【名馬伝説・番外編】女性騎手が上位を独占する日は来るか!? 藤田菜七子の功績と女性ジョッキー列伝

2024年11月13日(水)6時0分 JBpress

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

昭和歌謡研究家・堀井六郎氏はスポーツライターとしての顔もあります。とくに競馬は1970年から今日まで、名馬の名勝負を見つめ続けてきました。堀井氏が語る名馬伝説の連載です。


ミカエル・ミシェル来日とJRAの女性騎手たち

 フランスを代表する女性騎手、ミカエル・ミシェル騎手が今年も10月に来日しました。2度目の参戦になりますが、昨年同様、大井競馬場の山崎裕也厩舎に所属し、12月20日まで南関東公営競馬場(大井、船橋、川崎、浦和の4か所)中心に騎乗します。

 コロナ禍もあり、彼女としては4年ぶりの騎乗となり、前回2020年の短期免許では267戦30勝を挙げ、南関東公営競馬の短期免許期間における勝利数歴代1位を記録しています。

 騎乗数や勝鞍は少ないながらも、レースに華やかさをもたらすことのできる存在で、今年もミシェル・スマイルでファンを楽しませてくれることを期待します。何といっても母国フランスにおける女性騎手年間最多勝記録(72勝)を保持するトップジョッキーなのですから。

 ミシェル来日と時を経ずして、競馬ファンにとって切ないニュースが発表されました。JRAの女性ジョッキーを牽引してきた藤田菜七子騎手の引退発表です。

 藤田登場以前にもJRAには女性騎手が6人在籍していました。

 フジテレビ系『みんなのKEIBA』でおなじみの細江純子は1996年にデビュー(JRA通算勝利数14勝)、同期生に牧原由貴子(同34勝)、田村真来(同9勝)がいます。

 翌1997年には板倉真由子(1勝)と押田純子(2勝)もデビュー、成績は今一つでしたが、この期間は女性騎手が5人在籍していたわけで、なんとなくではありましたが、女性ファンも増えたような気がしました。かつては鉄火場の雰囲気も漂っていた競馬場の雰囲気に、女性騎手の登場でささやかながら華やかさが持ち込まれたように感じられたものです。

 あいにく前記の女性騎手たちは目立った成績が挙げられず、大きなレースに騎乗することもほとんどなく、短い年数で引退していきました(牧原のみ18年の長期在籍。ただし、後半9年間は勝利なし)。


藤田菜七子の実力と功績

 女性騎手にとってこうした厳しい時代の後に登場したのが藤田菜七子でした。

 2016年のデビュー以来、2024年に引退するまで9年間にわたり毎年勝鞍を重ね、通算166勝、加えて公営地方競馬でも24勝という立派な成績を収めています。JRA女性騎手の年間最多勝や通算勝利数、G1レース初騎乗などの記録はすべて藤田が残したものです。

 また、見逃されがちですが、この間、2度にわたりJRAから「年間フェアプレー賞」を受賞しているのは特筆に値します。

 まだ27歳、ようやくジョッキーとして脂がのってきた時期でもあり、今年の7月にはJRA職員の男性との結婚が発表されたばかりでもあるし、気持ちを新たに女性騎手のリーダーとしてまだまだ活躍してほしかっただけに引退が残念です。 

 JRAにおける藤田の功績は、単に女性騎手として優れた成績を収めたということだけでなく、競馬ファンの枠を広げ、競馬場への間口をさらに広げてくれたことにもあります。現在、JRAに在籍している女性騎手で藤田の影響を受けていない人はいないでしょう。

 今年4月13日に行なわれた福島競馬場第2レース(16頭立て)で、当時JRAに所属していた女性騎手7名のうち6名が騎乗、同一レース女性騎手最多騎乗となるレースがありました。6騎手は次のとおりです。

・藤田菜七子(デビュー8年目、当日26歳)
・永島まなみ(同3年目、21歳)
・古川奈穂(3年目、23歳)
・河原田菜々(2年目、19歳)
・小林美駒(2年目、19歳)
・大江原比呂(1年目、19歳)

 同じ日、残りの女性騎手・今村聖奈(同3年目、20歳)は阪神競馬場で騎乗していたため、このレースには参戦できませんでした。

 残念ながら、このレースでの女性陣の最先着は6着の小林にとどまりましたが、いつの日かレース結果が点灯される競馬場の掲示板(5着までが点灯)に女性騎手が上位を独占する日が来ることを想像してみるのも、今後の楽しみのひとつでしょう。


忘れてはいけない地方競馬のレジェンド

 前述のとおり、JRAには女性ジョッキーが6名在籍していますが、かたや地方競馬には現在8名の女性騎手が登録されています。

 そして、地方競馬を代表する女性ジョッキーといえば、この人を忘れてはいけません。名古屋競馬場所属の宮下瞳騎手です。すでに初騎乗から30年近くなる大ベテランですが、NHKや民放のテレビ番組で紹介されたこともあって、競馬ファン以外にも知られた存在です。

 2011年に一度引退し、子育てしていましたが、3歳になった長男からの希望で2016年に復帰。この原稿を執筆している時点で通算1282勝を挙げているレジェンドです。

 女性騎手のレジェンドといえばこの人のこともご紹介せずにはいられません。土屋薫です。

 1958年生まれの土屋は、1978年に浦和競馬場でデビュー。のちに大井競馬場に移籍しますが、なんと1985年に渡米。1992年に引退するまでアメリカで263勝を挙げています。

 ご主人はアメリカ・カナダで殿堂入りしている名騎手、サンディー・ホーリー(こちらもレジェンドで、年間515勝という大記録の持ち主)。夫妻で来日した際に元騎手・田原成貴と飲食店で鼎談したときの映像がYouTubeで見られます。

 また、JRAの女性ジョッキーに関心のある方は、競馬開催日にネット検索すると、その日の女性ジョッキー騎乗予定馬がわかるようになっています。人気と注目度は、すでに武豊騎手並みと言えるでしょう。


男女の斤量差と今後

 男女が同じ場所、同じ土俵で勝ち負けを争う勝負事がスポーツの世界ではほとんどない中、競馬は特殊な分野と言えます。まして、その勝ち負けが観衆のフトコロと直結するのですから、騎手へのプレッシャーは相当なものがあるでしょう。

 本来なら男女による違いを意識しないことが理想の姿でしょうが、ギャンブルという側面を持つこともあり、藤田菜七子デビューの3年後の2019年3月、JRAはレース騎乗時の負担重量(騎手自身の体重、馬具、重りなどの合計のキロ数。斤量とも言います)に関するルールを変更しました。

 それまで男女一律だった競走馬が背負う斤量を男性騎手より女性騎手は2キロ軽くするという特典ルールを設定したのです(大きなレースは除きます)。

 競馬の場合、優れた腕を持つ女性騎手でもゴール前の最期の追い比べになると腕力の違いで男性騎手にはかなわないとされることからの配慮です。賛否両論あるかと思いますが、肉体的な違いによる特典ということです。

 できれば、近い将来、米国のように男女共に同じ斤量で戦えるようになるのが理想かとも思います。1キロ軽くなれば1馬身の違いが出ると言われる斤量の差がレース結果の言い訳とならないためにも、男性騎手を凌ぐような実力を持った女性ジョッキーの出現が待たれます。

 ご参考までに、現在、競輪(自転車)では男女の力量に大きな差があるため男女混合レースは行なわれていません。競艇(モーターボート)の場合は同じ条件で男女混合レースが行なわれています。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:堀井 六郎

JBpress

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