<睡眠は深ければいい><睡眠時間は長ければいい>かというと実は…15万人の睡眠を改善した専門家が最新調査を解説

2024年11月14日(木)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

厚生労働省が公表した「令和4年 国民健康・栄養調査」によると、1日の平均睡眠時間は、6時間以上7時間未満の割合が最も高いそう。そのようななか、上級睡眠健康指導士・角谷リョウさんは「睡眠不調を招くのは、日本人であるがゆえだったり、日本が睡眠にあまりにも適さない環境にさらされていることだったりが大きな原因」と語っています。そこで今回は、角谷さんの著書『超熟睡トレーニング: 15万人の“日本人”のデータを集め、睡眠改善をしてきた「上級睡眠健康指導士」だけが知っている』から一部引用、再編集してお届けします。

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「睡眠は深ければいい」「睡眠時間は長ければいい」は×


睡眠中、脳がずっと同じレベルで休んだ状態になっているわけではありません。眠っている間にも脳の活動はさまざまに変化しています。

「ノンレム睡眠」とか「レム睡眠」という言葉を聞いたことはありますか? 人の睡眠はこの2つの睡眠状態で構成されます。

さらにノンレム睡眠には2種類あって、脳の活動の停止レベルによって「深いノンレム」と「浅いノンレム」に分けられ、レム睡眠と合わせて3つの睡眠状態があるということになります。

レム睡眠は眠っているときに眼球が素早く動くこと(英語でRapid Eye Movement)から、この名が付けられました。脳波を見るとレム睡眠のとき、脳の中でも記憶や学習に関わる偏桃体や、大脳辺縁系が活動しています。そして情報の整理や統合、記憶の定着がなされていると考えられています。

ちなみにレム睡眠では、脳の活動が活発ですが体は完全に弛緩(しかん)している(緩んでいる)ため、レム睡眠中に急に目覚めると体が動かない「金縛り」状態になってしまいます。

レム睡眠中でも脳と体がつながっていると、夢の動きが体に出てしまってベッドから落ちたり、周りで寝ている人に危害が加わったりして非常に危険です(これは睡眠の病気の1つで、レム睡眠行動障害と呼ばれています)。

「最重要」と言われてきたノンレム睡眠


ノンレム睡眠では脳の活動が低下し、睡眠が深くなりますが、その深さに従ってさらに3段階に分けられます。

以前は4段階でしたが、深い睡眠N3、N4が統合されN3になり、現在ではノンレム睡眠は3段階が世界標準です。そしてN1、N2を浅いノンレム睡眠、N3を深いノンレム睡眠と呼ぶことになっています。


『超熟睡トレーニング: 15万人の“日本人”のデータを集め、睡眠改善をしてきた「上級睡眠健康指導士」だけが知っている』(著:角谷リョウ 監修:林宏明/Gakken)

ノンレム睡眠では大脳皮質の神経細胞(ニューロン)の活動が低下します。眠りが深くなればなるほど脳全体の血流も低下するため、起きている時とは正反対の脳の状態になり休息度合いが上がります。脳が完全に休息している状態で、パソコンにたとえるとスリープ状態となります。

一昔前は、深いノンレム睡眠が最重要と言われていました。なぜかと言うと人の健康維持に作用する「成長ホルモン」が、深いノンレム睡眠のときに大量に分泌されるからです。

「成長」という名前が付いていますが、成長ホルモンは子どもの成長のためだけに働くものではありません。細胞を修復して免疫機能や認知機能に関わったり、代謝調節に関与したりするなど、人の一生にわたって重要な役割を担うものです。

また、アルツハイマーの主な原因とされる頭の中のアミロイドβタンパクも、深い睡眠のときに排出するようになっていて、深い睡眠が足りないとどんどん頭の中に蓄積されていきます。

つまり睡眠時間がたとえどんなに長くても、深い睡眠が足りていなければ疲労回復ができず、睡眠としての役割が果たせていないということになります。

これらのことから「深いノンレム睡眠を十分取ることが最重要」というのが定説になっていました。

レム睡眠の重要な役割


ところが最近、レム睡眠と呼ばれる脳が動いている睡眠にも意味があるということがわかってきました。たとえ深いノンレム睡眠が足りていたとしても、レム睡眠が足りていないと、長期的に見ると情緒が不安定になることがわかってきたのです。

さらに浅いノンレム睡眠についても、新しい神経組織を作ったり、記憶や技術の習得を行うなど重要な役割があることがどんどんわかってきました。

要は深いノンレム睡眠、浅いノンレム睡眠とレム睡眠の3つのいずれも必須で、バランスが取れている状態で存在するのが大切だということ。どれも欠かせません。

注意したいのは、睡眠時間が長かったとしても、これら3つの睡眠がバランスよく含まれているとは限らないということ。

深いノンレム睡眠がなく浅いノンレム睡眠がずっと続いて、睡眠時間だけは長いとうつになりやすくなります。また入眠すぐのレム睡眠が長いと、これもまたうつになりやすいとの報告もあります。

そして睡眠にはリズムが大切です。通常、入眠から30分後に深いノンレム睡眠に入ります。そして眠りに就いてから1時間ほど経つと、徐々に眠りが浅くなりレム睡眠へと移行します。

この「ノンレム睡眠→レム睡眠」の90分周期を一晩に3〜5回繰り返し、後半になるにつれてレム睡眠が増えて眠りが浅くなり目覚めるというパターンです(下図)。

いい睡眠を満たすための3つの条件


いい睡眠には条件が3つあります。

条件の第1は、深いノンレム睡眠が1時間(理想は1時間半)以上あることです。

第2は中途覚醒が少ないこと。現代人はいくつものタスクを抱え神経が高ぶっていることが多いため、夜中に目が覚めやすくなっています。

睡眠を記録するデジタル機器があるのですが、これを睡眠不調の人に装着して寝てもらうと、一晩に5、6回覚醒している人はザラで、中には10回以上覚醒している人もいます。

本人にはっきりと「起きている」という自覚はないのですが、「そういえば夢か現(うつつ)かの状態が続いていました」と言います。この「夢か現か」の状態も、覚醒した状態と考えられます。

第3は、最初に深い睡眠に入り、そのあと浅い睡眠と深い睡眠を繰り返していること。要はバランスがよくリズムのある睡眠が取れているかどうかということです。

先ほども触れたように、レム睡眠は長いこと軽視されてきました。深い睡眠さえ取れていればいい、とまで主張する専門家もいた時代もあります。

ところが最近ではレム睡眠が少ないと病気にかかりやすくなったり、メンタルが病みやすくなったりすることが調査でわかってきました。

その原因もいくつか解明されてきて、レム睡眠中には大脳皮質で活発な物質交換が行われており、そのことが脳のリフレッシュにつながってさまざまな好影響を生み出しているようなのです(とはいえレム睡眠には解明されていない領域も多く、睡眠界ではホットなジャンルです)。

※本稿は、『超熟睡トレーニング: 15万人の“日本人”のデータを集め、睡眠改善をしてきた「上級睡眠健康指導士」だけが知っている』(Gakken)の一部を再編集したものです。

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