生活の基盤なくしてやりたいことはできない! 伝説のバンド「the原爆オナニーズ」の初ドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』大石規湖監督インタビュー後編

10月31日(土)16時0分 tocana





 1982年に名古屋で結成されて以来、38年間にわたり同地を拠点にパンクロックを演奏し続けているthe原爆オナニーズ。オリジナルメンバーはTHE STAR CLUBに在籍していたEDDIE(bass)と地元のパンク博士・TAYLOW(vocal)で、のちに遠藤ミチロウ率いるザ・スターリンやBLANKEY JET CITYに加わる中村達也や、Hi-STANDARD横山健が在籍したことでも知られている。現メンバーはTAYLOW、EDDIE、JOHNNY(drums)、SHINOBU(guitar)の4人で、みな定職を持ち、うち2人が還暦を迎えた今なおシーンの最前線で活動している。


 そんな現存する日本最古のパンクバンド・the原爆オナニーズの、キャリア初となるドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』が10月24日より公開中だ。

監督は、正体不明の地下音楽レーベル〈Less Than TV〉の中心人物・谷ぐち順とその家族に密着したドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』(2017年)で映画監督デビューを果たした大石規湖。“生活と音楽”をテーマに映像を撮り続ける大石は、なぜthe原爆オナニーズを題材に選んだのか。そして、彼らに何を見たのか。本人に話を聞いた。



 


■「生活の基盤なくしてバンドはできない」


−−映画の中でEDDIEさんが、かつてTAYLOWさんがパンクバンドのミックステープを作って配って、それが名古屋パンクの礎になっているというお話をしていました。大石さんから見て、名古屋のパンクの特殊性にthe原爆オナニーズが寄与していると感じる部分はありますか?


大石規湖(以下、大石) 名古屋のパンクの特殊性というか、the原爆オナニーズの特殊性として、まずTAYLOWさんがパンク博士であり、オタクじゃないですか。たぶん80年代初頭って、主にいわゆる不良の人たちがパンクとかハードコアをやっていたと思うんですけど、そうではない人がパンクをやるのって、当時としては珍しかったのかなって。そういう「誰でもパンクをやっていいんだよ」というのをわかりやすく体現したのがTAYLOWさんだったと思うんです。





−−TAYLOWさんはTHE STAR CLUB時代のEDDIEさんのベース奏法を見て「ダウンピッキングで弾いてるからパンクとして正解」みたいなこともおっしゃっていましたね。


大石 「そこを見るんだ!?」って思いました。私はそんな視点でベースを弾いてる人を見たことないですもん。


−−あと、すべての音楽ジャンルに言えることでもありますが、特にパンクやハードコアはファッションと結びつきやすいですよね。





大石 そう。でもTAYLOWさんはバンド結成当時から「パンクはファッションじゃない。精神だから」と言っていて。それこそSHINOBUさんが「本物のパンクロッカーはとっくに死んでる」と言っていますけど、ステレオタイプな「パンクロッカーは破滅的な生き方をしてそう」的なイメージと違って、TAYLOWさんみたいに精神的にパンクであれば、会社勤めしていようがパンクスであるみたいな。そういうスタンスを最初に提示したバンドの一つじゃないかなって。



−−TAYLOWさんは「生活の基盤なくしてバンドはできない」とはっきりおっしゃっていましたし。


大石 結局、バンドをやるためにはお金も時間も必要になるというのは当たり前のことで、だからといってそのために家庭を犠牲にするみたいな選択肢は彼らの中にはないんですよね。だから人としてすごく真っ当というか。そもそもバンドをやっている人ってアウトローみたいに思われがちかもしれないけど、実際はそうじゃない人のほうが多いじゃないですか。特にパンクやハードコアの人は礼儀正しいし、人のことを見下したりもしないし、誰にでも偏見なく接してくれる。少なくとも私の周りにはそういう人たちが多いし、家庭を持っている人はそれを大事にするための方法を考えながらバンドをやっているんですよね。


−−自分のスタイルを持っていますよね。『MOTHER FUCKER』の谷ぐち家もそうでしたけど。


(参考:映画『MOTHER FUCKER』大石規湖×谷ぐち順対談)


大石 うんうん。ただ、それを真似しろというわけじゃなくて「あなたなりのスタイルを考えていけばいいよ」というスタイルだと思うし、実際、私もTAYLOWさんと接しているうちに自ずと「自分なりの方法で表現すればいいんだ」と思うようになりました。


−−『JUST ANOTHER』では、the原爆オナニーズのメンバーのプライベートなシーンはほぼないのに、めちゃくちゃ“生活”を撮っているのが大石さんなりの表現というか、大石さんならではだと思いました。


大石 嬉しいです。生活の基盤を大事にしている=生活の基盤を守りたいということでもあると思うので、そこにカメラを持って踏み入ることはせずに、でもその大事さがわかるような映像にしたいと思っていたので。私もちょうど撮影中に結婚したんですけど、パートナーの存在も含めて“安心できる場所”という意味でも生活の基盤があったほうが、自分のやりたいことができると実感したんですよね。



■the原爆オナニーズは伝統芸能化していく?


−−the原爆オナニーズはバンドをやるために生活の基盤を整えている。じゃあなぜバンドをやるのかといったら「バンドをやりたいから」なんですよね。


大石 そうそう。シンプルに、ただそれだけなんですよ。





−−それだけで40年近く続けているという。


大石 しかも、時代時代に合わせてやるべきことを変化させているというか、考え方が柔軟なんですよね。たぶん私みたいな若輩者に監督を任せてくれたのもその表れだし、TAYLOWさんは若いバンドもよく見てるし、積極的に対バンもしてるんですよね。人間、歳をとればとるほど思考も凝り固まって、何ができて何ができないかみたいなことを頭で考えちゃいがちだし、行動範囲も狭まっちゃうかもしれないんですけど、自分のコアさえしっかり持っていればいろんなことをやってもブレずにいられる。それを感じて、歳をとることがあんまり怖くなくなりました。


−−名古屋CLUB QUATTROのオープン30周年記念イベントで、TAYLOWさんがeastern youthのライブをステージの袖で観ながらぴょんぴょん飛び跳ねている後ろ姿を撮っているじゃないですか。あれ、めちゃくちゃ名シーンですね。


大石 「ただのキッズじゃん!」みたいな(笑)。本当に少年みたいに、好きな音楽を聴いて勝手に体が動いてしまう感じ、めちゃくちゃわかります。私も撮りながら「TAYLOWさん、私も同じ気持ちです。カメラ持ってなかったら私も飛び跳ねたい!」と思っていました。





−−映画の中で、非常階段のJOJO広重さんが「ノイズバンドだったら歳をとってボケてステージで放尿とかしても、お客さんはパフォーマンスだと勘違いしてくれるかもしれない。でも、高齢でパンクバンドをやるのは難しい」というお話をされていましたが、the原爆オナニーズは今後どうなっていくんでしょう?


大石 私は勝手に、the原爆オナニーズに伝統芸能的なものを感じていて。ライブのセットリストも毎回そんなに大幅には変わらないし、40年近くやり続けている曲もあるけど、そのときのお客さんに応じて自分たちにしかわからない微調整を加えたりしてるんですよ。最近、私は落語にハマっていて、噺家さんも高座に上がって同じ噺を何度もするわけですけど、やっぱりその日の客層によって枕の内容や噺のテンポを微妙に変えたりするんです。だから、もしthe原爆オナニーズがこの先10年、20年と続いていったらより伝統芸能化が進むんじゃないかなって。70代、80代になったTAYLOWさんが歌う「発狂目覚ましくるくる爆弾」とか、どんなにものになるんだろう?



−−一方で、40年近くthe原爆オナニーズを追い続けているファンの人たちもいるわけですよね。


大石 そう、ファンの人たちも面白くて。革ジャンを着てバリバリにお化粧した50代の女性にお話をお聞きしたら「学生時代によくライブに来てたんだけど、結婚して子供を産んで、離婚しちゃって。養育費を稼ぐために30年間ライブに行けなくて、やっと今の歳になって来られるようになったのよ。だから毎回来てるし、いつ来ても30年前と同じ曲やってて安心する」とおっしゃっていて。その感じもすごいなと。



■生活の中に文化があることは特別なことではない


−−コロナ禍と呼ばれる状況下で『JUST ANOTHER』が公開されることに、僕は大きな意義を感じます。が、もともとコロナとは関係なく撮られた作品なんですよね。


大石 そうなんですよ。撮影を始めたのが2018年9月の今池まつりからで、終わったのが2019年の10月で、2020年の2月初旬には納品していたので。私としては、この映画を通してシンプルに「こういう日常がある」というのを観てもらいたかったんですけど、今、その日常が遠のいてしまっている。今池まつりにしても、今年は中止になってしまいましたし……。でも、6月末くらいから都内のライブハウスも人数制限をして“密”を回避つつ、入場時の検温と消毒、お客さんのマスク着用、転換時の換気とかを徹底して営業を再開させていますよね。





−−そうですね。本当にライブハウス側の取り組みには頭が下がりますし、今まで通りにはいかないにせよ、かつての日常が戻ってきつつある。今後も予断を許さない状況ではありますが。


大石 だからライブが生活の一部になっている人たちは、みんなでそれを守ろうとしているというか、それが当たり前だと思って行動しているんですよね。あと、このコロナ禍の中で、やっぱり日本では“生活と音楽”を両立しづらいということを改めて感じたんです。音楽に限らず、映画や芸術といった文化的なものが、“不要不急”的な意味で容易く切り捨てられてしまうのをまざまざと見せつけられて。なぜ切り捨てられやすいかというと、そういうものが社会の中でどこか特別視されている部分があるからだと思うんです。でも、生活の中に文化があることはなんら特別なことではないですよね。





−−ところで、TOCANAはオカルトメディアなのですが、大石さんはthe原爆オナニーズに対してオカルト的な何かを感じましたか?


大石 ええと、何かあったかな……超自然的なことかどうかわからないんですけど、TAYLOWさんは還暦を迎えてなお、白髪が全然ないんですよ。あるとき「最近忙しいから白髪が生えちゃうよ」とおっしゃっていて、私はてっきり髪を染めていると思い込んでいたのでびっくりして。





−−パンクバンドを長く続けていると、白髪が生えない。


大石 かもしれない……。


(了)


■『JUST ANOTHER』



●公式ホームページ https://genbaku-film.com/


10/24(土)〜|東京・新宿K’s cinema


10/31(土)〜|愛知・名古屋シネマテーク


11/20(金)〜11/26(木)|宮城・チネ・ラヴィータ


11/27(金)〜|大阪・シネマート心斎橋


12/1(火)〜12/7(月)|広島・横川シネマ


12/4(金)〜|長野・アイシティシネマ


12/11(金)〜|京都・出町座


上映決定|神奈川・横浜シネマ・ジャック&ベティ


以降全国順次公開


■大石規湖(おおいし・のりこ)


フリーランスの映像作家として、SPACE SHOWER TVやVICE japan、MTVなどの音楽番組に携わる。トクマルシューゴ、DEERHOOF、DEATHRO、怒髪天など数多くのアーティストのライブDVDやミュージックビデオを制作。独自の視点で切り取られたライブ映像、特にワンカメでのライブシューティングには定評があり、音楽に関わる作品を作り続けている。映画では『kocorono』(2010年・川口潤監督)で監督補助を担当。さらにLess Than TVを追ったドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』(2017年)で映画監督デビューを果たし、本作『JUST ANOTHER』は劇場公開2作品目となる。

tocana

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