NHK『あさイチ』で「知らないと怖い...相続トラブル」特集。財産は少ないほど争いは起きやすい?不公平感は親の死後に露呈する。遺言書の内容は生前に共有を
2024年11月18日(月)7時0分 婦人公論.jp
(イラスト:やすだゆみ)
2024年11月18日放送の『あさイチ』は「知らないと怖い...相続トラブル」を特集。令和の相続事情に迫ります。そこで相続の専門家が起こりやすい相続トラブルについて解説した『婦人公論』2023年7月号の記事を再配信します。
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多くの人が直面する親の介護と相続。きょうだいと協力して乗り越えられると思いきや、まさかのトラブルに発展!?特にもめやすい原因とその対処法をアドバイスします。
(構成:山田真理 イラスト:やすだゆみ)
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財産が少ないほど争いは起きやすい
私は国税局や税務署などの専門機関で定年まで働いた後、相続専門の税理士として独立し、合わせて50年近く相続に関わる仕事をしてきました。その経験から言えるのは、テレビドラマで見るような豪邸に住むお金持ち一族の相続争いは、一度も見たことがないということです。
そもそも資産が多い家は、あらかじめ相続対策をしっかりと行っているもの。不動産だけでなく預金も十分にあるので、遺産分割はスムーズに行われます。
では、誰が争っているのか。実は、相続トラブルの約4分の3は資産5000万円以下の〈普通の家庭〉で起きています。
時々、「うちは財産が少ないから、相続争いなんて起きない」とおっしゃる方がいますが、そういう人ほど巻き込まれる可能性が高いのです。
私がこれまで見てきたケースから、きょうだい間で相続争いが起きやすい家族の特徴と対策についてお伝えしましょう。
【争いの種1】財産が親の自宅と少額の貯金だけ
財産を分けるに分けられない。これが、最もトラブルに発展しやすいパターンです。たとえば、亡くなった母親の遺産は、土地と建物を合わせて800万円の自宅と、預金200万円のみというケース。父親はすでに亡くなり、きょうだいは姉と弟の2人ですが、弟は実家を出て姉家族が母親と同居していました。
姉が自宅を相続すると、弟は民法で定められた法定相続分(2人の子どもで2分の1ずつなので、不動産と預金を合わせた1000万÷2=500万円)をもらうことができません。
弟が「自分は親の面倒を見ていないから、預金の200万円をもらえればいい」と言えば、丸く収まります。しかし「法定相続分をもらいたい」と弟が言い出したら、最悪の場合、姉一家は住み慣れた家を売って、そのお金を弟と折半する必要が出てくるのです。
預金を100万円ずつ分け、自宅は姉と弟の共有名義にして相続する方法もあります。しかし、姉がその土地や家を売ったり貸したりしたくなったとき、いちいち弟の了解を取らなければなりません。自分たちの死後、権利関係が複雑化した不動産を子どもたちへ残すことにもなるため、その選択は避けるべきです。
考えられるのは、母親の預金200万円に姉が代償金300万円を足した500万円を、法定相続分として弟に渡す方法。そのため親は、姉が弟に代償金を支払う必要があることを考慮して、あらかじめ姉を生命保険の受取人にしておくと安心です。
一番の解決法は、親が元気なうちに家族で話し合い、母親から弟に「自宅は姉に譲りたい」と伝えること。もし遺言書に同じ内容を書いていたとしても、文字で読むのと親の口から聞くのでは、受ける印象がまったく違います。子どもたちに伝える際、弟の意見も聞いておけば、姉と弟が争う可能性は低くなるでしょう。
【争いの種2】親から援助を受けたきょうだいがいる
これまで相続をめぐるたくさんのきょうだい間トラブルを見てきましたが、つまるところ原因の多くは「親にある」と私は考えています。
その最たるものが、特定のきょうだいへの資金援助です。たとえば大学の授業料や結婚資金の援助、自宅の購入資金の贈与などが考えられます。
最近よく聞くのが、相続税対策として、贈与税がかからない「年間110万円までの金額」を子や孫に暦年贈与したことで起こるトラブルです。たとえば孫に贈与する場合、長女の子どもが1人なら年間110万円、次女の子どもが3人なら年間110万円×3=330万円。これを3年続けたら、「次女の家は660万円も多くもらっている!」という不満が生まれます。
私は常々、「相続は気持ちが8割、お金が2割」と言っています。多くの場合、お金が欲しいというより、親からの扱いの差に怒っている。これまで抱えていたきょうだい間での不公平感が親の死後に噴き出し、「あなたはあのときいくらもらった」「それを言うなら姉さんだって」と言い争いになるのです。
相続の際に生じる不公平感を減らすための制度が、ないわけではありません。特定のきょうだいが生前に受けた「特別受益」を遺産に計上し直したうえで、均等になるよう遺産分割することは可能です。しかし私の長年の経験則では、1人がこれを言い出せば、遺産分割協議は確実に頓挫します。最終的に調停まで持ち込むことになりかねず、おすすめはできません。
私がいつもお伝えしているのは、子どもや孫に資金援助や暦年贈与をするときは、「何月何日・誰へ・いくら贈与したか」を一覧表にしたうえで、それを家族で集まった際に共有してほしいということ。さらに「この金額を参考にして遺産分割を考えてほしい」と親が口頭で伝えておけば、子どもたちも準備しやすいでしょう。
あるいは、「次女は地元に残って墓守りや法事の施主をしてくれるのだから、その分多めに渡したい」という親の言葉があると、長女も納得しやすいかもしれません。
【争いの種3】特定の人だけが親の介護をしていた
整備された制度にもかかわらず、使う人が非常に少ない「寄与分の請求」。これは「亡くなった人の財産の維持や増加について特別の寄与をした相続人」が、ほかの相続人より多くの財産を相続できる制度です。
親の家業を無給で手伝っていた、介護を献身的に続けていた——などの場合に請求できます。2019年の民法改正で、長男の妻など相続人以外の親族による請求も認められるようになりました。
この制度は、親の世話や介護で自分の生活を犠牲にせざるをえない人を救済するために作られたものです。ただ実際のところ、ほかの相続人と争うので人間関係がギクシャクするのは明らか。それを承知で請求しようと思うでしょうか。現場を知る私としては、はなはだ疑問なのです。
前述の「特別受益」と同じく、法的に争って遺産分割協議を長引かせるよりも、「姉さんは介護を一所懸命やってくれたから、お母さんの遺産からいくらか譲ろう」という思いやりを大切にしたほうが、その後も円満な関係が続くのではないでしょうか。
あるいは親に、「介護をしてくれた長女には多めに財産を分けたい」と、ほかのきょうだいより多く相続させたい理由を遺言書に明記してもらうのもいいと思います。
【争いの種4】遺言書の内容に偏りがある
親が遺言書を作成するのは、相続争いを避けるために有効な手段です。ただし内容が極端に偏っていたり、過去の援助額を無視していたりすると、むしろきょうだい間の争いを招いてしまう危険があります。
私が相談を受けた男性は、もともと実家で親の面倒を見ていた兄に、親の財産をすべて譲るつもりでした。しかし遺言書には自分の名前がなく、「兄に全財産を譲る」と書いてあったのです。
その後、兄からも「家のことを何もしてこなかったのだから当然だ」と言われ、カチンときてしまった。最終的に弟は、「兄の取り分が1円でも少なくなるなら、弁護士費用で自分の相続分がなくなってもかまわない」と、態度を硬化させてしまいました。
もしも親が事前に遺言書の中身を伝え、「それでいいか?」と意見を聞いてくれていたら、彼も気持ちよく承諾できたかもしれません。遺言書の内容は死後明らかにするものと思われがちですが、生前に家族で内容を共有しておくことが、争いを避けるためには大切なのです。
また、意外と多いのが、親が「遺言を書いた」と言っていたのに見つからないケース。「親の預金を使い込んでいたきょうだいが、自分に不利な遺言を破棄したのではないか」という相談を受けることもあります。不用意に自筆の遺言書を作り、それを子どもたちに伝えるのは、むしろトラブルのもとです。
親が遺言書を作るときは、公証人という法律のプロが作成する「公正証書遺言」をおすすめします。2人の証人が立ち会うことで内容の信用性が高まるほか、改ざんや紛失のリスクもありません。
もし自筆の遺言書を望む場合は、「自筆証書遺言書保管制度」を利用しましょう。申請時に法務局で遺言書の形式に不備がないか確認し、預かってもらえます。ただし法務局は内容までは目を通さないため、偏った遺言になる可能性もあると心得ておきましょう。下に、相続争いが起きにくい遺言書の心得をまとめました。よかったら参考にしてみてください。
今回紹介した対策の多くは、親が生きているうち、それも認知症などになる前の元気な間に進める必要があります。ぜひ家族全員でしっかりと話し合い、お互いの気持ちに寄り添った相続を目指してください。