『道の駅あいづ 湯川・会津坂下』は、「人の駅」「川の駅」としても機能する全国でも珍しい道の駅

2023年11月16日(木)16時0分 ソトコト


TOP写真:『道の駅あいづ 湯川・会津坂下』は、豊かな自然が広がる国道49号線沿いにある。 


川に親しむための「川の駅」や、防災ステーションとしての「人の駅」。福島県・湯川村と会津坂下町の2町村が整備した、3つの「駅」を兼ね備えた全国でも珍しい道の駅がある。




人の駅:大雨や豪雪、地震など非常事態に対応できる施設や備蓄がある、人の命を守る機能。



道の駅:新鮮な地場野菜や果物、こだわりの加工品が購入できて、レストランも人気。



川の駅:「川の駅エリア」は子どもの遊具を設置して、イベントも開催する、日常的に川に親しむ空間。



『道の駅あいづ 湯川・会津坂下』は、「川の駅」で「人の駅」です。


地域おこしの“核”を目指して村と町で立ち上げ。


『道の駅あいづ 湯川・会津坂下』は、福島県の会津盆地の中心地に位置し、米どころとして知られる湯川村と、酒や醤油・味噌の蔵元が多い会津坂下町の境目にある。この2町村での運営に加えて、洪水時の水防活動や災害時の復旧活動を行う「河川防災ステーション(「人の駅」)」と、にぎわいのある水辺空間を創出する「かわまちづくり(「川の駅」)」を併せ持つ全国でも珍しい道の駅で、2014年10月にオープンした。会津坂下町の町長の並々ならぬ思いからこの道の駅は誕生した、と当時は湯川村の職員で、現在は指定管理者『株式会社湯川会津坂下』で働く酒井昭夫さんが話してくれた。


かつては『湯川村役場』に勤務し、この道の駅ができるまでの様子や当時の町長の情熱を熟知する酒井昭夫さん。

「町長が湯川村に道の駅の運営を一緒にする相談を持ちかけてきたことが始まりでした。村にはおいしい米、野菜があるけれど、『農産物は近所に分け与えるもの』という認識がある。町では、これらに加えて酒や醤油・味噌も生産しているのに、よその地域から買いに足を運ぶ人は少ない。(村と町の境にある)宮古橋を渡ってわざわざ会津坂下町に来る人はいないから、湯川村の敷地に両町村のいいものが買える場所として『道の駅』をつくりたいという町長の考えでした」


「村と町にあるいいものを届けたい」。その情熱が、道の駅を立ち上げた。


町長が選定した場所は草が生い茂る雑地で、こんな所に道の駅をつくって大丈夫だろうかと関係者は一様に首を傾げたほどだったが、町長が熱く夢を語る姿に徐々に引き込まれていったそう。「ここは”会津のへそ“と呼ばれる場所で、会津磐梯山の北西には飯豊連峰があり、見渡す限りの田園地帯で、冬には白鳥が飛来するような環境です。『ここしかない』という政治家の鋭い勘と情熱が、村と町の間にある縄張り意識を取り払い、この道の駅ができたのだと思います」と酒井さんは振り返った。


人を守り、川に親しむ2つの駅も兼ねる。


この道の駅があるのは、福島県の太平洋側と新潟県の日本海側を結ぶ国道49号線と、会津盆地に流れ込む阿賀川が交差する広大な場所。そこには、「人の駅」と「川の駅」を構えるのに適した環境が整っている。


人の駅


「人の駅エリア」には、洪水発生時の水防活動(増水で堤防が壊れないよう堤防を守る活動)や復旧活動に必要な資材や機材を備蓄している『交流促進施設』がある。この施設は別名「水防センター」とも呼ばれていて、倉庫に簡易トイレ、水、食料、太陽光発電パネルと蓄電池を備蓄する。平時には関係者や一般の方の会議などに利用されているが、災害時には水防団の待機所として使われるように設計されている。さらには、災害対策車輌庫には照明車や排水ポンプ車を格納するほか、第二駐車場のアスファルト下には土嚢に利用できる土砂、その隣の敷地には堤防が決壊した際の応急処置に使われる根固めブロックと防水用の樹木を備えている。「観賞用も兼ねて桜の木を植えました。これも、木を切り倒して土嚢を付けて堤防ののり面を覆い、堤防の決壊を防ぐ木流し工法に使われます」と酒井さんは説明した。



国土交通省から許可を得て、第二駐車場を整備したことを示す表示。

「人の駅エリア」に設置されている掲示板には、3駅全体の俯瞰MAPが描かれている。また、駅のそばを流れる阿賀川の対岸にはヘリポートがあり、人の暮らしを支える場になっている。

川の駅


また、阿賀川の河川敷にある「川の駅エリア」には、川に親しむための多目的広場や消防訓練広場などがある。今から約10年前は、国土交通省所属の河川事務所が、治水に関する事業から河川を生かしたまちづくりに力を入れ始めた時期で、この「川の駅エリア」がつくられることになった。毎年秋には湯川村の特産品の米をPRする「新米まつり」を広場で開くなど、イベントも開催している。「実は会津地域には、子どもが遊べる遊具がそろった場所が多くはありません。今よりも遊具の数を増やすことで、お母さんと子ども、おじいさん、おばあさんと孫で訪れて楽しめる場所にしたいですね。また、芋煮会など小・中学校の行事でも使われる場所になれば」と酒井さん。今後は多世代でにぎわう場を目指している。



農家の新たな売り先になり、後継者問題にも貢献。


道の駅


会津産の木材をふんだんに使った、まるで森の中にいるような雰囲気の樹状トラス工法で建てられた「道の駅エリア」の建物。ここには湯川村と会津坂下町から集められた朝採れの野菜や果物を販売する『農産物マーケット』や、会津地域の加工品や雑貨を扱う『あいづ物産館』、地場野菜をふんだんに使ったメニューが自慢の農家レストランがある。オープンから約10年、現在では約6億円を売り上げる、地域おこしの„核“となる施設になっているという。


農家レストラン『くうべぇる』。


『農産物マーケット』で年間に約270組の事業者と向き合っているのは、駅長を務める土田昌孝さんだ。「私たちは売り場を管理する者の責任として、食の安全・品質を大切にしています。農家さんたちにはそれぞれの生産物の栽培履歴を出してもらったり、年間にいくつかの作物を抽出して残留農薬検査に出したり。取り組みを始めた当初は農家さんからの反発もありましたが、安全性の担保や、これを通して農家さんとの本当の信頼関係を築くために実施していたので、時間をかけて理解してもらえました。また、この3年間で、作物や病害虫に効果的な農薬について、農家さん自身が積極的に質問する機会が増えてきました。」と土田さんは変化を話す。


元・地域おこし協力隊隊員で現在は駅長を務める土田昌孝さん。

オープン以来、この「道の駅」に在籍している新明佐也佳さんは、広報を担当。「テレビ番組で会津の商品が紹介されると、ここでなら売っているかもと問い合わせが入ることもあるので、季節の農産物や新商品などは必ずチェックしています」と新明さん。今や地域の顔となり、信頼されている場所となっている。


この道の駅ができた当初から働いているという、新明佐也佳さん。

過去に農家レストランの売り上げが落ち込んだ時期があり、外部から業者を入れる提案もあったそう。「外部の業者さんを入れたら人件費などがかからないかもしれないけれど、どこでも食べられるものが並んで特色のない場所になってしまう。道の駅には、広い駐車場、清潔なトイレ、地場の食材を使ったおいしい料理の3つをそろえることが大事だと信じて続けてきました」と酒井さんは振り返る。スタッフの努力が少しずつ実り、今では地元利用者が6割〜7割を占めるまでになった。「コロナ禍でも地元の方々がここで野菜や加工品を買い込み、首都圏に暮らす子どもや親戚に送るなどして応援してくれました。暮らしに根づいていると実感しています」と土田さん。


年間100万人近くが訪れる大人気施設となった今、農業への可能性を感じて後継者も増え始めているという。次の課題は、湯川村や会津坂下町にも足を運んでもらう交流人口を増やすために、この地域の魅力を伝えること。道の駅の挑戦はこれからも続く。


左/会津地域の加工品や雑貨を集めた『あいづ物産館』。右/会津坂下町の織物産業を復活させた『IIE Lab』の会津木綿の生地を販売。


『道の駅あいづ 湯川・会津坂下』のみなさんの、道の駅を楽しむコンテンツ。


Website:Pinterest


キーワード検索をすると、関連画像を保存できるWebサイトで、アイデアが欲しい時に眺めています。集中して画像を見られるのが好みです。館内に設置するポップを描くスタッフに、イメージを伝えるのに使ったりしています。 (土田昌孝さん)


TV:マツコの知らない世界 TBSテレビ


マツコ・デラックスさんとゲストがマニアックな世界を案内するテレビ番組。当施設で扱っている商品や会津でつくられている商品が紹介されたり、道の駅が特集されたりすることもあるので、チェックしています。(新明佐也佳さん)


Magazine:「道の駅」旅案内 東北版 東北「道の駅」連絡会監修、ゼンリン仙台営業所刊


道の駅の情報やマップが掲載された情報誌で、エリアごとに発刊されています(山梨県、長野県は都道府県版あり)。趣味で全国の「城めぐり」をしながら、気になる道の駅の視察に行く際の参考にしています。(酒井昭夫さん)


photographs by Hiroshi Takaoka text by Mari Kubota


記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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