「データ」が野球界にもたらすメリットとデメリット

11月15日(木)6時0分 JBpress

メジャーではスタットキャストシステムの導入で、ホームランの打球角度など、プレーの細かい「データ」がすぐに提供できるようになった(MLB.comより)。

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 サンディエゴ・パドレスの顧問として、日米の野球に通じる斎藤隆さんは、昨今の野球事情が大きく変わったことを実感している。前回紹介したスカウト会議におけるバトルもそうだが、選手やチームを成長させるさまざなまツールが登場したことがそのもっとも大きな理由だ。特に「データ」の量はすさまじい。(田中周治、スポーツライター)


ホークスが作った最強のスタジアム

 米国球界を席捲しているデータ野球の波は、日本球界にも確実に押し寄せてきている。

 なかでも今年、日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスは、日本球界で最も先端的なデータ野球を取り入れているチームといえるだろう。

 本拠地のヤフオクドームには、トラックマン(レーダーによってボールの速度や軌道を計測する装置)だけでなく、高性能カメラの映像で選手の動きを解析するシステムが導入されている。つまりメジャーリーグの「スタッドキャスト」(レーダーでボールの速度、軌道などを解析するトラックマンの機能と、高性能カメラで選手の動きを解析するトラキャブの機能を合わせたシステム)と同等のデータを活用できる環境にある。

 また、そのシステムはヤフオクドームのみならず、2・3軍が使用するHAWKSベースボールパーク筑後にも導入されているほどだ(この施設はすさまじく、例えば24時間稼働の32台のカメラを設置され、チームから支給される選手のiPadに配信、すぐさまテレビでもチェックが可能だ)。

 一方、日本シリーズで対戦し、セ3連覇を達成した広島カープは唯一、導入を果たしていない。この事実は、カープが数字ではないデータ(選手の性格など)や経験値(スカウトの選手評価眼など)を上手に活かすことで強いチームを作り上げられることをも示している。
 
 さて、この現象をどう捉えていくべきなのか。現在サンディエゴ・パドレスで顧問を務める斎藤隆さんは、データの有効性を認めつつも、「効率(データ)面に走りすぎるとき、野球そのものの魅力がどこにあるのかを考えなければいけない」と警鐘を鳴らす。


データ至上主義が陥る魅力のない野球

「野球はスポーツであり、ゲームでもある。だから、試合に勝つことが両チームの第一目的です。でも、NPBは“プロ”野球ですからね。プロは勝利を目指しながら、ファンに支持されるという面も両立させなければならないと思います」

 勝つだけではファンの数は増加しない。それが斎藤さんのプロフェッショナルに対する考え方だ。例えば、選手のタレント性は重要な要素である。

「魅力的な選手、ファンが『見たい』と思う選手。球団側はデータに表れない選手のタレント性も評価すべきだと思います。選手にとってはそのタレント性がプロのプレーヤーとしての一つのツールになると言ってもいい。それがデータを偏重した編成になると、面白みはまったくない。そんなチームになってしまうように思うんです」

 たとえば、現在の日本プロ野球界には、右投げ左打ちで俊足巧打タイプの野手が数多く在籍している。いわゆる、バランスの取れた凡打の少ないタイプの打者だ。

「データ的な視点で考えれば、一塁ベースに近く右打者よりアウトになりにくい左打者を揃えるのは理に適っています。勝つためには正しい選択なのかもしれないけれど、そんな同じタイプばかりを集めたチームに魅力がありますか? 投手にも同じことが言えます」

「数字のデータだけで勝利を最優先に判断すれば、オリックスの金子千尋投手のタイプばかりになりますよね」と分析する。

「無駄のないフォーム。同じ腕の振りから速球と多彩な変化球を操る能力。抜群のコントロール。バランスが良くて欠点のない投手です。実際の金子投手の場合は、そのすべての能力が卓越しているので、それこそがタレント、個性であると呼べます。しかし、そういう存在は滅多にいません。でもデータで言えば彼は間違いなくいい。すると、すべての能力で金子投手よりやや劣る金子ジュニアみたいなタイプの投手ばかりになってしまう」

 あえて極端な例でそう話してくれた斎藤さん。それは一方で、現状の「データ」の扱われ方が、数字的にいいものを追いかけてしまったり、それを過信してしまうといった、活用に大きな課題があることを示唆している。

「粗削りだけれど、力のあるボールを投げる投手を狙いにいこう。欠点はプロに入ってから修正できる。また、どんな試合展開になってもベンチで声を出し続ける選手が多くいるチームを作ろう。そういう球団があってもいい。そういう個性がファンを引き付ける。それがプロの野球なんだと思います。そうしたデータで表現されない部分を、いかに残していけるか。そしてそこにデータをどうやって活用していくか。コーディネーターのような存在が不可欠ですね」


大きな前進は客観性のある指導

 一方、「データ野球」が現代にもたらした大きなメリットを「感性のみによる指導を受ける機会が減ったこと」に挙げる。

「野球のプレーでは確かに感性は大事だし、選手と指導者の感性が噛み合えば素晴らしい成果を期待できる。ただ往々にしてあることなのですが、噛み合わなかったら・・・選手にとって自分に合わない感性を押し付けられるほど理不尽に感じることはありません。しかし、きちんとデータに裏付けられた指導が行われれば、そんな理不尽さも減っていくと思います」

 指導する側の知識や経験に基づく指導はあってしかるべきだ。しかし、その方法、感覚がすべての選手に当てはまるわけではない。納得できない、と感じることもあるだろう。そんなとき、「データ」という客観的なものが存在することで、選手の理解や関心は大きく変わってくる。

 より具体的な目標設定が可能になることで、指導方法も選手の信頼度やモチベーションも大きく変わってくる可能性があるわけだ。

 さて、それではこの膨大な「データ」の出現により、野球はこれからどう変わっていくのだろうか? 斎藤さんは申し訳ない顔をして言った。

「データ野球の完成形が何なのか、まだハッキリと私にはわかりません。野球とデータは切っても切り離せない関係なので、そもそもデータ野球に完成形があるかどうかも定かではありませんし・・・。ただ一つだけ確かだと思うことは、データよりも先に人・・・つまり選手が存在すべきだということです。あくまでデータは選手がより成長するため、チームがより魅力的で強くなるためのもの。データありきで進めていくと、先ほども説明したように、最終的に野球が魅力を失ってしまうでしょう。データは野球をより面白くするものです。指導としても役立つでしょう。私もこれからもっとも研究し、学んでいきたいテーマです。メジャーでどう活用されているか、もっともっと聞いていきたい。でもデータのための野球には未来がない。現在の私はそう信じています」

筆者:田中 周治

JBpress

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