内航船舶技術支援セミナーが開催 - 今年のテーマは『連携型省エネ船の普及に向けた取り組み』
2024年11月14日(木)16時45分 マイナビニュース
鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下JRTT)は10月22日、大阪にて令和6年度 内航船舶技術支援セミナーを開催。内航船の省エネ・自動化・労働環境改善の現況について報告し、『連携型省エネ船の普及に向けた取り組み』について紹介した。本稿では、オンライン配信された内容をまとめてお伝えする。
○地球温暖化対策計画に向けて
冒頭では、JRTT理事の有働隆登氏が挨拶した。JRTTでは毎年この時期に、内航海運関係者に向けた本セミナーを実施している。その目的は、最新技術などの情報を業界で共有することにある。
有働氏は「政府が令和3年に改定した地球温暖化対策計画において、CO2排出削減目標が定められました。それによれば、内航海運では2030年度までに(2013年度比で)約17%の削減を目指します。連携型省エネ船の開発・普及は、カーボンニュートラル推進に向けた取り組みであるとともに、技術面では船舶の自動化、DX化を進めます。そして労務負荷の軽減、労働環境の改善、安全運転の向上にも寄与します。つまり海事クラスタ全体で連携して取り組む必要がある施策なんです」と話した。
前半は、2件の基調講演を実施。東京大学の村山英晶教授は「これからの海事分野の方向性」について講演した。地球温暖化対策が喫緊の課題となっている昨今。村山教授は「国内において物流(運輸部門)はたくさんのCO2を排出していますが、その大半は自動車によるもの。船舶が排出するCO2は物流全体の5%ほどで、非常に優秀な輸送手段と言えます」と説明する。
グローバルで見ても、海上輸送量は右肩上がりの状況。「国際海運ではGHG(温室効果ガス)排出削減の取り組みが厳しくなってきました。内航船も、こうした動きに追従する必要があります」と村山教授。ちなみに、近年では風力推進装置の開発なども進められているという。
水素、アンモニア、あるいはLNG(液化天然ガス)などを燃料とするエンジンの開発も進められている。「水素、アンモニアを使うには、まだ解決すべき問題も残っています。どうしてもタンクは大きくなるし、水素は引火性、アンモニアは毒性が強い。コストも高くなりがちです」。
最後は、コンピュータ上にコピーをつくる「デジタルツイン」の概念も紹介した。これまで航空機のエンジンをモニタリングするのに使われ、またスペースシャトルの開発にも採用された歴史がある、と村山教授。「内航船でも、こうしたシステムを導入するタイミングがあるかも知れません」と話す。
「船舶や航空機の事故の多くはヒューマンエラーによるもの。これまで事故の80%くらいを占めると言われてきました。今後、船舶はますます大型化・複雑化し、海上輸送量は増え続け、一方で船員さんは減っていく。そこで、デジタルを活用したサポートが必要になってきます。いま私たちは商船三井さんの協力を得て、実際の船舶でデジタルツインの実証実験をスタートさせました」(村山教授)
続いて、海上・港湾・航空技術研究所の平田宏一氏が登壇した。同氏は「連携型省エネ船のコンセプトと今後の在り方」をテーマに掲げる講演のなかで、内航未来研究会の連携型省エネ船『SIM-SHIP 1』を紹介。同船のコンセプトを踏まえて、運航、離着桟、荷役、停泊時の省エネ技術を搭載した499GT貨物船「國喜68」が建造された、と説明する。
「國喜68は、積荷の満載時に船速11.0ノットで運航する場合、約10.2%のCO2削減効果があり、また軽荷時に船速11.5ノットで運航する場合、約11.5%のCO2削減効果が得られるという結果が得られました」と平田氏。このあと、離着桟、荷役、停泊時の省エネ技術についても紹介したうえで「2013年の貨物船と本船の実運航データを比較すると、満載時に基準値を30%程度下回ることが分かりました。これは2030年目標船よりも高い省エネ性能を有しています」と報告した。
○塗料やプロペラ技術で省エネ実現へ
後半には、数件の技術講演が行われた。中国塗料の川上修氏は「最新低燃費防汚塗料」について説明する。同社が手がけているのは、船体に塗る塗料。川上氏によれば、塗膜表面が平滑に仕上がる『低燃費防汚塗料』(2010年発売)は船体への摩擦抵抗が低減するため、燃費低減効果を発揮できるという。
船底汚損と燃費増加の関係についても言及した。船底の塗料が劣化してライトスライム状になると9%も燃費が増加する。これがヘビースライムになり、やがてフジツボが付着し出すと最大で84%もの燃費増加につながってしまう。「摩擦抵抗が増えると、それだけ馬力増加が必要となります。コストもかかり、CO2の排出量も増えます」と川上氏。
同社では防汚塗料の『シープレミア3000PLUS』を提供中。実際、内航LPG船や内航タンカーなどに塗装したところ、約24か月の航行を経ても防汚効果は継続しており、フジツボの付着も確認できないとアピールする。
「近年、地球温暖化に伴う海水温の上昇により、海域における付着生物の種類も変化しています。汚損しやすい環境が拡大しており、従来品では対応できないケースも増えました。特に高汚損海域に頻繁に停泊する船舶は、修繕ドックにおけるコストの増加、工期の延長にもつながっています。中国塗料では、より最適な船底塗料を開発・提供することで、海運造船業界のお役に立てるようこれからも精進していきます」(川上氏)
ナカシマプロペラの岡田雄大氏は「省エネ・省力化に挑むナカシマプロペラ技術の最前線」について講演。同社では運航効率の改善という側面から省エネ・省力化にアプローチしている。たとえば先述の連携型省エネ船『SIM-SHIP 1』にも、複数の省エネ装置を組み合わせて最適プロペラと統合設計した『Monster Package』、あるいは全旋回型ジェットスラスタ『STEER-jet』といったナカシマプロペラの技術を導入している。
今治港で実施したSTEER-jetを使った実証実験では、低喫水の状態でも旋回(回頭)動作が問題なく行えることを確認。さらに横移動についても高度な操船性を確認できた。これを受けて岡田氏は「着桟時間が短縮できることで、トータルの運航時間の短縮にも寄与できます」と説明する。
またMonster Packageでは、船のプロペラを中心にZone 1、Zone 2、Zone 3に切り分けた省エネ付加物の商品を展開。Zone 1にはネイバーダクト、コンポジットステータ、Zone 2にはプロペラ・エコキャップ、Zone 3にはアルティメットラダーバルブを提供して、省エネ効果を最大限に引き上げる。
このほか、高度空気潤滑システム(ALS)の『ZERO』も開発中。高効率なプロペラ、省エネ付加物との組み合わせにより、船体の抵抗改善、推進効率の改善を実現していく(ALSとは、送風機で圧縮した空気を船底まで送り、船底と海水の間に気泡流を生成することで摩擦抵抗を低減するシステムのこと)。ナカシマプロペラでは、今後とも船のライフサイクル全体を支えるソリューションの提供に邁進していく、としている。
三菱造船の玉原正和氏は、タブレット型運航支援システムを紹介。同社では2024年12月より、船版ポータブルナビの『Navin(ナビン)』を提供予定としている。これは三菱重工の開発したSuper-Bridge-X(SB-X)をベースにしたもので、電子海図には日本水路協会のnew pecのデータを採用した。玉原氏は「航海計画を簡単に作成したい、ETAをリアルタイムに確認したい、トレーニングせずにすぐに使えるシステムが欲しい、大規模な改修工事をせずに導入したい、といったお客様の声に応えるシステムです」とアピールする。
壇上ではデモが披露された。船舶の航行中、ナビンからは「航路上に乗りました。進路を171度にしてください」「変針点に到着します。進路を103度にしてください」「前方1.5マイル以内に座礁危険区域があります」といった呼びかけが行われる。前方より危険が迫ったときには「危険船衝突回避のため、避航航路を計画します。進路を100度にしてください」とアナウンス。そして渡航計画も自動作成した。
このほか利用者の「速力は?」という問いかけには「船速14.0ノットです」と応答。同様に「危険船は?」「危険船はありません」「座礁危険は?」「前方1.5マイル以内に座礁危険区域はありません」「左舷前方他船は?」「左舷前方に1隻」といったやりとりが行われた。
現在は、内航船の数隻でトライアルを実施中。玉原氏は「ユーザーさんから、タブレットで操作できるので使いやすい、現在の状況を問いかければ電子音声で回答してもらえるので周囲を監視したまま状況を確認できる、居室や食堂で運航状況を確認できるので操船していない時のストレスまで減った、といった好意的な感想も数多く寄せられています」と笑顔で報告した。
近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら