“棄権”覚悟で挑んだ鈴木芽吹、日本歴代5位の記録も「本当に悔しい」10000m26分台を目指した日本人選手たちの戦い

2024年11月27日(水)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


「棄権」を覚悟で攻め込んだ鈴木

「10000mの国内最速記録を目指す」という大会コンセプトを掲げる「2024八王子ロングディスタンス」。昨年は佐藤圭汰(駒大)が27分29秒69のU20日本記録(当時)で日本人トップを飾ったが、今年の最終8組(S)はさらに上を目指した。ウェーブライトは緑がややビルドアップの26分59秒、赤がイーブンペースの27分15秒に設定されたのだ。

 10000mの“26分台”は日本記録(27分09秒80)を大きく上回り、来年開催される東京世界陸上の参加標準記録(27分00秒00)を突破するタイムになる。

 19時の天候は晴れ、気温10.5度、湿度56%、東南東の風0.2m。絶好のコンディションのなか、6人の日本人選手が“未知なるペース”に挑戦した。

 序盤は篠原倖太朗(駒大4)が上位につけて、緑のウェーブライトと並走する。1000mを2分42秒4で入ると、3000mを8分08秒4で通過。その後、篠原は遅れるが、今度は鈴木芽吹(トヨタ自動車)が上位でレースを展開して、5000mを13分35秒4で通過した。

 しかし、ペースメーカーが苦しくなり、先頭集団は徐々に緑のウェーブライトから引き離されていく。「明らかに遅かったので、自分でいくしかない」と鈴木はペースメーカーの前に出て、引っ張った。それでも今度は赤のウェーブライトに飲み込まれた。

 終盤は思うようにペースが上がらないなかで、シン・ガルビアー(インド)がナショナル記録を20秒近くも塗り替える27分14秒88で優勝。鈴木は全体4位となる27分20秒33でフィニッシュした。自己ベスト(27分26秒67)を更新する日本歴代5位の好タイムも笑顔はなかった。

「今日は26分台を出すつもりで来て、垂れたら棄権してもいいぐらいの気持ちでした。正直、ちょっとベストを更新するくらいでは出場した意味がありません。自分の実力不足で引っ張りきれなくて、最後は余裕がなくなってしまったので、本当に悔しいです」

 26分台への初チャレンジは簡単なものではなかったが、手応えもつかんでいる。

「今季は5000mに取り組んできたこともあり、26分台ペースでいく怖さはなくなりましたし、5000mまで余裕度は結構ありました。その後も引っ張ってもらっていたら、どこまでいけたかはわからないですけど、26分台への自信というか希望は自分のなかですごく見えているかなと思います」

 今後はニューイヤー駅伝を経て、来季は東京世界陸上を目指していく。

「ニューイヤー駅伝で会社に恩返ししたいです。強い先輩方の力を借りながら、僕も優勝メンバーの一員になれたらうれしいなと思います。トラックに向けては、もう一回しっかり作り直して、10000mだけでなく、5000mでも東京世界陸上を目指せるように、両種目の強化をしていきたいなと思います」


日本人学生最高を狙った篠原は「後悔はない」

 先輩の鈴木以上に序盤は攻めの走りを見せたのが5000m(屋外)とハーフマラソンで日本人学生最高記録を持つ篠原倖太朗(駒大4)だ。3000mまでは日本人最上位でレースを進めるも、中盤以降は苦しくなる。10000mの日本人学生最高記録(27分21秒52)を目指していたが、28分05秒22でレースを終えた。

「今回はハイペースで入ったので、大きく崩れちゃいましたけど後悔はないです。予定より早くペースメーカーが離れるなど、ちょっとイレギュラーがあって、体力を削られちゃった部分もありましたが、今回は自分の力不足を感じましたね」

 全日本大学駅伝は7区で平林清澄(國學院大4)、太田蒼生(青学大4)らを抑えて区間賞を獲得。“エース対決”を制したが、今回は万全な状態ではなかったようだ。

「全日本でピークが合っているので、そこからは少し崩れていると思うんですけど、そんなに悪くないかなという感じでした。ただ全日本はキロ2分50秒ぐらいのペースで合わせていたので、今回の400m65秒ペースはきつかったですね。今回のレースを良い経験と捉えて、箱根駅伝にはしっかりと合わせていきたい。自分的には2区を走りたいですけど、任された区間で、任された以上の走りができるように頑張っていきます」

 世界を目指して26分台ペースを経験した篠原。今度は駒大の主将として、絶対に負けられない正月決戦に向かっていく。


遠藤日向が7年ぶりの10000mに出場

 オレゴン&ブダペスト世界陸上5000m代表の遠藤日向(住友電工)が7年ぶりの10000mに出場した。前半は集団後方でレースを進めると、後半はもっと苦しくなる。ペースを落として、完走者では最下位となる28分38秒49の10着でゴールした。

「いまの僕のレベルだとちょっと組が速すぎましたね。そんなに甘くないことはわかっていたんですけど、実際に体験して改めて難しいなと思いました。(10000mは)長かったです(笑)」

 直前まで長野・菅平で合宿を行い、トレーニングは「9割くらい予定通り」にできたが、「なかなか状態が上がってこなかった」という。それでも「27分台なら」という淡い期待もあったが、久しぶりの10000mは甘くなかった。

「5000mにつながる10000mという考えもありましたし、結果次第では10000mという路線を視野に入れながら今回チャレンジしました。きつくなって離れてしまったんですけど、そこから粘れるような感覚もあったんです。でもペースを上げようとすると、差し込みが来てしまって……。タイムは全然良くないですね」

 パリ五輪代表を逃した後は、「自分のカラダが自分じゃないような感じで、練習も全然できないし、気持ちも乗らなかった」としばらくはショックを引きずったが、今大会を経て、競技へのモチベーションは高まっている。

「特に痛みもないですし、まずはニューイヤー駅伝に合わせて、その後は渡米してインドアで記録を狙っていけたらなと思っています。来季は5000mでまずは自己ベスト(13分10秒69)。それから日本記録(13分08秒40)の更新を目指していきたい」

 箱根駅伝よりトラックで世界と勝負することを選んだ遠藤。東京世界陸上で再び、世界にアタックする──。

筆者:酒井 政人

JBpress

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