宝くじ高額当せん者の末路 「ギャンブラーの誤謬」で悲劇も

11月20日(水)7時0分 NEWSポストセブン

行列ができる年末ジャンボ宝くじの売り場(写真は昨年/時事通信フォト)

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 今年も年末ジャンボ宝くじの発売時期がやってきた(11月20日〜)。過去、幸運にも高額当せんをした人は、再び“一攫千金”を狙って多額の宝くじを購入する傾向があるというが、そこには行動経済学でも裏付けられる落とし穴があった。ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が、具体例をもとに紹介する。


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 人の行動には、その人の性格が反映されやすいものだ。特に、お金の使い方には個性がハッキリと表れる。たとえば、好きなものには積極的にお金を使う「消費家」もいれば、欲しいものがあってもガマンして、堅実にお金を貯める「倹約家」もいる。もちろん、適度に使い、適度に貯める人もいるが、どのタイプであるにせよ、お金の使い方には、その人の性格・個性が如実に映し出される。


 では、「お金の使い方」と「お金をどう稼いだか」の関係はどうか。どう稼いだかによって、使い方は変わるだろうか。そして、そこにも、やはり性格・個性が如実に反映するだろうか。


 こんなことを考えてみる。いま手元に100万円があったとする。この100万円を稼いだ方法として、つぎの2つを考えてみる。


・1年間、毎晩遅くまで残業をして、少しずつ稼いだ100万円

・幸運にも、たまたま買った宝くじで当たった100万円


 一方、このお金の使い道として、つぎの3通りの方法が考えられるものとしよう。


(1)海外旅行に出かけて、飲食や買い物などに豪快にお金を使う

(2)古くなった自宅の補修など、生活上必要な経費に回す

(3)将来の蓄えとして、銀行の口座に預金する


 稼いだ方法の違いによって、(1)〜(3)のお金の使い道に差が生じるだろうか。ここで注意すべきことは、どう稼ごうと、いま手元にあるお金は同じ100万円だということだ。すなわち、お金に色はない。そのことは、誰でも頭ではわかっている。


 しかし、実際に1年間苦労して稼いだ100万円を目の前にすると、不思議なことに見方が変わってくる。(2)や(3)のように将来のための預貯金や、何か後に残るものを買うといった使い方がふさわしい感じがしてくるのだ。


 一方、宝くじのように幸運でつかんだ100万円の場合は、(1)のようにあまりケチケチせずに、豪快にパッと使い切ってしまうのがよい、と考えてしまいがちだ。


◆ハウスマネー効果の落とし穴


 実際に、行動経済学の実験によると、苦労して少しずつ稼いだお金よりも、幸運で得られたお金のほうが、いっぺんに使われやすいという結果が出ている。これは、「ハウスマネー効果」といわれる。「ハウス」はカジノなどの賭博場の意味で、賭博で儲けたお金は大胆に使われることが多いことから、そう呼ばれている。


 ギャンブルや投機的に資産の運用をする場合、ハウスマネー効果に注意が必要だ。たとえば、あるとき短期の為替取引で50万円を儲けたとする。この50万円は、たまたま幸運で得られたもののように考えられがちだ。


 すると、「どうせ幸運で手に入ったお金なのだから、たとえ失ったとしても、気にならない」と考えやすくなってしまう。そして、「50万円までは損をしてもいい」と考えて、さらに大胆な短期の為替取引に取り組むこととなる。よくありがちなケースだ。


 取引で儲けが続けば問題はないが、うまくいかないときも当然ある。せっかく得られた50万円を、全部失ってしまうこともあり得る。このときが、問題となる。


◆ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)とは


 いさぎよく売買から手を引くことができればいいのだが、人間の心はなかなかそう簡単には割り切れない。心の中の悪魔は、きっとこんな風にささやく。


「この前、あっさりと50万円も稼げたじゃないか。儲かるか損するか、どうせ2つに1つだ。最近こんなに損が続いたのだから、もうこれ以上、損をするはずはない。つぎの売買で、きっと儲けられる。そういえば、生活のために蓄えてきたお金があった。あれを少し使って、儲けた後で戻しておけばいい。きっとうまくいく……」


 ずっと損が続いたから、つぎこそ儲けられる、という考え方は、「ギャンブラーの誤謬」といわれる。


 為替相場などが、何日間か連続して下落した後には、そろそろ上昇しそうだという気がするかもしれない。しかし、経済学的にも、数学的にも、それを裏づける合理的な根拠は何もない。


 ハウスマネー効果と、ギャンブラーの誤謬が組み合わさると、投機上の悲劇が起こりやすくなる。こうした悲劇は、古くから発生しており、小説やテレビドラマ、映画等で何度も繰り返して描かれてきた。


 投機を始めるときには、心の中で、苦労して稼いだお金と、幸運で得られたお金の間に、仕切りを入れておいたはずだ。それなのに、投機で損をしてしまうと、「どうせお金に色はない」として、都合よくその仕切りを取り払ってしまう。同時に、損は続かないとする根拠のない自信が、さらなる投機を後押しする。


 宝くじの場合も、投機と似た心理が生まれやすい。


 たとえば、過去に100万円の当せんをしたことがあるとしよう。それ以降、当せんがなくても、ギャンブラーの誤謬により、次回こそ当せんするだろうという気持ちが高まっていく。ハウスマネー効果により、100万円までの宝くじの購入はさして気にならない。そして、ついに購入額が100万円を超えて、生活のために蓄えてきたお金に手をつけて……。


 こうしたことは、冒頭で述べたように、人の性格・個性と言えるだろうか。有史以来、さまざまな時代に、さまざまな国で、似たようなことが繰り返されてきたことを踏まえれば、多かれ少なかれ、人が誰でも持っている心情と見るべきだろう。


「金に目がくらむ」という言い回しがある通り、お金を前にすると、人は誰でも心が乱れがちになる。性格・個性と言う以前に、本来、人は金銭的な誘惑に弱い存在だ。


 宝くじなどに多額のお金を投じるときは、ハウスマネー効果やギャンブラーの誤謬を思い出して、理性を取り戻すことが必要だろう。宝くじをほどよく楽しむには、お金の持つ魔力に振り回されないよう、一歩引いて冷静に決断することが大事だと思われるが、いかがだろうか。

NEWSポストセブン

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