“最悪の刑事”が1位に輝くか!?

11月18日(土)6時0分 JBpress

 決戦は木曜日(12月7日)!

 いよいよ「さわや書店ベストランキング2018」、通称「さわベス2018」の選考会の日程が決まりました。この1年間に発売された文芸書や文庫のなかで、さわや書店のスタッフがそれぞれのお薦めを持ち寄り、各ジャンルのベストテンを決定するという企画です(詳しくはこちら)。

 さわや書店内で年一番のビッグイベント「さわベス」の選考会は、いつも本店近くの居酒屋で開催されます。生ビールや日本酒、レモンサワーにハイボールのオーダーが飛び交うなか、繰り広げられる喧々囂々(けんけんごうごう)の議論。もちろん、2時間飲み放題コースで収まるわけはなく、その後も追加注文の嵐、嵐、嵐。

 すべてのランキングが決定する前にダウンしてしまう哀れなスタッフも出てしまうほどです。さわや書店スタッフにとって、一年で最も長い夜と言えるでしょう。

 ところで外商やチェーン全体の商品管理に携わっている私は、毎日店頭で文芸書や文庫に直接触れているわけではありません。そんな私が、「全国区の書店員」フェザン統括ディレクターT氏、「思考の整理学」フェザン店店長M氏、「文庫X」フェザン店N氏、「さわや書店の良心」本店店長O氏といったアクが強い面子を相手に、自分の主張を通すのは毎回至難の業。T氏のレモンサワーやN氏のハイボールをこっそり「濃いめ」に変えたり、熱燗を好むO氏に無理やり冷酒を飲ませたりと、緻密な戦術を練らなければなりません。


飲み放題がなくなる!?

 そんな呑兵衛書店員の私たちに衝撃を与えたのが、「飲み放題禁止か?」という春先のニュース。厚生労働省にアルコール健康障害対策推進室という部署が開設されたことで、飲み放題が禁止になるのか?という懸念が広がりました。その後厚生労働省からは「そのような規制は検討していない」という見解が出たようですが、社会的な健康志向の高まりを前にして、適量の飲酒を促す意味でもあり得ない話ではないかもしれません。

 2時間、3時間の飲み放題にオアシスを求めていた私たちのストレスは、どこへ向かえばよろしいのでしょうか・・・。などともやもやした気持ちを抱えてネットサーフィンしていたところ、消滅の危機を迎えているのは、どうやら「飲み放題」だけではない模様。

 なんと! 2時間ドラマも消えゆく運命にあるというのです。

 主題歌の「聖母(マドンナ)たちのララバイ」が印象深い「火曜サスペンス劇場」はすでになく、ほかの2時間ドラマ枠も次々とバラエティー枠に衣替え。最後の砦だった「土曜ワイド劇場」も今年(2017年)4月に幕を下ろしていました。

 ロケが必要なために長くなってしまう制作期間に、高いギャラ。コストパフォーマンスの悪さに加えて、テレビ離れが加速しているこんにち、2時間ドラマが消えゆくのは仕方のないことなのでしょう。それでも、あえて、私は、声を、大にして、各局のテレビマンに伝えたいのです。絶対にこの小説だけは、2時間ドラマで映像化するべきだ、と。


ぜひとも“2時間ドラマ化”すべき

 その作品とは、『爪痕 警視庁捜査一課刑事・小々森八郎』(島崎佑貴著、中公文庫)。

 物語は、警視庁刑事部捜査一課特命捜査対策四係の小々森八郎巡査部長が、12年前に起こった連続強姦殺人事件の応援で、長崎県に向かうところから始まります。小々森が同県出身ということを踏まえての人選かと思われたこの応援。

 実際に小々森は、高校の後輩で元警察官の神田の手伝いもあり、順調に捜査を進めていたかに見えました。しかし、その裏では何やら警視庁と厚生労働省とのきな臭い動きがあり・・・。

 最後のどんでん返しもさることながら、この物語の最大の魅力は、小々森のキャラクター設定です。R・D・ウィングフィールドによるフロスト警部のように、口汚くだらしない刑事にはたまに出会います。とはいうものの、どこかで優しさも併せ持っており、そのギャップに惹かれてしまうものです。


どこまで行っても態度が悪い

 ところがこの小々森は、徹頭徹尾、口も悪ければ態度も悪いまま。相手が誰であれ、決してぶれません。ここまで個性を突き通すと、逆にすがすがしくなってしまうから不思議です。

 ほかに、母親との関係に悩む気弱な神田、上昇志向の強い小々森の女性上司である糸川警部補など、エッジの効いた登場人物ばかり。著者の手を離れ、彼らが勝手に動き始めているように感じてしまうほどのキャラクター造形は、お見事のひとことです。

 長崎県のとある地域に舞台を絞っているのも、魅力のひとつ。狭い舞台で、スピーディーに物語を進めることで、読者も情景をイメージしやすくなり、リズム良く読むことができます。完全にキャラクターが出来上がっているから、主役級の役者さんでなくてもOK。また舞台が限られているからロケの経費もお安く。アクションあり、推理ありのストーリーは当然面白い。ここまで映像化に向いた作品にも、そうそう出会えないと思います。

 今度の「さわベス2018」文庫部門の選考において、私がなんとしてもランクインさせようと知恵を絞っているこの「爪痕」。一人でも多くの方にこの面白さが伝わることを祈るばかりです。


去年のベストワンはこちら

 ところで、その「さわベス」が始まったのは2004年。おかげさまで10年以上にわたって開催することができ、密かに楽しみにしているマニアの方もいるとか、いないとか(笑)。昨年の「さわベス2017」の文芸書部門の大賞は、定年した刑事が消せない過去と向き合う『慈雨』(柚木祐子著、集英社)。文庫部門は、主婦の本音をリアルに伝えた『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(夏石鈴子著、小学館文庫)でした。

 どちらの著者さんも、「さわベス2017大賞受賞記念」トークショーにおいでいただけて、大盛況のうちに終えることができました。この2冊を含め、「さわベス」のベストテン(10冊)は、さわや書店全店が総力を挙げて応援する決意の表れでもあります。

 さて、今年のベストテンはどのような顔ぶれになるでしょうか。年間約8万冊もの新刊が発売されていると言われている、日本の出版業界。そのすべてが書店の店頭に並ぶわけではないものの、膨大な数であることは間違いありません。そのなかで、「さわベス2018」のラインナップが、少しでも自分にあった書籍との出会いの一助になればうれしいです。

 そして発表は、選考会から1週間後の12月14日(木)。私の練り上げられた戦術が功を奏するか!? ご期待ください!

筆者:栗澤 順一(さわや書店)

JBpress

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