全日本大学駅伝で國學院大が初優勝!平林の悔し涙が「うれし涙」に…選手たちが語った優勝へのストーリー

2024年11月9日(土)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


前日会見から自信に満ちていた前田監督

 11月3日に開催された全日本大学駅伝。初優勝を遂げることになる國學院大の前田康弘監督は前日会見から自信に満ちていた。登録選手の10000m上位8人平均タイムはトップ(28分16秒60)。前回3位のメンバー7人が残るチームのエントリー登録は以下の通りだった。

1区嘉数純平(3年)、2区青木瑠郁(3年)、3区辻原輝(2年)、4区鎌田匠馬(3年)、5区野中恒亨(2年)、6区山本歩夢(4年)、7区田中愛睦(2年)、8区岡村享一(1年) 補員/平林清澄(4年)、 上原琉翔(3年)、高山豪起(3年)、後村光星(2年)、飯國新太(1年)

 そして前田監督はレース前日の記者会見でこんなことを話していた。

「明日は問題なければ3枚替えをする予定です。他校のオーダーも予想しながら、平林をどっちに置くかを考えました。前半の流れ、締めの7、8区は最重要ポイントだと思うんですが、出雲は4区と5区で区間賞を取って流れを引き寄せた。つなぎ区間でしっかり勝負できる選手を置けるのがストロングポイントかなと捉えています。前半は流れにしっかり乗って、後半の5〜8区が勝負所になってくる。バランスよく隙のないオーダーを組むことができました」

 前田監督はマラソン学生記録保持者の平林清澄(4年)を7区か8区のどちらに起用するか悩んでいたが、当日変更で絶対エースを4年連続となる7区に投入。一方、8区を予定していた高山豪起(3年)を4区に入れて、最長区間には上原琉翔(3年)を起用した。

「高山がいまいち良くなかった」という理由もあったが、気温が高くなる予報もあり、沖縄出身で暑さに強い上原なら“アンカー勝負”になっても対応できると考えたのだ。

 そしてレースは前田監督の読み通りになった。


選手たちが語った優勝へのストーリー

 1区の嘉数純平(3年)は前回6区(5位)で順位を落としている選手。「昨年の悔しさをぶつけることができました。ラスト勝負に勝ち切ることはできませんでしたが、トップと2秒差の2位ということでいい流れでつなげられたと思います」とライバルに挙げられていた青学大と駒大に先着する絶好のスタートを切った。

 2区の青木瑠郁(3年)は創価大・吉田響(4年)のハイペースについていけず、6位に転落。「トップと10秒以内で渡したいと思っていたんですけど、50秒以上も離されてしまい、後続の選手に苦労をかけてしまいました……」と悔しがった。それでも激動のスピード区間を区間7位で食い止めたのが後の逆転劇につながっていく。

 出雲駅伝で前半のエース区間を担った3区辻原輝(2年)は自信あふれる走りを見せる。「前回の箱根駅伝(4区)は『耐える役割』でしたけど、今回は前田さんから『攻めていけ』という指示をいただき、それが凄くうれしかったんです。順位を上げるために、絞り出すことができました」。辻原は早大、帝京大、東京国際大を抜き去り、3位に浮上した。

 4区の高山豪起(3年)は区間4位の走りで3位をキープ。「100点満点ではないですけど、自分の仕事は粘ってタスキをつなぐことだったので、その走りはできたんじゃないかなと思います」と調子が上がらないなかでも、キッチリと役割を果たした。

 そして前田監督が「ストロングポイント」と考えていた5区と6区で“反撃”が始まった。

 5区の野中恒亨(2年)は、「昨年(当日変更で)外された区間だったので、リベンジを果たそうという気持ちでした。『攻め駒として置いているから』と前田さんに言われていましたし、自分でも攻めることができたと思います」と区間賞の快走。城西大をかわして2位に上がっただけでなく、1分27秒あったトップ青学大の差を41秒まで短縮した。

 さらに昨年は2区(11位)で本領を発揮できなかった「悔しさ」を持って臨んだという6区山本歩夢(4年)が続く。「野中と自分で前との差を縮めるのが役割だったので、平林と上原に楽をさせようと思って走りました。力不足で追いつくことはできませんでしたが、自分の仕事はできたかな」。レース序盤は右脇腹痛に悩まされるも、後半に入ると青学大との差を詰めていく。区間賞・区間新の走りで青学大の背中に4秒差まで急接近した。


平林の“悔し涙”が「うれし涙」に

 國學院大にとって絶好の展開になったが、7区の平林清澄(4年)は青学大・太田蒼生(4年)になかなか追いつくことができない。どうにか14.8kmで並ぶも、16.1kmで太田がペースアップ。最終的にはスタート前と同じ4秒差でタスキをつなげた。

「山本が4秒差でつないでくれたタスキ。最後は『自分で決めてこい』『上原に楽をさせよう』という指示をいただきました。そのなかで追いつくことができず、記録的にも篠原に負けるというWパンチを食らいました。悔しいレースになり、泣きました……」

 4年連続の7区に自信を持っていた平林だが、勝負を決めることができず、区間賞争いでも駒大・篠原倖太朗(4年)に10秒届かない。主将の責任とエースのプライドから涙がとまらなかった。

 絶対エースで逆転はできなかったが、最終8区の上原琉翔(3年)がすぐに青学大に追いつくと、9km過ぎに引き離す。そのまま初優勝のゴールに突き進んだ。

「あの位置で渡してくれたのは、みんなの頑張りがあったからこそ。区間順位(9位)はダメダメでしたけど、最後は勝ち切ることができて良かったです」

 上原がフィニッシュテープに飛び込むシーンを移動中のバスで観た平林は“悔し涙”が「うれし涙」に変わっていた。

「國學院大らしい全員駅伝の勝利かなと思います。特定の選手が頑張ったわけではなく、ラストの粘りで次のランナーが走りやすい位置でタスキを渡せた。駅伝の鉄則だと思うんですけど、自分だけではなく、次の走者のことを考えて、力を振り絞る。8人全員が役割を果たしたからこそ総合力で勝てたと思います」(前田監督)

 箱根駅伝に向けては、全日本のVメンバー8人以外に箱根経験者が6人も残っている。選手層には絶対の自信を持っているが、「箱根で勝つには往路をどう戦うのか。誰を人選して、どこに持ってくのか。そこがポイントかなと思います」と前田監督は最終決戦を見つめている。

 そして大会MVPに輝いた山本は「箱根が終わるまでが『歴史を変える挑戦』です。現状に満足することなく、箱根でもしっかり自分の仕事をして、優勝して、笑って終わりたい」と話す。全日本に続いての“初優勝”と史上6校目となる“駅伝3冠”に向けて、國學院大の歴史を変える挑戦は続く。

筆者:酒井 政人

JBpress

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