「世界一の支配人から首長へ」白馬村の村長に史上最年少で出馬した決意とは

2023年11月8日(水)12時0分 JBpress

文=松原孝臣 写真=積紫乃


「ホテル業界のアカデミー賞」受賞

 異色の経歴を持ち、そして各界から大きな注目を集める首長がいる。長野県白馬村の村長、丸山俊郎である。昨年7月、初出馬で初当選を飾った。当時は47歳、白馬村では史上最年少での当選であった。

 異色として注目されたのは、行政経験はない中で村長となったこと。そして「世界一の支配人から首長へ」と形容できる経歴を持っている点にある。

 だが異色と見える経歴以上に、実は描いている理念そして実践にこそ、丸山に着目すべき理由がある。

 まずはその足跡をたどってみたい。

 丸山は、1974年10月、白馬村に生まれた。

 大学を卒業すると、オリエンタルランドに勤務。つまりはディズニーランドだ。さらにはオーストラリアにワーキングホリデ—で渡る。

 2009年、白馬に戻り、家業である日本宿「しろうま荘」の支配人となると、脚光を浴びることとなった。

 2012年、「ワールド・ラグジュアリー・ホテル・アワード」のスキーリゾート部門でグローバルウィナー賞を受賞。世界水準のサービスを提供しているホテルや施設に対して30万人以上の業界関係者や旅行者などによる投票や審査などで与えられる国際的な賞で「ホテル業界のアカデミー賞」とも呼ばれる。これは日本初のことであった。

 2016年にはロンドンの旅行誌が主催する「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード」で、「ジェネラル・マネージャー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。支配人として世界一の栄誉に輝いたことを意味する。

 2018年にはホスピタリティ業界を対象とした「ワールドワイド・ホスピタリティ・アワード」に日本人として初めてノミネートされ、「ベストホテリエ」ファイナリストを受賞した。

 施設を大きく変えたわけではない。ぱっと見た目には、いわゆる一般の旅行宿のようにも映るが、高い評価をもたらしたのには丸山の経験がいかされていた。

「大学で経営学や財務を勉強して卒業し、オリンピックの年にいったんは白馬に戻ったんですね。そのとき、『これはちょっと投資と回収のバランスが不均衡なのではないだろうか』と感じました。世界の祭典であるこのオリンピックだけれども、この後作ったものを活用し維持管理していくのは容易ではないと思いました。そのとき、今後もお客さんに来てもらうにはいわゆるおもてなしを含めたソフトの方が変わらないといけないという思いがありました。

 そこで、ホスピタリティで定評があるというところでオリエンタルランドへ行きました。約5年、『ジャングルクルーズ』などのアトラクションをやる中でエンターテインメント性やいわゆるおもてなしという意味でほぼ満足の行くだけの経験を集めたと思いました。一方で白馬を見たときに、やっぱりもっとグローバルなお客さんに来てもらわないと国内旅行者のパイの奪い合いになってしまうと感じていました」


ハードよりソフトの充実

 向かったのがオーストラリアのゴールドコーストであった。英語の勉強を主眼としていたが、ビーチリゾートである街で発見があった。

「自分は山育ちなのでオーストラリアの海に憧れがあったんですね。正反対のコンテンツに魅力を感じるわけです。だとするとオーストラリアの人たちは白馬に興味を持つだろう、ハードを整備するより英語であったり受け入れる環境を整えることで来てくれるという思いが湧きました」

 帰国後には金融の世界で名を馳せるゴールドマン・サックスの専属ジムトレーナーを務めた。そこで英語力に磨きをかけるとともに、旅先での過ごし方を目の当たりにし、何が大切なのかを再確認できた。

「白馬がもともと持っているコンテンツで十分この人たちは満足してくれるなと思いました」

 ハードに投資するのではなく、海外から訪れる人々が心地よく滞在できるように、伝統をいかしつつ支配人として実践したソフトの充実が、数々の受賞に象徴される高い評価を得たのである。そしてその評価は海外に限定されず国内の旅行者からも得ることになった。

 ただし、丸山は家業ばかりを意識していたわけではなかった。さまざまな場にいた経験を振り返る言葉の端々にあったのは、白馬への思いだった。実際、国内でも有数の人気を誇る大会となった「白馬国際トレイルラン」をはじめ、白馬の活性化につながる活動にも打ち込んできた丸山は、やがて、村長選への出馬を決意する。(続く)

丸山俊郎(まるやまととしろう)白馬村長。1974年、長野県白馬村生まれ。日本大学商学部経営学科卒。株式会社オリエンタルランドなどに勤務し家業の「しろうま荘」支配人に。2012年に「ワールド・ラグジュアリー・ホテルアワード スキーリゾート」世界一を受賞したのをはじめ数々の国際的な賞を受賞。一方で白馬高校非常勤特別講師担当、「白馬国際トレイルラン」創設に携わるなど多角的に活動。2022年、白馬村長に就任。

筆者:松原 孝臣

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