電気自動車は踊り場? やっぱり売れてる? 日産「サクラ」の現在地

2024年11月11日(月)8時0分 マイナビニュース


電気自動車(EV)の販売の伸びが鈍化し、「EVシフトは踊り場」との見方が広がる中でも売れているクルマがある。日産自動車が2022年5月に発売した軽自動車規格のEV「サクラ」だ。サクラの完成度を湘南プチドライブで再確認し、販売状況などについて日産に話を聞いてきた。
国内EV販売台数で他を圧倒
日産によると、2024年度上期の国内EV販売台数ではサクラが約1.1万台でダントツの1位となった。台数でサクラに続くのは「リーフ」の2,300台、「アリア」の1,700台で、日産車がトップ3を独占している。その後ろに三菱自動車工業の軽EV「eKクロス EV」やテスラ、MINI、フォルクスワーゲン、ボルボなどの外国勢が続く形だ。
ユーザーにサクラを選んだ理由を聞くと、最も多い回答は「国や地方からの補助金」だったとのこと。そのほかには自宅で充電できること(ガソリンスタンドに行く必要がない)、電気代が安い、走行音の静かさ、運転のしやすさといった声が寄せられたそうだ。
ボディカラーに新色「シルキーライラック」追加!
そんなサクラに久々に乗ってみた。コースは横浜市内から逗子を目指す30kmちょっとのルートを往復するというもの。バッテリー満タン状態で出発すれば途中で充電する必要のないプチドライブだ。
ここでサクラの概要をおさらいしておきたい。
ボディサイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,655mm、ホイールベースは2,495mmの軽サイズ。車重は1,080kgだ。最高出力64PS、最大トルク195Nmを発生するモーターで前輪を駆動する2WDで、出力では軽自動車枠の最大値、トルクは2.0Lエンジン車並みとなっている。
今回乗ったのは、2024年5月の一部仕様変更を経た最新モデル。試乗した最上級の「G」グレードでは、助手席シートヒーターが標準装備になったり、EV専用の日産コネクトナビシステムに「Amazon Alexa」が導入されたりしている。
ボディカラーは仕様変更で登場した新色「シルキーライラック」で、ルーフが「チタニウムグレーM」の2トーン(特別塗装色)。Aピラーからルーフ後端にかけて入るカッパーの細いアクセントラインがオシャレだ。ライラックというカラーは、北海道の街路樹などでおなじみの薄い紫色の花からイメージしたという。
試乗車(Gグレード)の価格は308.22万円。ボディカラーやプロパイロットパーキング、プレミアムインテリア、ドラレコなど55万円近いオプションを含む総額は363万円弱で、軽としては破格の高額モデルと言える。ただし、国のCEV補助金55万円や各自治体の補助金を組み込めば、軽のトップグレードモデル並みの200万円台半ば前後で手に入れることも可能だ。
ちなみにランニングコストについては、月間走行距離を750kmとして軽自動車(ガソリン20km/L)と比べた場合、電費7.96km/kWh(電気単価31円/kWh)のサクラは5年間のエネルギーコストで21.8万円、メンテナンスコストでは6.7万円(EVはエンジン車より点検項目、交換部品が少ないので金額が安くなる)、合計で30万円近くお得になるというデータがあるとの説明だった。
さすがはEVの日産! 軽らしからぬ走りに感心
さて肝心の走りだが、相変わらず感心させられることが多かった。
みなとみらいICから乗った高速では、すぐにACCの「プロパイロット」を起動。サクラのEVシステムは普通車の急な加減速にも全く遅れることなく追従するトルクフルな走りを見せてくれる。前走車のドライバーはルームミラーを見ながら、「軽自動車なのに、しっかり付いてくるな……」と思っているかもしれない。
朝比奈ICで降りてすぐの金沢街道には、逗子に続くアップダウンがきつくてタイトなワインディングコースがある。ここではドライブモードスイッチ(ステアリング右下にあるのでちょっと見つけにくい)で「SPORT」を選び、さらに「e-Pedal」ボタンを押して、右足のアクセルペダルだけによるちょっとしたスポーツドライビングを楽しんだ。
適切な前後重量配分とボディ下面に搭載したバッテリーによる低重心、さらには高いボディ剛性が相まって、ハイトワゴンがよく見せる腰高感がなく、安定した旋回性能を発揮してくれるのがいい。よく調教されたモーター出力の出し入れ加減とシャシー性能は、日産が初代リーフから長年培ってきたEV技術の賜物だろう。
さて、軽EVとして他の追従を許さなかったサクラだが、ここへきてライバルのホンダから商用軽EV「N-VAN e:」が登場し、今後は「N-ONE」のEV版がデビューするとの話がある。そのあたりを日産の担当者に聞いてみると、「(ほかの軽EVにも)早く出てきてもらって、このジャンルがもっと盛り上がることを期待しているんです」と余裕のお言葉だ。
でっかいバッテリーを積んで遠くまで早く行ける大艦巨砲主義(例えが古い)の高級EVではなく、価格が安くて手に入れやすい軽EVが、日本のEV普及の鍵を握っていることが確信できた今回の試乗会だった。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら

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