【ハロプロ】「アイドルは頭の悪い娯楽」と見下していた私が、初めて参戦したJuice=Juiceライブで沼にハマった理由
2018年11月23日(金)9時0分 キャリコネニュース
少々頭の固い父とやや過保護で教育熱心な母は、アイドルを「頭の弱い子の娯楽」と見下していたように思う。ジャニーズにお熱な同級生を二人で「あの子は勉強ができないから」と評したのがその証拠だ。おかげで娘の私は、『ミュージックステーション』や『うたばん』を観たことがほとんどない。
両親の価値観を受け継ぎ、「アイドルにハマるのは愚か」という信条でこれまで生きてきた。この考えは揺らがないと思っていた。
それなのに。26歳の11月、ハロプロのアイドルグループ『Juice=Juice』のライブ会場でキンブレ(※ペンライト「キングブレード」の略。アイドルヲタに広く普及)を振っているのだから、人生何が起こるかわからない。(文:武田茉優)
エース・宮本佳林ちゃんさんの歌唱力に衝撃受ける
Juice=Juiceにハマったきっかけは職場だ。Juice箱推しを公言する30代の上司を内心「なんだこの人」と思っていたが、今年7月、「どんなグループだろう」と気まぐれに検索して、ぬかるみにうっかり足を取られた。
アイドルの生歌は聞くに堪えないものだろうと高を括っていたのに、出てきた動画に見入ってしまったのだ。過去、「歌ってみた」系のサイトに投稿し、傲慢にも「アイドルは可愛さが売り。歌に真面目に取り組んでいない。そこいらのアイドルより私のほうが上手い」と思っていた私は、けっこうな敗北感を味わった。
特に目を惹いたのは、エースの宮本佳林さん(19)と、2017年に加入した段原瑠々さん(17)だ。アイドルっぽい歌い方は通常、地声との切り替えが甘かったり喉に余計な力がかかっていたりすると、高音域や低音域で声色が変わってしまう。裏声になった途端に声量が落ちたり、音程が曖昧になる人もいる。
なのに二人は、そんな心配は無用とばかりにどんな曲も軽々と歌う。佳林ちゃんさん(※「ちゃんさん」はリスペクトを込めた敬称)の華やかな声は、歌い方が徹底されていることでさらに存在感を増すし、曲に合わせてより可愛らしく、より大人っぽく変化させられるのは本当にすごい。段原さんの素直な声と確かな音程は聞いていて安心できるし、呼吸を大事にして歌っている姿が気持ちよかった。
パフォーマンスの完成度に感動し、知らない世界にわくわくした。家で「悪いもの」扱いだった対象に惹かれる背徳感も、無かったと言えば嘘になる。
一度ハマったら最後、そこからの進展は早い。一週間後には8月に発売されたセカンドアルバムを購入し、公式が供給する動画をチェック。上司にファーストアルバムを貸してもらったり、ラジオやブログでメンバーの個性を学んだり、音楽編集ソフトでバックの演奏だけ切り出して聴いてみたり、様々な角度で堪能した。
9月には、11月のライブツアーで地元・福島に来ることを知った。上司の「アイドルは生物(なまもの)。今のJuiceが好きなら行ける時に行くべき」という言葉に背中を押され、あれよあれよという間にチケットを購入。気づけば3か月足らずで沼にフルダイブしていた。
推しの名を叫ぶファン、暗黙の応援ルールの徹底にカルチャーショック
チケットを入手後は、「二人の目を汚せない」と、ライブ用に服を新調した。自分のお小遣いでユニクロ以外の服を買う勇気。奥二重だからと敬遠していたアイシャドウも買った。直前の5日間は体調と肌の管理のため、栄養ドリンクを飲んだ。やれることはやってライブに臨みたかった。
当日は7時に起き念入りに身支度した。本当なら二度くらいシャワーして出かけたかったがそんな余裕はない。半年ぶりに電源を入れたヘアアイロンからは焦げた匂いがした。タイツは紫とオレンジで迷い、段原さんを優先した。タイツは推しから見えないが、そんなことはどうでも良い。私なりに愛情を貫いただけだ。
郡山の会場に着いて驚いたのは女性ファンの多さだ。男性ばかりだと思っていたのに、フロア前方の「女性限定エリア」はぎゅうぎゅう詰め。「女限が埋まるのかー」と呟く声を聞いたので、先輩ファンにとっても珍しい光景だったのだろう。
いざ公演が始まってからは、正直なところ記憶が曖昧だ。初っ端の『Never Never Surrender』はCDで何回も聞いたのに、キラキラした女の子たちが目の前で歌うとまるで別ものだった。
後半、『Goal〜明日はあっちだよ〜』で「この人達は努力を重ねて更に先に進もうとしているんだな」と泣きそうになり、『KEEP ON 上昇志向!!』で「ままならないことも多いけど私も頑張ろう」と泣きそうになり、ライブ後の握手会で一人ひとりに「ありがとうございました」とお礼を言ったことは覚えている。
間近で見た佳林ちゃんさんと段原さんは、髪さらっさらで腕ほっそくて、顔ちっちゃくて声が可愛くて、幸せな時間でしたね……。それなのに歌もダンスもうまいなんて、そんな2次元みたいな事、3次元で起きて良いの?
また、今回リアルで見て植村あかりさん(19)の歌唱力の上達ぶりにも驚いた。5年前にデビューしたばかりの頃は、音程が安定せず、聴いてる方も不安になるレベルだったのに、ライブでは、色っぽい艶のある歌声を披露していた。人ってこんなに変われるんだって思った。努力ってすごい。
そういえば、一曲終わるごとにメンバーの名前を呼ぶ慣習は新鮮だった。歌舞伎は「成田屋!」と一門全体をよいしょするし、クラシックのコンサートは演奏に対し「ブラボー」と褒める。個人の名前を呼ぶのはまるでスポーツ選手の応援みたいだ。
応援の仕方に暗黙の了解があるのも面白かった。推しが喋っている時はここぞとばかりにその人の色のライトを高く上げ、それ以外の色のライトは低めにする。こういう所作が事前アナウンスなく徹底されていたのが印象的だった。2時間はあっという間だった。
ライブ初参加を終え、改めてハロプロにハマった訳を考えると2つの理由に思い当たる。1つは、常に前向きにベストを尽くそうとする姿の眩しさ。もう1つは、女の子が女の子をエンパワメントする歌詞の珍しさだ。
女性アイドルは、男性から見た理想の女子像を歌うことが多い。しかしJuice=Juiceを始めとするハロプロは、歌詞の主体が女性だ。恋愛も、夢に向かって進む歌も、全て女の子の目線に立っている。プリキュア好きの私の落ちた先がハロプロ沼だったのも納得がいく。特に、ここ最近ハロプロ楽曲によく参加している作詞家・児玉雨子さんの歌詞が素晴らしいと感じた。
将来の夢が「歌って踊れるOL」になった
アイドルにハマり、実生活にも変化があった。まず、家族が私の感情を尊重してくれる。娘がアイドルにハマるのは相当衝撃だったらしい。私は家族にとって「理解できない存在」になり、こちらの気持ちを決めつけずに会話してくれるようになった。
人と話す楽しみも増えた。仲の良い友人にアイドルにハマったと明かすと十中八九「なんで!?」と目を丸くされるが、そういう相手も「実は私もあれが好き」と「おこだわり」を教えてくれる。秘密を共有するのはなんとも嬉しい。
新しい目標も出来た。推し続けるためにはある程度のお金と時間と体力がいるし、個人的な感情として、推すなら完璧な状態で推したい。今の私の目標は、歌って踊れるOLとして、仕事と趣味両方で成果を出すことだ。
アイドルは「頭の弱い子の娯楽」と見下していた。でも、偶然にもその価値観を改めた私は、人の好きなものを理解しようと心がけるようになった。最近は、同じハロプロのつばきファクトリーやアンジュルムも気になり始めた。好きなものが増えた毎日はなかなか充実している。こういう充実感は今まで味わったことがない。ひょっとすると、この世界は捨てたもんじゃない、のかもしれない。