SHAZNA、ラクリマ、マリス、F◇C…番組から生まれた「ヴィジュアル系四天王」偏見の矢面に立たされた彼らの真の実力

2024年11月20日(水)6時0分 JBpress

(冬将軍:音楽ライター)

90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回は90年代のヴィジュアル系バンドブームの象徴とも言える“ヴィジュアル系四天王”について。それぞれの音楽性を紐解きながら、彼らが生まれたテレビ番組『Break Out』がもたらした、バンドブームにおける功罪を考察する。(JBpress)


テレビ番組『Break Out』から生まれた“ヴィジュアル系四天王”

 1990年代中期、ヴィジュアル系ブームを象徴する“ヴィジュアル系四天王”と呼ばれたバンドが居た。SHAZNA、La’cryma Christi、MALICE MIZER、FANATIC◇CRISISだ。

 これはファンのコミュニティからそう呼ばれたものではなく、1996年10月にスタートしたテレビ番組『Break Out』(テレビ朝日系列)が作った言葉である。

 番組で取り上げ、同じ1997年にメジャーデビューした4バンドをヴィジュアル系四天王と呼んだ。デビュー順に並べると、La’cryma Christi(5月8日)、MALICE MIZER(7月19日)、FANATIC◇CRISIS(8月6日)、SHAZNA(8月27日)となる。

『Break Out』は“ヴィジュアル系”をお茶の間に浸透させ、ブームに大きく貢献した音楽番組である。ヴィジュアル系四天王はこの番組から誕生し、ブームの立役者として大きな人気を得たが、反面でコアなロックファンからはイロモノ的に見られてしまうこともあった。

 ヴィジュアル系という、見た目だけで判断されてしまうような言葉の普及により、「音楽に自信がないからメイクをしているのでは?」「見た目重視のバンド」などと揶揄されることも少なくはなかったのである。

 そんなヴィジュアル系四天王について、個人的なおすすめアルバムを例にその音楽性を紹介していきたい。ただし、SHAZNA以外は2024年11月現在、音楽ストリーミングサービスなどの配信はされていないのでご注意を。


La’cryma Christi 異国情緒を醸す巧妙緻密なプログレロック

 1994年に大阪で結成されたLa’cryma Christi。耳馴染みよい歌モノのロックでありながら、ハードロックやプログレッシヴロックまでも呑み込んだ音楽性を持っている。

“異国情緒”という言葉がこれほどまでに似合うバンドが居ただろうか。メジャー1stアルバム『Sculpture of Time』は東アジアから世界に放つロマネスクの旅といった趣がある。オープンニングを飾る「Night Flight」は、ハードロックのダーティさがベースにありながらも、このジャンル特有の浮遊感を併せ持っている。ずっしりとしたアンサンブルながらもサウンドが広がりを持つナンバーだ。

 燦々とした情景を描いているわけではないにもかかわらずタイトル通りの雰囲気を放つ「南国」、そして「Ivory trees」の煌めくポップセンスも秀逸。楽曲のテーマをサウンドとして具現するレベルが驚くほど高い。そうした中で、La’cryma Christiの名曲としてあげたいのは「偏西風」だ。イントロのアルペジオギターに絡む、カッティングを絡めたもう1本のギター、蠢くベースライン。そこに突如としてスルっと入っていくボーカル……。巧みなアンサンブルアレンジが恐ろしいほど際立っている楽曲である。

 この連載で触れてきたが、ロックバンドにおけるツインギター編成はこのシーンで大きく変わってきた。まったく違うフレーズが折り重なって楽曲を構成していくLUNA SEA、2本のギターが絡み合うことによってひとつのリフを形成するPIERROT……。しかしながら、La’cryma Christi はそれらのバンドともまた違うツインギターである。

 KOJIとHIROのギターは一聴するとそれぞれ好き勝手に弾きまくっている印象を受けるかもしれない。しかし、お互いのフレーズに干渉することなく楽曲を構成しているのが、La’cryma Christiの妙だ。加えて、SHUSEのベースもかなり動いているし、LEVINのドラムも手数が多い。

 そうした楽器陣の動きだけをピックアップしても細かいフレーズで構成されているのに、そこにメロディアスなボーカルが別に存在しているのである。自由闊達な楽器陣でありながら歌のメロディを邪魔しないという巧妙で緻密なアンサンブルアレンジ。それがLa’cryma Christiはプログレッシヴロックと言われる所以だ。


MALICE MIZER 中世ヨーロッパ世界を体現した究極のV系

 中世ヨーロッパをモチーフとした衣装とメイク、ストーリー性を持たせたシアトリカルなライブ演出など、徹底的な世界観構築によって、「究極のヴィジュアル系」「総合芸術集団」と称され、音楽以外の多くのメディアにも取り上げられるなど、社会現象にもなった。

 クラシック音楽を取り入れた音楽性が特徴的である。オーケストラとハードロックの親和性は多くのバンドが証明してきたが、MALICE MIZERはフーガ(対位法)を取り入れたり、弦楽器のほかにチェンバロやパイプオルガンを模したサウンドプロダクトを多く用い、バロック音楽や古典派の室内楽を想起させる、これまでのバンドにはなかったアプローチが多くある。

 特にバンドのイニシアチヴを握るギタリスト、Manaはギターシンセでバイオリンといった音色を模し、チョーキングといったロックギター然としたプレイを自ら禁じるなど、プレイヤー、コンポーザー両側面においても強いこだわりを持っていた。

 そして、メジャーデビュー時のボーカリスト、Gacktの艶のある歌声もその音楽性に大きく貢献している。彼の貴公子的でナルシズムなキャラクター性をそのまま表すかのような、豊かな中低音から高音へ抜けていくボーカルスタイルはヴィジュアル系シーンのボーカリスト、フロントマンとしてのスタイルを大きく決定づけた。

 日本歌謡と中世ヨーロッパイメージを完璧なまでに結びつけた「月下の夜想曲」、儚さと優しさを幻想的な色香で昇華した「au revoir」、そしてメロディアスな歌とさまざまな旋律が複雑な楽曲展開で緻密に構成される「ヴェル・エール 〜空白の瞬間の中で〜」の崇高で荘厳な響きは、シンフォニックなヴィジュアル系メタルのパイオニアというべきもの。

 さらにテクノポップにインダストリアルを掛け合わせ、バロック音楽で分解していくかの複雑さを持ち、ロックバンドでありながらギターとドラムが使用されていない怪曲「ILLUMINATI」など、アルバム『merveilles』は、これぞ“バラエティに富んだ”という言葉が似合う、広く深い音楽性と聴きごたえのあるサウンドを持った、ヴィジュアル系シーンにおける不朽の名作である。


FANATIC◇CRISIS 名古屋系代表格のバンドとして

 シングル「SUPER SOUL」でメジャーデビューしたFANATIC◇CRISIS。カジュアルでポップなビジュアルと、硬派で強いメロディを持った代表曲「火の鳥」(1998年7月リリース)といった印象も強いが、インディーズ時代はダークで退廃的な名古屋系バンドであった。

 名古屋系とは、もともと“名古屋シーン出身のバンド”という意味で使われていた言葉だが、インディーズ時代の黒夢、Laputa、ROUAGEら、頽廃的でダークな雰囲気を持つバンドが多かったことから、“名古屋特有の様式美”という意味で使用されるようになった、ヴィジュアル系を細分化した言葉である。

 そんな名古屋系を代表する名盤と言えるのが、1994年12月にリリースされたFANATIC◇CRISISのインディーズアルバム『太陽の虜』だ。

 オープニングを飾る「黒い太陽」のイントロのギターから不穏さを掻き立ててくる。ダークな楽曲の世界観を彩っていくデジタルサウンドはギターのShunによるもの。クレジットがギターシンセになっていることも強いこだわりを感じる部分だ。

 ゆったりとしたテンポとゴシックな雰囲気を醸す「P.E.R.S.O.N.A」、フランジャーの掛かったギターが支配するサイバー感を放つ「Pacifist」など、そのダークさが支配するアルバムの世界観はメジャーデビュー以降から遡った人にとっては驚きもあったことだろう。

『太陽の虜』は5000枚限定でリリースされるも完売。翌1995年1月に2nd Pressがリリースされた。その際に追加された新曲「Disappear n'」は、名古屋系期のFANATIC◇CRISISの極めつきと言える曲。1コードで引っ張っていくギター、エフェクティヴなサウンドプロダクトが大きなフックとなっている。

 総じてゴシックでデカダン、サイケデリックロックにも通ずるアプローチを感じるなど、バンドの多角的な音楽への姿勢に溢れた作品である。


SHAZNA ヴィジュアル系ブーム&四天王の顔

“SHAZNA現象”と呼ばれたIZAMのビジュアルプロモーション、女性的なルックスのインパクトが世間を賑わせた。IZAM のスタイルはX JAPANのYOSHIKIといった中性的なヴィジュアル系像をアップデートさせたものでもあり、メイクやファッションを含め、女形ヴィジュアル系スタイルを確立させたといって良いだろう。

 このSHAZNA現象とメジャーデビューに大きく貢献したのが『Break Out』であり、ヴィジュアル系四天王のイメージとして、そのままSHAZNAとIZAMのビジュアルを思い浮かべる人も多いことだろう。

「Melty Love」メジャーバージョン

 そんなSHAZNAがインディーズ4枚目のアルバムとして1997年1月にリリースしたのがミニアルバム『Promise Eve』である。メジャーデビューシングルとしてヒットを生んだ「Melty Love」のオリジナルバージョンが収録されている本作は、過去曲のリテイクを含めたインディーズ時代の集大成というべきもの。先入観なしに聴けばロックバンドらしいSHAZNAの姿がわかるはず。「Melty Love」のキャッチーさは言わずもがな、「TOPAZ」のソリッドなバンドサウンドや「Dizziness」の退廃的な空気感、「Cliche's」の硬派なビートなど、ありありとしたロックバンドらしさとその音楽性の広さが詰まっている。

「Melty Love」オリジナルバージョン

 メジャーデビュー後の一風堂のカバー「すみれSeptember Love」(1997年10月リリース)もポップ性がフォーカスされることは多いのだが、80年代ニューロマンティックを代表する同曲を選んでリバイバルさせた手腕もセンスを感じる部分だ。

 ヴィジュアル系のパブリックイメージとなったSHAZNAは、本作しかりロックバンドとしての本質が正当に評価されていない部分があるのも正直なところであり、冒頭で述べたようなヴィジュアル系における偏見の矢面に立たされた存在でもあった。


ヴィジュアル系ブームがもたらした誤解と偏見

 ヴィジュアル系という語源は別として、ブームを引き起こしたヴィジュアル系四天王、それを生み出した『Break Out』の影響力は計り知れない。

 80年代の音楽シーンに登場したBUCK-TICKやX JAPANといったバンドが、音楽のみならずその奇抜なビジュアルで注目を浴びたことは紛れもない事実である。彼らのビジュアルは音楽と同様に人と違う表現を追求した結果でもあった。しかしながらヴィジュアル系という言葉がブームに乗って独り歩きしたことによって、多くの誤解と偏見を生んだこともまた事実なのである。

『Break Out』によってヴィジュアル系を知った、ハマった者が多くいる一方でそれ以前からこのシーンのバンドを好きだった者にとってヴィジュアル系呼称は、妙なレッテル貼りでもあったのだ。90年代ヴィジュアル系を語る際、この『Break Out』以前/以降の世代間ギャップが大きくある。良くも悪くも、といった部分で功罪多きテレビ番組であり、ヴィジュアル系四天王である。

筆者:冬将軍

JBpress

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