“仙人”がホッピーを供する飲兵衛の桃源郷『ホッピー仙人』(横浜・野毛)に行ってきた!【吉田類が名付け親・吉田マッスグの酒場回想記】

2021年11月12日(金)10時49分 食楽web


「ホッピー(瓶白)」500円。樽生サーバーからホッピーが注がれる生「ホッピー」もある | 食楽web

 コロナ禍で「三密」という言葉が世の中に浸透してから、いかにそれを回避するかは、酒場の至上命題となっています。席の間隔を開ける、窓を、扉を開放する、入店客を制限する。しかし、酒場には、その三密が売り、むしろ醍醐味の店が多くあるのも事実です。

※吉田マッスグとは……普段は本誌『食楽』の副編集長。酒場のカリスマ・吉田類さんが名付け親となり、酒場をめぐる時にだけ「吉田マッスグ」を名乗る。ここでは、その吉田マッスグが大衆酒場をテーマに、事実と妄想が交錯する酒場の物語を紹介していきます。


写真はコロナ禍以前に撮影されたもの。現在、客の定員は8名までで営業している

 その代表格といってもいいのが、横浜・野毛にある『ホッピー仙人』。店があるのはJR桜木町駅から歩いて5分ほどの場所にある都橋商店街の2階(商店街といっても集合アパートメントのような建物におよそ60店の飲食店が並ぶ)。わずか5坪ほどの空間に多いときには20人ほどの客が、決して大げさではなく身を寄せ合うように飲む。それほどまでして、飲兵衛が集まるのはなぜか──それは、ここでしか味わえない、“仙人がつくるホッピー”があるからです。

仙人が仙人たる所以。ここでしか味わえないホッピーの旨さの秘密とは?


客が一杯目を注文したら全員と乾杯。仙人の温かな人柄も多くのファンを惹きつける理由

 “仙人”こと、店主の熊切憲司さんは、20年ほど前にホッピーの専門バーを開き、これまでに数十万杯以上のホッピーを注いできた、まさにホッピーの仙人のような方です。

 では、その仙人が注ぐホッピーの魅力とは何か。冷蔵庫でしっかりと冷やしたグラスに、焼酎を注ぎ、ホッピーを注ぐ。たったそれだけなのに、明らかにここのホッピーは、他とは味わいが違います。ホッピー自体が持つふくよかな甘みが感じられて、焼酎のアルコール感も程よいバランスでホッピーに溶け込み、なんといいますか、味が一体化しているのです。理由はどこにあるのでしょうか。

 理由のひとつは焼酎。『ホッピー仙人』で使っている焼酎は、大衆酒場の定番キンミヤ焼酎。しかし、ここでは20度と25度をあらかじめ混ぜて、寝かせています。こうすることで焼酎がよく馴染み、他にはない、絶妙なアルコールのバランス感でホッピーに溶け合うのです。


トルネード注ぎ。右手で持つ手首回し返しつつ、グラスを持つ手は逆に回し対流をおこす

 次に仙人の“技”があります。それが、秘技「トルネード注ぎ」。焼酎を入れたグラスにホッピーを注ぐ際、ホッピーの瓶を回すようにして注ぎ入れることで、グラス内でホッピーが対流を起こす。いわゆるバーテンダーがマドラーを使って混ぜ合わせる“ビルド”を、この“注ぎ”の技で完結させてしまうのです。すると、ホッピーを注ぎ入れるだけでは表現できない、焼酎とホッピーの一体感が生まれるのです。

 簡単にいえば、これが『ホッピー仙人』で供されるホッピーの旨さの理由。理屈では理解できていても素人では真似しようにも真似できない技と味。ホッピーを何十万杯と注いできた仙人だからこそたどり着ける味なのです。

 話を戻すと、『ホッピー仙人』を三密の代表格としたのは、そんなホッピーを求め、客が引きも切らずに押しかけるから。カウンターに並ぶ8つの椅子はあってないようなもの。席が埋まれば、席の後ろへと入れ替わり立ち替わり、立ち飲み客がやってき店内をホッピー党で埋め尽くす。まさに密集・密接。(現在の定員は8名で営業中)

 客がホッピーを注文したら、仙人と皆が乾杯をするルールも、客同士の距離感を縮め、密をより濃く所以。そして、常連客も一見客も分け隔てなくもてなす仙人の度量の大きさ。ホッピーの仙人がいる店は、まさに飲兵衛の桃源郷といえるのかもしれません。

●SHOP INFO

店名:ホッピー仙人

住:神奈川県横浜市中区宮川町1-1-214 都橋商店街 2F
営:19:00〜22:00
休:日曜、その他不定休あり

●著者プロフィール

吉田マッスグ
食楽本誌副編集長を務め、日々全国のトップレストラン、生産者などを取材する傍ら、酒場めぐりをライフワークにする。『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の番組本などをはじめ、これまでに吉田類氏とともに全国の多くの酒場を巡ってきた。吉田マッスグは、師と仰ぐ吉田類氏が名付け親。

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