白鵬の強さを検証! たとえ嫌われようが、強い人には強くなる秘密があった

11月26日(火)16時0分 週刊女性PRIME

2007年横綱に昇進し、伝達式を行った際の白鵬。あれから約12年、大横綱へと成長した

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 今年納めの九州場所で横綱白鵬が43回目の優勝を果たした。白鵬は2006年5月場所に大関として初優勝して以来14年間にわたって毎年、優勝している。中でも2010年と2014年には年6場所中5回優勝、今年も5月場所の全勝優勝に次いで2度目の優勝となった。

■白鵬の“かち上げ”問題



 優勝43回、横綱歴満12年と1場所、34歳でのこの記録は前人未到の偉大なものだと白鵬を大いに称えて差し支えないのだが、同時に白鵬へは多くの批判があるのも事実だ。例えば、この九州場所においては12日目(11月21日)の対・遠藤戦。

 立ち合いで白鵬が見せた遠藤へのかち上げからの張り手に批判が集中した。当日のNHK大相撲中継の解説だった舞の海秀平さんは「遠藤は出血しているみたいですね。過去の横綱はこういう立ち合いはしなかったですけどねぇ。このかち上げというか、ひじ打ちは、見ていて後味悪いですね」と語った。

 当然ながらツイッターにも《こんなのは相撲じゃない!》と白鵬への多くの批判コメントが並んだ。興奮して《辞めちまえ!》と書く人も多く、翌日のスポーツ新聞でも「遠藤流血」「荒ぶる相撲」「顔面エルボー」といった批判的ニュアンスの言葉が並んだ。

 しかし、同時にこうした言葉に疑問を呈する好角家(こうかくか)もいる。ツイッターアカウント@tamaro1969213さんは相撲観戦歴が40年以上で、昭和の相撲を研究するのが趣味だといい、今回も画像をあげてツイートして説明をしていた。

「私が生まれる2年前(昭和42年)の1月場所14日目、それもともに13戦全勝の横綱同士の大一番である大鵬佐田の山戦、立ち合いで大鵬の左ひじが佐田の山の顔面に完全にヒットしていました。白鵬のは遠藤の首から右顎(あご)あたりに当たっていて、大鵬のは完全に顔面に当たっています。全勝横綱同士の大一番ですから意味合いでは遠藤戦の比ではないですが、当時どのように言われたんでしょうかねぇ」と話す。

 また当日の大相撲中継では舞の海さんのコメントを受けて荒磯親方(元・横綱稀勢の里)が「でもやっぱり、ここにスキができますから。右の脇にですね。白鵬がかち上げた瞬間にですね。そこをうまく突いていくということもですね、しっかり頭に遠藤があればここまでまともにくらうこともないです。僕は左のおっつけがあったからですね、ああいうふうにいってくれたら逆にうれしいもんで、横綱はそれがわかっていたから僕にはああいうかち上げをしませんでしたね」とコメントしていた。

 これにも@tamaro1969213さんは、「荒磯親方(元・稀勢の里)が『かち上げにはおっつけで対抗できました』と解説されていましたが、昭和46年の3月場所で、当時の横綱だった玉の海が、同じく横綱の大鵬の左ひじでのかち上げを右おっつけで封じている映像が残っています。かち上げはおっつけで対応できるのに、最近では稀勢の里以外、誰もやってないということなんでしょうか。稀勢の里の場合は、師匠の隆の里が千代の富士相手にやっていたことを学んで白鵬相手にやっていたんでしょうかね」と語る。

 なるほど、そうなのか、と私は納得した。

 それでもこんな相撲は嫌いだと批判もあろうが、それは相撲を見る人の好き好きであり、お茶の間で、ツイッターで、大いに語り合ってほしい。そのうえで改めて白鵬がどうしてこうも強いのか? を考えたい。

 普通なら34歳の横綱、そろそろ晩年期だと誰もが思う。先場所も右手小指の骨折で2日目から休場した。ひざ、ひじ、と相次いで故障し、満身創痍(まんしんそうい)でもある。しかし、大相撲中継で解説の北の富士さんが「白鵬は出てくると必ず優勝か優勝争いに残る」とコメントするように、みんながこんなにも嫌うように(強すぎる横綱が嫌われるのは北の湖時代からの定番ですので)、白鵬は本当に強い。



 白鵬の強さの秘密、それは徹底した基礎稽古にあるとはよく聞く。四股(しこ)、すり足、てっぽうという相撲の基本を毎日欠かさず、1日1時間〜2時間も繰り返す。でも、それだけじゃないんじゃないか? もっと秘密があるんじゃないか? と思い、「白鵬のメンタル」(講談社+α新書)の著書もある内藤堅志さんにお話を伺った。

■引き出しの多さと、整理の上手さ



 内藤さんは東海大学で非常勤を務めながら、労働安全衛生研究やスポーツトレーナーとして活動をされている。白鵬との出会いは、まだ白鵬が17歳のひょろっと細い少年だったころに、たまたま宮城野部屋から若い力士たちのトレーナーになってほしい、と依頼されたことに始まる。以来、ずっと近くで白鵬を見て、サポートしてきた内藤さんいわく、今の白鵬の強さの根底にはいくつか理由があるそうだ。

「なぜ白鵬は自分の素質を生かすことができるのか? まずは阿川佐和子さんのような『聞く力』でしょうか。なんでも貪欲(どんよく)に聞いて、大企業の社長さんの話にも幼稚園の子どもたちのおしゃべりにも同じ視点で聞きます。

 白鵬は常々『人の話の中にはヒントがある』と言います。そして聞いたことを素直に受け止める感受性があります。素直だから余計なことに意識が向かわず、学び、吸収することができるんです。それは最初から今も変わりません」という。

 確かに素直さ、というのは大きなカギかもしれない。まっすぐ受け止め、吸収して動いていく。でも、それだけでは、あそこまではなれない。特に近年はケガも多い。

「白鵬は身体的にいえば、回復力、柔軟性、力強さ、巧緻性、スピードなど恵まれた素質があることは確かです。そして今、何が必要で、何をしなくてはいけないのかを考えられる人です。考える力があります。さらに、素直さにも通じますが、人からのアドバイスは必ずやってみます。合わなければやりませんが、捨てずに取っておきます。数日後、数か月後、数年後にまたそれを取り出して、合えばやる、合わなければまた取っておく、この引き出しの多さと整理の上手さも秘訣だと思います」

 それでも34歳の横綱、蓄積された疲労は並々のことでは補えないのも事実だ。満身創痍の身体を支えるにはどうしているのだろうか?

「今場所から睡眠のデータを管理しています。緊張感のある職業ですから、当然ストレスがかかりメンタルが維持できなくなるときもあります。特殊なセンサーを使って、布団の下に敷くだけで睡眠中の呼吸数、心拍数、睡眠の質を把握できる装置があるんです。このデータをクラウドシステムを利用して私が自宅で確認しています。睡眠分析は私が担当しているんです。それを現地にいるトレーナーの先生たちも同時に確認することができるようなインタラクティヴな機能を持たせていて、横綱の睡眠に変化が出たストレスフルな状態なときにはボディケアとともに、自律神経を整える鍼(はり)やマッサージをしてもらいます。

 また医療データなども一元化し、横綱がベストな体調で相撲を取れるような仕組みを確立したことが今場所の好調さにつながっていたら、私もとてもうれしいです。日本の伝統『相撲』に近代的なシステムを取り入れているのがチーム白鵬なんです」



■白鵬は労働者



 確かに睡眠は大事だ。移動の多い米・大リーグの選手など、睡眠導入剤が欠かせないといった話も聞いたことがある。また前の晩にまったく眠れずジャンプが跳べなかったフィギュアスケートの選手の話などもよく聞く。アスリートにとって睡眠管理は必須だろう。

「でも、そういう新しい試みをしようとするときに、柔軟に話を聞いて、やってみよう! と言える横綱がいてこそ、です。横綱には全体を俯瞰(ふかん)するマネージメント力があります。そして横綱を支える親方、部屋のマネージャー、トレーナーといったチーム白鵬も俊敏で柔軟な組織です。最近は多くの企業が『アジャイル開発でリスクを最小化せよ』と取り組んでいますが、同じことです」

 私のような相撲界からしたら門外漢が「お話を伺わせてください」と聞いても、快く受け入れてこんなに教えてくれる。柔軟な組織というのは本当だ。

「それでもやっぱり、基礎トレーニングの賜物だと思います、あの強さは。今回も唇が青くなるほどトレーニングで自分を追い込んでいました。第一人者がこれまで身体を追い込むのに、ほかの若者はだらしないと私は思います。

 そのトレーニングのインターバル中に横綱は『ああ〜、やりたくない』と本音をもらしていました。わかりますよね? 年をとってからのトレーニングは本当にきついです。私は労働科学を研究していますから、その立場から言えば、横綱は労働者なんです。身体を使い、働く、労働者なんですよ」

 白鵬の強さの秘密には、最新鋭の睡眠科学を生かすことから、日々の鍛練がある。強さは、ただ強いだけじゃない。その一端が分かった気がした。

 また、私個人的には九州場所が始まってすぐ、朝稽古を見学させてもらい、そこで白鵬が序ノ口、序二段の力士たちと一緒になって体操をしたり、深呼吸をしていた姿がすごく印象に残っている。オレは横綱様だからひとりでやるんだ、なんてことは全くない。ほかの力士たちの稽古にも、もっとこうしなさいとアドバイスもしていた。場所中である。これから大切な取組がある、その朝だ。そんなときにも決して孤高にはならず、仲間たちとともにある。そういう姿勢が強さの一因でもあると感じた。

 ちなみに白鵬は横綱の品格、横綱相撲とは? を考えていないのだろうか。はたして、考えていないと考える人のほうがよほど考えていなくて、『白鵬伝』(朝田武蔵・著/文藝春秋社/2018年刊)を読むと、勝つことをより求められる今のスポーツ化した相撲界において、大相撲の伝統や綱の品格をめぐって葛藤に苦しむ姿が書かれている。横綱を張るとはなんと大変なことだろう、私は胸が詰まるような思いがした。

 優勝から一夜明けた25日、「優勝50回を目指したい」と新たな目標を掲げた。常に高みを目指して公言していくもまた、白鵬の強さの流儀だろう。


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。

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