帰結を想定して策を組む。その帰結に向けた要所を押さえていく。その結果、荀彧の陣営には追い風が吹く情勢を創り出す。
【郭嘉】ベストの効果を期待できる攻撃先に、打撃力を集中させる。優先順位の洞察が秀逸で、無駄なことに戦力を一切割かない。
【司馬懿】臨機応変に、相手のもっとも弱いところを攻撃する。相手から見えるこちらの弱点は徹底補強する。相手の弱みにつけこむことに躊躇しない。
【周瑜】敵の弱みにこちらの強みをぶつける。双方の強弱を比較して、こちらが強い状態を維持できる局面を選び、進路を取る。
【魯粛】転換点を先に読み、既存の考え方を捨てて、発想をジャンプさせる力(構想力)が最大の能力。新しい状況が求める、新しい構想を創り上げる。詰将棋のような対応も好む。
【諸葛亮】統率と秩序の確立による「組織力の最大化」。統率と秩序を元にした計画性。組織の多数の人物の力を、一つの方向に結束させる。
6名の天才はそれぞれ、生まれた年も生まれた地域も違います。彼らは自らが活躍した時代と場所での最適解を、自分の才能と掛け合わせる形で人生を駆け抜けました。同時に、やはり彼ら自身の性格や精神性は、その勝ち方や戦い方に表現されていると思われます。
なぜ天才たちは勝ち方が違うのか?
2つの考え方があります。1つ目は、彼らの生まれた年と場所で、青年期までに直面した社会混乱の元凶が異なること。最年長の荀彧は163年生まれであり、後漢帝国の崩壊としての黄巾の乱(184年)は、彼が二十歳頃の出来事です。
もし荀彧が、後漢帝国末期でも比較的安定した時代と社会を少年期に見ているなら、荀彧にとっての理想とは、後漢帝国の安定期を再来させるような政策と方向性だったでしょう。一方で、6名の天才の中で、違う社会的脅威を青年期に感じた者たちがいます。
193年と194年に、曹操は徐州で大虐殺をおこなったとされています。理由は曹操の父がこの地域で殺されたことで、当時の支配者である陶謙を討伐に出向いたことです。陶謙はこの戦闘では打倒できず、従軍の前後で曹操軍は非道にも大虐殺をおこなっています。
その結果、この地域にいた諸葛瑾、諸葛亮、魯粛などは南方に避難しています。南方に避難したこれらの英雄たちは、のちに曹操の敵になることになります。青年期にこの曹操の大虐殺の影響を受けた者たちには、「北方の曹操こそが悪」という思考が芽生えたでしょう。
何を正しいと理解し、何を打倒すべき悪とするかは、人の思考に大きな影響を及ぼします。
2つ目は、人の才能に応じて利用できる機会の見え方が違うことです。学んできた思考法、その人の身につけた倫理観なども、戦略眼の差になりえます。同じ場所に立っても、軍師の違いによって目に見える「機会が異なる」ことが、彼らの勝ち方の差になっているのです。
6名の天才がバトルしたら、一体どんな展開になるか?
荀彧・郭嘉・司馬懿・周瑜・魯粛・諸葛亮。この6名が入り乱れてバトルを行えば、一体どんな展開になるのでしょうか。
同じ規模の小集団を持っていた場合、最初に戦闘を開始するのは周瑜になると推測します。理由は「敵の弱みにこちらの強みをぶつける」戦略では、シンプルに機会が発見しやすいからです。自分より弱い相手を叩く、というのは有名なランチェスター戦略に通じます。
周瑜から見れば、小さな周辺豪族のうち、自分たちの集団よりも小さくて弱く、しかも攻めやすい場所にある相手は、「叩いて編入しなければいけない相手」に見えるでしょう。逆に、自分たちが先手を打たないと、他の勢力に奪われて相対的な不利が加速しかねません。
周瑜が最初に戦闘を開始し、自分より弱い相手を攻略して編入しながら少しずつ領地を拡大していく。この周瑜の行動の影響が引き金になり、他の5名の天才も動き出す。
2番目に戦闘を開始するのは郭嘉。理由は、自己と周囲の者の安全を確保するため、必要な防備を固めるため。周辺豪族や行政官を巻き込んで、自衛できる要塞のような組織を構築していく。自衛できる要塞が完成すれば、さらなる安定を求めて同盟を組む相手を探す。
司馬懿は、歴史的な名門司馬氏の出身ということもあり、身の危険を感じないあいだは、相対的に安定した勢力、これから勝利が濃厚である勢力の中に秘かに取り入り、獅子身中の虫のように、目立たないけれど権力を次第に積み上げて重鎮になるように進んでいく。
逆に、どの勢力が明確に優勢であるか分からないうちは、司馬懿は身を潜めていることを選ぶかもしれません。乱戦の初期のリスクに直面したくない、という狡猾な発想からです。
大局的な流れを読む天才、荀彧の動きと決断
大局的な流れを読み、物事の帰結を想定して策を組む荀彧。乱戦バトルにおいて、彼はどのように戦略眼を働かせて、動くのでしょうか。まず、6人の天才の動向とともに、他に軍事的なリーダーがいるならば、彼らの出自と思想を確認して、正当性の高いものを選びます。
同盟関係もしくは臣従するリーダーを見つけるのと並行して、この時代の文化の中心、そして優れた人材を多数輩出する都市を押さえる形で勢力構成を組み立てて動くでしょう。乱世を収めるほどの騒乱では、最終的に優秀な人材を多数活用できる側が勝つからです。
現代の米国のベンチャー企業が、米国内の超一流大学のそばに本社を設置することに似ています。飛びぬけて優秀な人材を集め、学ばせて輩出し続ける一流大学の近くにあれば、それだけ継続的に優秀な人材を獲得する確率が高まります。
文化と人材の中心都市を押さえた荀彧の勢力は、時間の経過とともに乱戦の中心的存在になっていきます。中心都市で創造される文化を取り込み発信しながら、優秀な人材を発見してその能力を最大限発揮させていく。時間と共に、荀彧陣営の求心力は急激に高まります。
後発で力を発揮する、魯粛と諸葛亮の戦い方
魯粛と諸葛亮についてはどうでしょうか。この2人は、後発で成功を収める軍師だと思われますが、魯粛の場合、自分が想定できる最高のイノベーション計画を持ち込んで、その案を高く評価して、実行担当にさせてくれる陣営を選ぶでしょう。
荀彧の陣営に取り入れられる場合、文化と人材の第2都市のことを提案する可能性もありますし、郭嘉陣営なら防衛力強化、周瑜陣営なら攻略が容易で第一勢力になれるような意外な場所の提案をするかもしれません。
いずれにしろ、魯粛は転換点を自分で生み出す策略を作りながらも、その採用者を探して急進勢力のリーダーたちと交渉と提案を重ねていくのではないでしょうか。その結果、みごと交渉が成功した先に参加して、実行のキーパーソンになっていく。
諸葛亮は、先に成功を収めた主流派に属することをよしとせず、主流派のカウンター勢力となれるようなリーダーを探しながら、主流派とは異なる勢力の糾合を目指すでしょう。結果的に、諸葛亮の育てていく勢力は、中心都市を外れた周辺領域の最大勢力となると思われます(荀彧の勢力が、文化・人材の中心都市を先に押さえるため)。
なぜ諸葛亮は、主流派の対抗勢力になることを選ぶのか。彼は天
では結局は、最後に誰が一番強いのか?
郭嘉はその性格上、自己の安全を完全に確保できれば、どこかの陣営に合流することを選んだと思われます。その陣営は、荀彧側か周瑜側ですが、荀彧側であればそのまま戦闘指揮官を、周瑜側に合流すれば政治改革と軍事指揮の両方を担ったと思われます。
優秀な人材の確保という点で、郭嘉が周瑜側についた場合に、荀彧側との差がどんどん広がっていくことを、郭嘉は必ず気が付いたと思われるからです。
この頃までに、魯粛はどちらかの陣営に所属していたと思いますが、諸葛亮の陣営にもし所属すれば、諸葛亮の弱点であった優秀な人材確保などの問題を解決して、第2勢力として面白い展開を生み出した可能性もあるでしょう。
荀彧側は、周瑜の軍事指揮の能力などを見て、支配地域から軍事的才覚のある人材を見出すと同時に、軍事的な訓練を精密に行える組織を創り上げ、時間の経過とともに周瑜勢力が対抗できない軍事大国を育んでいくと思われます。
そのため、リーダーが荀彧の倫理観や悪行の概念に抵触しないかぎり、荀彧の勢力が最終的には大陸の勝者になったと思われます。
最後に、司馬懿はそのころには荀彧側の勢力の内部に入り込み、荀彧とそのリーダーの寿命と、自らの寿命を比較しながら謀略を練っているはずです。一方で、荀彧とリーダーの眼の黒いうちは、思い切り猫をかぶっていることも間違いないでしょう。
司馬懿は、自分の寿命と比較して優秀なリーダーが長生きしそうなら、絶対にばれない形で暗殺を企てた可能性があります。次の世代のリーダー(つまり創業者の息子)がぼんくらなら、そのほうが乗っ取りの可能性が高まるからです。
荀彧と周瑜陣営の対立では、誰が周瑜の右腕になるかで大きく展開が変わります。もし、郭嘉が周瑜陣営に加われば、均衡は長期間イーブンで維持された可能性があります。逆に、郭嘉が荀彧陣営に属して存命なら、周瑜陣営は時間とともに身動きがとれなくなるでしょう。
そうなると、周瑜は打開策として、諸葛亮の陣営に頭を下げて同盟関係になってもらうことを依頼する可能性が出てきます。その時点で魯粛がどちらの陣営にいるかでも、周瑜と諸葛亮の力関係は大きく変わりますが、誰がNo.2になるかでもめるかもしれません。
結論として、最後の1強は荀彧の勢力となりますが、周瑜が他の天才軍師を何人自陣営に巻き込めるかで、趨勢は変わっていく、ということになりそうです。周瑜が、郭嘉・魯粛・諸葛亮の3名を自らの陣営に取り込めた場合のみ、周瑜が天下を取る可能性が出てくるというのが、今回のドリームマッチの最終考察となります。
司馬懿は、2大勢力が本当に均衡した場合のみ、自分がどれほど怪しまれずに内部で成長できるかを吟味して、取り入る側を決めるのかもしれませんね。しかし、リスクという点では周瑜の陣営のほうが高いはずで(危険な戦闘任務が増える)、荀彧側に入るのが妥当だと思われます。
筆者:鈴木 博毅