【親子でめぐる登録有形文化財】情熱あふれる石碑と歴史、横浜国立大学<学び舎編3>

2017年11月15日(水)17時15分 リセマム

名教自然碑の全景

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高崎経済大学地域科学研究所特命教授、NPO産業観光学習館専務理事の佐滝剛弘氏による「登録有形文化財」Web上ショートトリップ。原則、無料で見学でき、休日に足を伸ばせば見学できる文化財を紹介する。

 第1回の「東京大学」、第2回の「学習院大学」に続く第3回は「横浜国立大学」。一般にはあまり知られていない「登録有形文化財」を、親子一緒に訪ねてみてはいかがだろうか。

登録有形文化財って何?

 登録有形文化財は、古い建物や施設を活用しながら緩やかに保存していこうという制度のもと、全国各地で登録が進んでいる文化財です。現在、日本で1万1千件を超える国の登録有形文化財があります。

 登録されるのは築50年以上経っていて、その地域の景観上重要なものや二度と建てることが難しい建物や施設です。国宝や重要文化財よりも、もう少し軽い感覚で登録される、「(ヘビーではなく)ライトな文化財」と言ってよいかもしれません。実はみなさんが誰でも知っているものも登録されています。たとえば東京なら、東京タワー。大阪なら通天閣。どちらも都市のシンボル的存在ですね。また、旅館やレストランなど、施設の中で泊まれたり食事ができる文化財もかなりあります。

登録有形文化財・学び舎編その3:横浜国立大学

 さて、今回ご紹介する「横浜国立大学」という名前、大学名に「国立」とわざわざ入っているのを不思議に思ったことはないでしょうか?「東京国立大学とも名古屋国立大学とも言わないのにどうして横浜だけ?」と疑問が湧くのももっともです。それは「横浜市立大学」と区別するため、と答えたくなりますが、これでは満点の正解とは言えません。というのは、大阪市立大学も名古屋市立大学もあるのに、“大阪国立大学”や“名古屋国立大学”はないからです。

全国にただひとつ、大学名に「国立」のワケ

 正解は、戦後横浜でこれまでの官立の専門学校や師範学校を統合して新制の大学を作ろうとして「横浜大学」にしようとしたら、別の専門学校2校も同じ「横浜大学」で申請していたことがわかり、調整の結果、区別するために「国立」の名をつけたから、です。

 もうひとつの公立の学校(旧制横浜市立経済専門学校)は横浜市立大学、私立の横浜専門学校は「神奈川大学」になりました。こうした理由で、全国でただひとつの「国立」の名を正式に冠する大学が誕生したのです。

よここくの登録有形文化財「名教自然碑」

 この通称「横国(よここく)」は、横浜駅や横浜港の近くではなく、内陸部の丘の上にあり、しかも鉄道の駅から少々離れているので、首都圏に住んでいてもキャンパスを見たという人は少ないのではないかと思います。そのキャンパスの中に、ただ1基だけ登録有形文化財があります。“1棟”とは言わず“1基”としたのは、それが校舎などの建物ではなく、工作物だからで、その名の通り石で造られた碑が文化財なのです。

 キャンパスのほぼ真ん中に、樹々をバックに建つ高さが6メートルを超える四角い柱が「名教自然碑(めいきょうしぜんひ)」です。これは、横国の前身のひとつ、横浜高等工業学校(現在の理工学部)の初代所長である鈴木達治の功績を讃えたもので、完成は1937年、設計者も同校の建築学科の教授です。

 「名教自然(めいきょうしぜん)」とは、鈴木教授の教育理念で、「優れた教育は自然を尊ぶ」という意味です。この「自然」には、自主的、自発的といった意味が込められています。横国の理工学系の同窓会の名前も「名教自然会」です。

 碑の正面には鈴木教授自らが書いた「名教自然」の文字が大きく彫られ、うしろには鈴木氏の功績を記した撰文(せんぶん)が刻まれています。撰文の作者はジャーナリストとして活躍した徳富蘇峰(とくとみ そほう)で、実際の撰文を書いたのは、市内の大庭園「三渓園」にその名を刻む、横浜で最大の生糸の貿易会社を営んだ原富太郎(号:三溪)と、実に豪華です。三渓は、横浜高等工業学校に財政的な支援をしていました。

 由来を知らなければ通り過ぎてしまうかもしれない地味な石碑ですが、教育に情熱を賭けた先人やそれを支援した人々の歴史が詰まっているのです。なお、戦前に建てられた旧横浜高等工業学校の本館は横浜市南区に現存しており、横国の附属中学校の校舎として今も使われています。そして、こちらも登録有形文化財です。

 次回は「学び舎編その4:国際基督教大学」をご紹介します。
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 地域の歴史や文化と深く結びつき、築50年以上の歴史的建造物や施設が登録される国の登録有形文化財。民家や病院、工場、駅舎、市庁舎などさまざまな建物や施設1万1千件が登録されている。その多様性や活用法など登録有形文化財の概要を豊富な写真とともにわかりやすく伝える初めての一般書として、本連載著者である佐滝剛弘氏による「登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた」(勁草書房)が2017年10月に刊行された。地方創生や観光資源の再発見に注目が集まる中、登録有形文化財にも光が当たりつつある。「世界遺産や国宝などの著名な建物は見飽きた」「もっと身近な文化財を知りたい」という子ども、保護者にぴったりな“新発見連続”の一冊。

リセマム

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