能開センターに聞く関西【中学受験2020】選抜方法は多様化、英語入試は今後増えていく可能性も
2019年11月27日(水)9時45分 リセマム
2020年の関西の中学入試はどうなるのだろうか。また、注目される入試のトレンドはあるのだろうか。関西を中心に全国でも学習塾「能開センター」を展開する、WAOコーポレ−ション取締役の池森英雄氏に聞いた。
2019年は過去最大の盛況ぶり
--まずは2019年の関西中学入試の振り返りと、2020年の傾向についてお聞かせください。
関西2府4県(大阪府、京都府、兵庫県、和歌山県、奈良県、滋賀県)の2019年中学入試は、すべての日程を合わせたのべ受験者数で2018年より2,345名多い51,037名が受験をし、2府4県で関西圏統一解禁日入試が始まった2006年以降、過去最大の盛況ぶりでした。小6児童数に対するのべ受験率は28.5%で、この指数は2006年以降もっとも大きな値を示しています。
2019年の特徴は次の3点です。
まず、実際の受験率に近い解禁日初日午前の実受験者数が、前年度比+457名の17,201名という結果になりました。小6児童数が減少している中、初日午前の受験率(受験者数/小6児童数)は9.6%となり、2014年の8.7%以降6年連続で上昇傾向となっています。
次に女子受験生の増加です。女子校の解禁日初日の受験者数は、前年比108.4%で男子校の100.7%、共学校の101.5%を大きく上回ります。また2019年の女子入学者数は8,599名で、前年比+195でした。
最後に大学附属校人気の継続があります。関関同立合計の受験者総数は6,379名、産近甲龍の受験者総数は2,104名で、どちらのグループの学校も引き続き人気の高さがうかがえる状況となっています。
こうした流れを受けて展開される2020年の中学入試ですが、次のようなトレンド形成が顕著になってきました。
中学入試の合否判定には、「学力試験」「面接・実技」「調査書等」の要素がありますが、入試でもっとも重視されるのは教科の「学力試験」です。この部分の大きな変更はないと思われます。
ただし中学入試全体では、ここ数年で選抜方法の多様化が進んでいます。初見の資料から必要な情報を抽出する読解力、それをベースに推論できる論理的思考力などが必要とされる「適性検査型入試」や、来年度の小学校での教科化の影響を受けた「英語入試」は今後増えていく可能性があります。
英語入試に関しては選択制での導入であり、受験教科の中で英語はまだ必須とはなっていませんが、英検などの資格のある受験生には加点されるなどの優遇措置をとる学校は徐々に広まってきています。
また、中学校・高等学校での授業や大学入試が、子どもたちの主体性や協働性、思考力・判断力・表現力の育成に力点を置いていること、近年教育界で注目を集めているSTEM教育、文部科学省が問題解決学習(PBL)を推奨していることなどが背景となって、こうした資質をもった子どもたちを選抜する、新しい形式の入試を導入する学校も増えてきています。
WAOコーポレ−ション取締役の池森英雄氏
--関西で人気の高い学校やコースなどについて、理由もあわせて教えてください。
前期入試では、4年連続志願者数が増加している同志社香里中学校、5年連続増加の高槻中学校は受験生から多大な支持を得ています。一方、進学を前提とした併願校としての認知が高い後期入試の志願者では、5年連続で受験者が増加している帝塚山中学校、8年連続増加の親和中学校が人気校としてあげられます。
同志社香里中学校の人気は、同志社全体としての教育の質の高さへの期待が背景にあると考えています。高槻中学校は共学化による幅広い認知度の向上のほか、中3で3コースに分岐しそのうちの1つのコース(GAコース)が進んでいく、学校として取り組んでいるSGH(スーパーグローバルハイスクール)事業への期待が人気を下支えしていると思われます。
また、帝塚山中学校は大学受験実績と専願受験者に行われる別コースでの合否判定が、親和中学校は多様な入試制度の導入が、それぞれ受験者層の拡大へと繋がり、人気との相関があると強く感じています。
変化する出題形式
--入試方式が多様化しているとのお話ですが、関西圏での中学入試の出題傾向についてお聞かせください。大学入試改革の影響はあるのでしょうか。また、特に注目しているのはどのような学校やコースなのでしょうか。
まず出題傾向についてですが、首都圏においておもに塾業界で「開成ショック」と言われることもある、2018年度の開成中学の入試で出題されたアクティブラーニング系の内容や、SDGsを意識したものは関西圏での入試ではまだ見られません。
しかし、昨今話題の「論理力に裏付けされた記述力」に関しては、従来出題されていなかった形式での出題を確認しています。灘中学校国語1日目の100字記述や四天王寺中学校社会の記述の要求などがそれです。
今後の試験で注目したいのは、導入から数年経ち次のステップが見えてきた、西大和学園中学校の21世紀型特色入試です。このほか、追手門学院大手前中学校(WIL入試II期)のロボットプログラミンググループワーク、金蘭千里中学校(後期入試国語)の傾聴力を測定する日本語リスニング問題も注視したいと考えています。
--「中学受験」全般を見たときに、成功する秘訣というものはあるのでしょうか。日々のご指導の中から感じられている「成功する子」の特徴や傾向がありましたら教えてください。
まずは、授業の受け方や宿題のやり方を正しく身に付けることが大切です。
授業中は、ただ聞くのみではなく、その日に学習する内容について「きちんと理解できているかどうか」という点に注意を払うことが大切です。そして、授業内で行う演習では、理解した内容を活用できるレベルにあげることを意識するのが重要です。
能開センターの場合、宿題(家庭学習)は、ほぼ授業の復習内容が課されますので、授業における理解度を確かめながら演習を進め、丁寧に宿題をすることが重要です。またその際には間違いの種類を仕分けして、次回の授業時に質問をすることで、疑問点の積み残しをしないように注意すると良いでしょう。
中学受験全般を見たときに、成功するお子さまの共通点は、こうした学習姿勢を維持し、集中した状態で自学習ができることだと感じています。
保護者へのアドバイスとして
--今後、中学受験を考え通塾を検討するご家庭もあるかと思います。通塾開始時期や志望校決定時期などのお勧めケースを教えてください。
通塾開始時期については、早い段階で正しい学習方法を身に付けるために、小学3年生の2学期、遅くとも小学4年生開始時が良いでしょう。また、春休みや夏休みといった時期に講習会等で学習塾における生活や勉強を体験したうえで通塾を開始すると、学習面でも体力面でもスムーズです。
関西の中学受験の入試本番は1月です。過去問演習を通して各中学校の傾向を理解したうえで、具体的な対策を行うという点では、志望校決定時期についてはその3か月前の10月頃には志望校を決定しておきたいです。ただし、この時期では模試の成績もまだまだ不安定です。
そのため志望校は、夏休み中にはある程度決定しておき、各種模試の結果や日常の学習状況を考慮して10月頃にほぼ決定、そこから過去問演習などを通して直前期まで微調整をするという動きが最適と考えています。
--入試直前の保護者へのアドバイスをいただければと思います。
ご承知のとおり、多くの中学入試は早朝から始まります。自宅から入試会場までの所要時間を考慮すると、入試当日は遅くても6時には起床しなければいけません。
そのため、12月以降は生活リズムを「朝型」にシフトする必要があります。保護者の方は学習塾の担当者と密にコミュニケーションを取りながら、生活の中に学習時間をきちんと組み込み、規則正しい生活リズムの定着を図っていただきたいと考えています。
お子さまの成長段階には当然のことながら個人差があります。テストの成績に一喜一憂することなく、常に改善点を明確にして、善後策を考えていくことが大切です。
保護者が考えている以上に、お子さまは頑張っています。そして、入試本番まで、期間が迫れば迫るほど、お子さまの学習状況や成績は、大人の常識を超えて飛躍的に伸びるものであるということもご理解ください。
入試結果が判明するまでは不安なことが多いでしょう。しかし、保護者の不安はお子さまにも伝染します。常に状況を前向きにとらえ、明るい雰囲気を演出してあげるよう心がけていただければと思います。
--ありがとうございました。
統一解禁日の1月18日から、いよいよ中学入試本番を迎える関西圏。子どもの実力は試験その日まで伸びることを信じ、体調や家庭内の雰囲気を明るいものにするよう心がけ、子どもとともに保護者の皆さまには入試シーズンを乗り切ってほしいと思う。
2019年は過去最大の盛況ぶり
--まずは2019年の関西中学入試の振り返りと、2020年の傾向についてお聞かせください。
関西2府4県(大阪府、京都府、兵庫県、和歌山県、奈良県、滋賀県)の2019年中学入試は、すべての日程を合わせたのべ受験者数で2018年より2,345名多い51,037名が受験をし、2府4県で関西圏統一解禁日入試が始まった2006年以降、過去最大の盛況ぶりでした。小6児童数に対するのべ受験率は28.5%で、この指数は2006年以降もっとも大きな値を示しています。
2019年の特徴は次の3点です。
まず、実際の受験率に近い解禁日初日午前の実受験者数が、前年度比+457名の17,201名という結果になりました。小6児童数が減少している中、初日午前の受験率(受験者数/小6児童数)は9.6%となり、2014年の8.7%以降6年連続で上昇傾向となっています。
次に女子受験生の増加です。女子校の解禁日初日の受験者数は、前年比108.4%で男子校の100.7%、共学校の101.5%を大きく上回ります。また2019年の女子入学者数は8,599名で、前年比+195でした。
最後に大学附属校人気の継続があります。関関同立合計の受験者総数は6,379名、産近甲龍の受験者総数は2,104名で、どちらのグループの学校も引き続き人気の高さがうかがえる状況となっています。
こうした流れを受けて展開される2020年の中学入試ですが、次のようなトレンド形成が顕著になってきました。
中学入試の合否判定には、「学力試験」「面接・実技」「調査書等」の要素がありますが、入試でもっとも重視されるのは教科の「学力試験」です。この部分の大きな変更はないと思われます。
ただし中学入試全体では、ここ数年で選抜方法の多様化が進んでいます。初見の資料から必要な情報を抽出する読解力、それをベースに推論できる論理的思考力などが必要とされる「適性検査型入試」や、来年度の小学校での教科化の影響を受けた「英語入試」は今後増えていく可能性があります。
英語入試に関しては選択制での導入であり、受験教科の中で英語はまだ必須とはなっていませんが、英検などの資格のある受験生には加点されるなどの優遇措置をとる学校は徐々に広まってきています。
また、中学校・高等学校での授業や大学入試が、子どもたちの主体性や協働性、思考力・判断力・表現力の育成に力点を置いていること、近年教育界で注目を集めているSTEM教育、文部科学省が問題解決学習(PBL)を推奨していることなどが背景となって、こうした資質をもった子どもたちを選抜する、新しい形式の入試を導入する学校も増えてきています。
WAOコーポレ−ション取締役の池森英雄氏
--関西で人気の高い学校やコースなどについて、理由もあわせて教えてください。
前期入試では、4年連続志願者数が増加している同志社香里中学校、5年連続増加の高槻中学校は受験生から多大な支持を得ています。一方、進学を前提とした併願校としての認知が高い後期入試の志願者では、5年連続で受験者が増加している帝塚山中学校、8年連続増加の親和中学校が人気校としてあげられます。
同志社香里中学校の人気は、同志社全体としての教育の質の高さへの期待が背景にあると考えています。高槻中学校は共学化による幅広い認知度の向上のほか、中3で3コースに分岐しそのうちの1つのコース(GAコース)が進んでいく、学校として取り組んでいるSGH(スーパーグローバルハイスクール)事業への期待が人気を下支えしていると思われます。
また、帝塚山中学校は大学受験実績と専願受験者に行われる別コースでの合否判定が、親和中学校は多様な入試制度の導入が、それぞれ受験者層の拡大へと繋がり、人気との相関があると強く感じています。
変化する出題形式
--入試方式が多様化しているとのお話ですが、関西圏での中学入試の出題傾向についてお聞かせください。大学入試改革の影響はあるのでしょうか。また、特に注目しているのはどのような学校やコースなのでしょうか。
まず出題傾向についてですが、首都圏においておもに塾業界で「開成ショック」と言われることもある、2018年度の開成中学の入試で出題されたアクティブラーニング系の内容や、SDGsを意識したものは関西圏での入試ではまだ見られません。
しかし、昨今話題の「論理力に裏付けされた記述力」に関しては、従来出題されていなかった形式での出題を確認しています。灘中学校国語1日目の100字記述や四天王寺中学校社会の記述の要求などがそれです。
今後の試験で注目したいのは、導入から数年経ち次のステップが見えてきた、西大和学園中学校の21世紀型特色入試です。このほか、追手門学院大手前中学校(WIL入試II期)のロボットプログラミンググループワーク、金蘭千里中学校(後期入試国語)の傾聴力を測定する日本語リスニング問題も注視したいと考えています。
--「中学受験」全般を見たときに、成功する秘訣というものはあるのでしょうか。日々のご指導の中から感じられている「成功する子」の特徴や傾向がありましたら教えてください。
まずは、授業の受け方や宿題のやり方を正しく身に付けることが大切です。
授業中は、ただ聞くのみではなく、その日に学習する内容について「きちんと理解できているかどうか」という点に注意を払うことが大切です。そして、授業内で行う演習では、理解した内容を活用できるレベルにあげることを意識するのが重要です。
能開センターの場合、宿題(家庭学習)は、ほぼ授業の復習内容が課されますので、授業における理解度を確かめながら演習を進め、丁寧に宿題をすることが重要です。またその際には間違いの種類を仕分けして、次回の授業時に質問をすることで、疑問点の積み残しをしないように注意すると良いでしょう。
中学受験全般を見たときに、成功するお子さまの共通点は、こうした学習姿勢を維持し、集中した状態で自学習ができることだと感じています。
保護者へのアドバイスとして
--今後、中学受験を考え通塾を検討するご家庭もあるかと思います。通塾開始時期や志望校決定時期などのお勧めケースを教えてください。
通塾開始時期については、早い段階で正しい学習方法を身に付けるために、小学3年生の2学期、遅くとも小学4年生開始時が良いでしょう。また、春休みや夏休みといった時期に講習会等で学習塾における生活や勉強を体験したうえで通塾を開始すると、学習面でも体力面でもスムーズです。
関西の中学受験の入試本番は1月です。過去問演習を通して各中学校の傾向を理解したうえで、具体的な対策を行うという点では、志望校決定時期についてはその3か月前の10月頃には志望校を決定しておきたいです。ただし、この時期では模試の成績もまだまだ不安定です。
そのため志望校は、夏休み中にはある程度決定しておき、各種模試の結果や日常の学習状況を考慮して10月頃にほぼ決定、そこから過去問演習などを通して直前期まで微調整をするという動きが最適と考えています。
--入試直前の保護者へのアドバイスをいただければと思います。
ご承知のとおり、多くの中学入試は早朝から始まります。自宅から入試会場までの所要時間を考慮すると、入試当日は遅くても6時には起床しなければいけません。
そのため、12月以降は生活リズムを「朝型」にシフトする必要があります。保護者の方は学習塾の担当者と密にコミュニケーションを取りながら、生活の中に学習時間をきちんと組み込み、規則正しい生活リズムの定着を図っていただきたいと考えています。
お子さまの成長段階には当然のことながら個人差があります。テストの成績に一喜一憂することなく、常に改善点を明確にして、善後策を考えていくことが大切です。
保護者が考えている以上に、お子さまは頑張っています。そして、入試本番まで、期間が迫れば迫るほど、お子さまの学習状況や成績は、大人の常識を超えて飛躍的に伸びるものであるということもご理解ください。
入試結果が判明するまでは不安なことが多いでしょう。しかし、保護者の不安はお子さまにも伝染します。常に状況を前向きにとらえ、明るい雰囲気を演出してあげるよう心がけていただければと思います。
--ありがとうございました。
統一解禁日の1月18日から、いよいよ中学入試本番を迎える関西圏。子どもの実力は試験その日まで伸びることを信じ、体調や家庭内の雰囲気を明るいものにするよう心がけ、子どもとともに保護者の皆さまには入試シーズンを乗り切ってほしいと思う。