腫れ物Z世代とのコミュニケーション術、昭和と令和の"右腕の育て方"の違いとは

2024年11月6日(水)8時48分 マイナビニュース


Z世代を自分の右腕に育てていく
1990年代半ばから2000年代にかけて生まれた、いわゆる"Z世代"の若手社員たちに対して、「いったい何を考えているのか分からない」「ミスを叱ろうものなら、すぐ辞めてしまうかもしれないから指導するのが怖い」などと、まるで腫れ物に触るかのように接している上司の方々も多いと聞きます。
だからといって、指導しないままでいたら若い人たちは成長することができず、彼らにとっても企業にとっても不幸なことです。彼らを組織の戦力として、そして自分の右腕として育てていかなければ、企業の未来も成長もありません。
そこで今回は、そんなZ世代の人たちに対してどのようにコミュニケーションを取り、彼らを自分の右腕に育てていったらいいかについてお伝えしたいと思います。
気合い・根性・密着感で人を育てていた昭和時代
昭和の時代、会社内の人間関係は今と比べてずっと濃密で、気合いと根性、そして飲みニケーションなどの密着感で、時間をかけて部下を育てていました。そして若い人たちも、それを当然のことと受け入れて、上司の言うことを聞いて、働いていました。
それは、昭和の時代は未来に希望があったからです。時間をかけても、上司の言うことを聞いてこの組織で頑張っていれば、将来は課長になれる、部長になれる、給料は上がると、いつかはいいことがあると信じることができたからです。だから、気合いや根性、密着感も我慢ができたのだと思います。
しかし、今は違います。
ホリエモン(堀江貴文氏)が10年近く前、「寿司屋の修行に10年かける意味はない」と言って論争になったのを覚えている方も多いと思います。長い時間をかけて人を育てるなんてやっていたら遅いよと。すると、伝統を重んじる人たちから「寿司職人の技術というのは、師匠から弟子に時間をかけて伝えていくものだ」という反論があったわけです。
しかし、今の若者たちは「一人前になるのに10年も待っていられない。それよりも、必要なことを早く教えてくれ」と考えている人がほとんどでしょう。
彼らが重視しているのは"タイパ"です。上司の生き方や哲学、価値観を伝えることで人を育てるという昭和的なやり方をされたら、タイパを求めている若者からしたら「あなたの価値観などどうでもいい。何をどうやったらどういった結果が出るかだけを教えてくれればいい」となるわけです。
「それって動画はないんですか?」が今の感覚
そのため、令和の時代の人の育て方に必要なのは、仕事に必要な業務や知識をマニュアル化、プロセス化、システム化することで、それを私は「勝ちパターン」と表現しています。この勝ちパターンを言語化して、若い人をトレーニングしていく。これは、DXが謳われる今の時代の必須要件です。
プロセスをデジタル化するためにはそれを言語化する必要がある。「オレの背中を見て学べ」という昭和の時代とは、そこが大きく異なるわけです。
マニュアル化というのは、それまでは直接話して教えていたことを、マニュアルを見れば済むようにすることです。今の世代は、眼の前で話を聞いて教えてもらう時間がもったいなくて、「それって動画はないんですか?」という感覚です。
普段YouTubeで動画を1.5〜2倍速で見ている若い人たちからしたら、直接話を聞くのは時間の無駄なんです。内容をマニュアルか動画にしておいて、眼の前で聞かなくても分かるようにしておいてほしいというのが令和の価値観です。
プロセス化というのは、業務の流れの全体感を示すことです。今までだったら「作業の内容や意味など分からなくてもいいから、とにかくやれ」と言えば、「はい、分かりました」という返事が来ましたが、今は「それってなんのためにやるんですか?」と返ってくる。その作業をすることの意義に納得ができないと、動かない世代なんです。
例えば、SNSで投稿をする作業をさせるなら、SNSのリンクから無料登録をしてもらい、それを面談につなげる。面談でこのプレゼンテーションをすれば、見積もりを依頼される。見積もりの3日後にフォローメッセージを出して、受注に結びつけていくと、ここまで説明するのがプロセス化です。
今の若者は、マーケティングのことを我々世代よりもはるかに分かっています。例えばYouTubeを見て、その概要欄でリンクを見て、検索して比較して物を買うということを当たり前にやっている世代なので、プロセスが効率的でないと無駄が多いと思う感度が、我々よりも高いわけです。
このマニュアル化、プロセス化によって、それほど能力が高くなかったり学習意欲が低かったりする人でも、そのとおりにやれば結果を出せるようにすることが、令和の時代では求められるのです。
3つめのシステム化というのは、自分でしなくていいことはしなくてもいいようにすること。例えば以前は手打ちで行っていたデータ入力などは、今ではスキャンをすれば全部できてしまいます。外注もその一つです。あとはAIやオンライン上のアプリケーション、Zoomなどもそうです。人の手ではなく外部のシステムを使うことによって生産性を上げることがシステム化になります。
「オレの背中を見て学べ」ではなく、"勝ちパターン"を言語化する
マニュアル化とプロセス化については、自分がやっている業務を棚卸しすることができなければなりません。つまり、やらなければならない業務やプロセスの言語化です。これができないと、いつまでたっても“腫れ物”に触るようなコミュニケーションが続くことになります。
そして、"勝ちパターン"を言語化すること。これには、例えば営業部門では「セールスファネル」を作るスキルが必要になります。「購買ファネル」または「マーケティングファネル」ともいいますが、潜在顧客が商品やサービスに注目し、関心を持つようになり、ファンになり、コンタクトがあって、商談から購入に至るまでの流れを示した図で、これを言葉に落とし込んでいく必要があります。
今までは社長や営業部長の頭の中にしかなく、「オレの背中を見て学べ」となっていたことを、誰でもできるようにしてあげるわけです。
いきなり図表を作れと言われても難しいようでしたら、ネットで検索すると図がたくさん出てくるので、それらを参考にして作るといいでしょう。また、これは上司全員が作れるようになる必要はありません。会社で一つ作り、社内でそれを共有するのもいいでしょう。
セールスファネルができたら、その流れの中で、商談の際にはこのスライドを使い、この順番でトークをする、次にこれを投げかけるといったトークスクリプト(会話の台本)を作成します。それを社内でロープレ(営業ロールプレイング)して、このとおりやれば売れるというのを再現できるようにしてあげるのです。
このようにすれば、今の若い人たちが求めるような、無駄のないトレーニングをしていくことができます。
そして、いざ実践させていくにあたり重要になってくるのは、失敗してもOKだということをはっきり伝えることです。今の若者は、成功か失敗かという2つの道に分かれているイメージを頭の中に持っています。
しかし営業の本質は、小さな失敗を積み重ねて成功につなげることです。ですので、成功か失敗かではなく、失敗した人こそがいつか成功できる、失敗にも価値があるのだということを伝えてあげないと、若い人は怖くて何もできません。
失敗にはアドバイスではなくフィードバックを
また、業務をマニュアル化すると、若い人は何も考えないで、ただマニュアルどおりにやっていくだけじゃないかと考える人もいます。
しかし実際には、マニュアルがあってもプロセスがあっても、セールスファネルの流れがあっても、このとおりやれば考えなくて済むかというとそんなことはなく、いざそれをやろうとした時には、自分で考えなければならないことが数多くあります。
なので、考えないでやっているように見えて、実はよく考えているので、マニュアルの罠にはまる心配はありません。
あともう一つ、若手を指導する際の注意の仕方です。若手が失敗したり、うまくできなかった際に、それに怒ったり、「なんでこんなこともできないんだ!」と詰問したりするのではなく、「今回のできなかった原因ってなんだと思う?」というニュートラルな質問をすることです。
そして、フィードバックをしてあげることが重要になります。アドバイスではなく"フィードバック"です。
アドバイスというのは、こちらは分かっているけど相手は分かっていないという前提でするものです。一方でフィードバックは、相手は大人なんだからできるはずという前提にたち、参考になるかもしれない情報を共有する感覚です。これによって部下が大きく育つのです。
「あなたなら必ずできる」と、相手を信じること。それを貫くことがポイントだと思います。
お互いの強みを活かすことができるのが右腕
最後に、昭和と令和の「右腕」という存在の違いについてお伝えします。
この二つの時代における右腕という存在には、自分の仕事を手伝ってくれる、または補完してくれるという共通する部分もありますが、それ以外では大きく異なります。
昭和の時代は、同じオフィスにいて、同じことを考えて、同じ会議に出てという時間を長く過ごした人が右腕化していくという、価値観の共有や役割を共有する感覚が強かったのが当時の右腕です。
一方で令和の右腕は、リモートワークのように物理的な空間が離れていても右腕として活躍してもらわないといけないという意味において、価値観の共有ではなくお互いの強みを活かすことができる人というのが重要になってきます。逆の言い方をすると、お互いの弱みを意味のないものにするという表現でもいいと思います。
これにより、お互いがいないと困るという関係性ができるので、心の絆が生まれ、お互いがいてくれて助かるという感謝につながる存在になりえます。
心の絆が生まれるという意味においては、昭和の右腕と同じかもしれません。ただし、眼の前にいるのはなく、リモートワークのように互いに空間的に離れていて、コミュニケーションはZoomやSNSでのやり取りになりますから、その絆はより機能的になっていく感覚だと思います。
ここまでの話をまとめると、若手を自分の右腕に育てるためには、業務をマニュアル化、プロセス化、システム化して、"勝ちパターン"を言語化して伝えてあげること。それにより“タイパ”を考慮して効率よく指導していくことが重要になります。
そのためには、企業の社長や上司の方たちも今の時代に合わせた努力をしていかなければいけません。「オレの背中を見て学べ」ではなく、自分の頭の中にあるものを棚卸しして、言語化する必要があるということです。
もちろん、昭和時代のやり方にもいいところはありました。昔は夜の10時、11時までみんな会社にいてワイワイやって、オフィスでタバコを吸ったりして、それはそれで楽しかったとか、先輩や同僚たちと終電まで飲んで、翌朝また出勤してというのも、体はきつかったけど楽しかったという声はよく聞きます。社内の結束を図るという意味では、それもメリットがあったのだと思います。
でも、今そのやり方に戻れるかといったら、おそらく多くの方にとってはもう無理なのではないかと思います。そういう意味では、若い人たちだけでなく、我々の世代も昔とは大きく変わってきているのです。
○著者プロフィール:清水康一朗
ラーニングエッジ株式会社創設者/代表取締役。慶應義塾大学理工学部卒。2003年「セミナーズ」を立ち上げ、世界〜日本トップクラスのビジネスセミナー開催実績を誇る。現在、「絆徳経営」を柱に経済・歴史・道徳関連で国内最大規模の教育事業を多数主催。

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