サウナ大国フィンランドでは、スタートアップの未来も全裸で語る!?「Slush 2019」に行ってきた【連載】旅する技術屋 (6)

12月4日(水)20時0分 FINDERS

寄付とボランティアだけで運営している(かわりに完全自己責任な)無料の公衆サウナ「ソンパサウナ」。日本のメディアやブログでもさかんに紹介されている

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清水幹太

BASSDRUM / whatever

東京大学法学部中退。バーテンダー・トロンボーン吹き・DTPオペレーター・デザイナーなどを経て、独学でプログラムを学んでプログラマーに。2005年12月より株式会社イメージソース/ノングリッドに参加し、本格的にインタラクティブ制作に転身、クリエイティブ・ディレクター / テクニカル・ディレクターとしてウェブサイトからデジタルサイネージまでさまざまなフィールドに渡るコンテンツ企画・制作に関わる。2011年4月より株式会社PARTYチーフ・テクノロジー・オフィサーに就任。2013年9月、PARTY NYを設立。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。

フィンランド発、世界的スタートアップイベント「Slush 2019」へ

11月のヘルシンキは暗い。日が昇るのは遅く、日が沈むのは早い。日が昇っている間も薄暗く、夕方のようだ。北欧のなんとも言えない澄んだ冬の空気の中、防寒着に身を包んだ人たちが、まだ暗いうちからチラホラ街に出始める。実際は朝の9時くらいだから普通にみんな動き出す時間だが、もう仕事を始めるべき時間なのだ、と認識するまでに少し時間がかかる。

私は、この時期、ヘルシンキのコンベンションセンターで行われる世界最大級のスタートアップイベント「Slush 2019」に参加すべく、フィンランドにやってきていた。Slushというイベントは、単なる展示会とも違うし、カンファレンスとも違う。世界各地でスタートアップビジネスを牽引するスピーカーを集めてはいるが、実は一番の醍醐味は「商談をしに来ている人が多い」ということのような気がする。各々のスタートアップは、自分たちのビジネスを広げるチャンスを得るために、協業先を探しに来ている、つまりなんというか普通の展示会より「営業モード」のように思えるし、そういった人たちと会話をしにくる投資家やベンチャーキャピタルの人々、あるいは自分たちのビジネスに利用できる新しいテクノロジーを見つけにきた大企業の人々などが多い。

私見だが、アメリカのSXSWのような新しいスタートアップの「種」の見本市というよりも、もう少しステージが進んで、ある程度ビジネスを回している(初期の調達を済ませているような)スタートアップと協業先とのマッチングイベントのような意味合いが強いような気がした。実際、会場内にはミーティングブースのようなものが設置されていて、通常より高額のチケットの購入が必要になるが、運営側で参加者のマッチングシステムのようなものも用意している。

かくいう私もちょこちょこ協業の可能性がある人とミーティングをしたり、ということをするのが大きな目的ではあった。会期中の午前中はミーティングと自分の作業のために、ヘルシンキ中心部で仕事をしていた。

ヘルシンキ大学版「タダで誰でも使えるWeWork」がすごすぎる

ヘルシンキ大学が運営するフリー・コワーキングスペース「THINK CORNER」

東京やニューヨークでは電源を確保できる仕事場所を探すにもひと苦労だし、コワーキングスペースなどがあっても基本的に有料だが、ヘルシンキ中心部には、働く場所を求める人たちにとっての大きな力となる最強のフリー・コワーキングスペースがある。それが、ヘルシンキ大学が運営する「THINK CORNER」だ。

驚くべきことに、ここではカフェに併設された電源付きの大きな作業スペースがあり、誰でも無料で作業がし放題。地下と2階にも作業用のデスクがあり、会議室も無料で使用可能。さらには電話会議用のブースも複数用意されていて、ある種、「タダで誰でも使えるWeWork状態」になっている。地下スペースには、「人間をダメにするソファ」でゴロゴロできるような休憩スペースもある。そして、大学が主体となって、トークイベントなども随時開催されている(フィンランド語のトークなので、何について話しているのかよくわからなかったが)。

2017年に設立されたこの「THINK CORNER(Tiedekulma)」は、あらゆる市民に開かれた「知」のオープンアリーナだ。こういう大胆な場所を自然につくって開放してしまうあたり、意識が高くて素晴らしいなと思う。立地にしても、東京で言ったら渋谷のハチ公前みたいな場所にあるのだ(市の中心のヘルシンキ大聖堂から徒歩1分)。

そんなわけで、そのフィンランドの意識の高さの恩恵にあずかって、私もノートパソコンを広げて会議したり、プログラムを書いたり、書類をつくったり、すっかり濃密で効率的で快適な作業時間をとることができた。控えめに言って働きやすい街だな、と思う。フィンランド国民のほとんどは英語が流暢だし、アメリカで仕事をするのとあまり変わらずに仕事ができそうな感じがある。

実際フィンランドは人口が550万人程度、マーケットも小さいので、ここで生まれた企業は、どんどん国外のマーケットで勝負している。マーケットが小さい国ほどグローバルになっていく、という傾向を地で行っているグローバル先進国がフィンランドなのだ。IT革命の直後に、NOKIAという巨大企業が登場して世界を席巻したのも大きかったのかもしれない。テクノロジー・ITという分野においてはフィンランドは明らかに自信に満ちた先駆者として、世界中でその実力を発揮していると言っていい。

もう1つ特筆すべきは、UX/UIだ。もともとデザインの素晴らしさで有名なフィンランドではあるが、空港のサイン計画から、電車の切符の販売機に至るまで、ユーザーエクスペリエンス全体とインターフェースのデザインが徹底して洗練されている。空港でまったく迷わない(上に、サインの細部に至るまでカッコいい)し、外国人の私でも非常にスムーズに目的地までの切符を買うことができる(上に、画面デザインの細部に至るまでカッコいい)。これは、ITの発達と同時に、テクノロジーはあくまで手段として、人間生活に寄与するべきものであるという考え方が徹底しているからだと思う。フィンランドという国では、とにかく人が気持ちよく快適に生活できるようにさまざまなものが設計されている。

フィンランド人のものづくり魂とヘルステックの興隆

さて、THINK CORNERで仕事を終えたらトラムに乗ってSlushの会場に向かう。展示ブースを見て回ったり、世界中から集ったいろんな人たちのスピーチを聴く。世界中からさまざまなスタートアップが集まっているものの、やはりそこはヘルシンキ。花形は地元であるIT先進国フィンランドのスタートアップたちで、前述の通り、さまざまな角度から人の生活のためにしっかりデザインされたプロダクトが展示され、デモンストレーションされていた。

テクノロジーは、現代社会において夢に満ちたものだ。今から10年前は2009年。AI/機械学習の世界で革命が起きて本格的なディープラーニングが登場するのが2012年だから、10年前にはほとんど誰も「ディープラーニング」なんていう言葉を使うことはなかった。ビットコインが静かに運用され始めたのも2009年。やはり10年前にはほとんど誰も「ブロックチェーン」という概念を知らなかった。スタートアップで見ると、Uberが生まれたのもたった10年前。中国のWeChatは存在しなかった。10年で、これだけ革命的な技術やビジネスが生まれてとんでもないスピードで世界を席巻するのだ。夢があるとしか言いようがない。私も実際この世界で働いていて、なんて夢のある仕事なんだろうと思ったりする(そのぶん流れが速くて大変だが)。

VR、フィンテック、AIアシスタント。他のカンファレンス同様、そこで展開されているのは、テクノロジーが新しく提供する次世代の体験であり生活だ。

しかし、フィンランドのスタートアップを中心に熱く展開されていたのは、何といってもHealth Techの領域で、テクノロジーを使って、細かく身体情報を解析したり、より良い身体環境をつくる、という方向のものが多く出展されていた。やはり特筆すべきはそのテクノロジーだけではなくて、そういったテクノロジーをしっかりユーザーとの接点、すぐれたUX/UIに落とし込んでいるということで、そういう視点で素晴らしい美意識と職人芸、「ちゃんと真面目につくっている」感じが満ちていて胸が熱くなった。「人間ファースト」「生活ファースト」のフィンランドのものづくりが、ヒューマンインターフェースの最たるものであるHealth Techの領域で開花しているように見えた。

会場で気になったスタートアップその1:スリープ・テック指輪デバイス「OURA」

スリープ・テック指輪デバイス「OURA」

たとえば、フィンランド発のスリープ・テック指輪デバイス「OURA」はとても完成度が高い商品だ。見た目は普通の指輪。指輪の内側には心拍・体温・呼吸などを取得する超小型センサーが入っていて、その上に加速度センサーも搭載、身体情報と動きから、万歩計的な消費カロリー量の計算を行いつつ、睡眠時には起きている時間・レム睡眠の時間、深い眠りに入っている時間などを見事に可視化してくれる。スマートフォンアプリとBluetoothで接続することで、常時アプリ側に身体の状態が送信される。iOSならHealthKitと連携し、APIも公開されているので開発者が自分のアプリなどでデータを利用することも可能。

何が素晴らしいかって、なんと言っても指輪であることだろう。たとえばスマートウォッチの多くは同じような情報を取得できるが、たとえば家でリラックスをしている時間にまでずっと装着しているのはストレスだ。指輪の形なら、慣れればつけているのを忘れて、「無意識に」身体情報を蓄積することができてしまう。しかも完全に防水で、フィンランドの人らしく「サウナでつけてても大丈夫なんだよ」と強調していた。

こういう展示だと珍しいと思うのだが、ブースで各サイズの指輪を即売していたので、筆者も購入してみた(340ユーロ=約4万1000円だった)。それから数日間、一度充電のために外した以外はストレス無くつけっぱなしだ。そして、私のスマホでは、とても見やすいユーザーインターフェース上に、自分の睡眠不足っぷりがわかりやすく可視化されている。そう、アプリ側のUIデザインも完全にフィンランドクオリティで、まったく迷わない設計になっている。

会場で気になったスタートアップその2:インターネット接続型の電子顕微鏡デバイス「GRUNDIUM」

インターネット接続型の電子顕微鏡デバイス「GRUNDIUM」

5Gのテスト回線が活用されていた5Gブースに展示されていた「GRUNDIUM」は、インターネット接続型の電子顕微鏡デバイスだ。タブレットから顕微鏡をコントロール。拡大して見たい領域をタップすると、その部分が電子顕微鏡で拡大された精細な画像が表示される。これが面白いのは、その拡大された画像が、まるでGoogle Mapsのようにいろんな解像度で取得されて拡大縮小・移動が自由にできる形でインターネット上に共有されること(それが瞬時になされるデモンストレーションが5Gブースで行われていた)。

たとえば、自分の皮膚や血液などをこの機械で撮影して医者に共有すれば、高精度での検査をリモートで行うことができたりする。フィンランドの工業都市・タンペレで開発されているこの技術は、医療の現場での活用も始まっているらしい。そして例によって、タブレット上の操作インターフェースがいちいちよくできていたりする。

会場で気になったスタートアップその3:血液検査サービス「Nightingale」

血液検査サービス「Nightingale」

血液検査サービスの「Nightingale」は、さらに医療領域に突っ込んだHealth Techスタートアップだ。読者の多くも経験があるかと思うが、複数の血液検査を行う際、検査ごとに別々の入れ物を使っており、その度に採血し直さなければならない。それに対して、さまざまな血液検査を1本の入れ物で全部やってしまおう。そしてその検査結果をわかりやすくアプリで配信します、というのがこのスタートアップだ。定期的にこれを行うことで予防治療にもなり、ある種、コンパクトな形で定期的に健康診断を行い続けるようなシステムを提供しようとしている。詳細は教えてくれなかったが、「特別な痛くない採血方法で血が取れるキットを開発中」と担当の方が言っていた。

生活の中でローストレスで効率よく健康管理をするために、本格的な医療分野との連携を行っている例で、そもそも「採血を何本もしなくてはならない」という問題をUX上の問題と捉えて、そこを解決しようとしている考え方が、人を中心にデザインをするフィンランドらしいプロダクトだと思った。そして、デモンストレーションで見せてくれた血液の解析結果画面は、やはりインターフェースが洗練されていた。

こういったヘルス・スタートアップとフィンランドのUX文化の相性がとても良いのか、完成度の高いサービスが多く展示され、とても得るものが多かったな、などと思ってヘルシンキ中心部に戻った。

異色の公衆サウナで全裸の男たちが語り合う、裏Slashが開幕

せっかくフィンランドにいるのだ。私としては絶対に体験しておきたいものが1つあった。それは、本場のサウナだ。フィンランドといえばサウナ、サウナといえばフィンランドだ。日本は現在空前のサウナブーム。アメリカに住んでいる私だが、日本に帰った際は毎日のようにどこかのサウナに通う「サウナー」だ。

ところが、その日宿に戻ることができたのが夜の10時半、ヘルシンキの公衆サウナ施設は、だいたい8時くらいには閉まってしまう。日本のように24時間営業のカプセルホテルなどはないのだ。どこかまだやっているサウナはないか。

調べてみて見つけたのがヘルシンキの外れの埋立地の突端にある、ヘルシンキのサウナ好き有志が「勝手に」サウナ小屋を建てて暖まりはじめたという、「Sompasauna(ソンパサウナ)」だ。ちょっと調べてみると、ここには常にサウナ好きが勝手に小屋で暖まっているため、実質24時間営業しているのだという。

写真左側に見えるのは利用者が脱いだ服と荷物。男女共用で全員が基本、裸になって入る(水着着用も可)

早速フィンランド版のUberである「Yango」で車を手配して、ソンパサウナに向かう。が、途中で何もない資材置き場みたいな感じになって、道らしきものがなくなる。運転手さんが困って、GPSをたどって恐る恐る空き地を進行すると、突然真っ暗な闇の中に小屋が出現する。「あれ? 間違えたかな?」と思った瞬間、私はとんでもないものを目にした。ように思えた。

「あれ? 今、人間がいなかったか?」

人間はいても良いのだが、目を疑ったのは、その人間が明らかに全裸だったからだ。外はマイナス3度。小屋の他には何もない埠頭。唐突に脱ぎ捨てられた服と、無造作に置かれた荷物。そしてよく見るとその周りに、複数の全裸の人々。

ここが目的地であることを確信した私は、運転手さんに「あ、ここで大丈夫でした」と告げた。そして意を決してその場で服を脱ぎ、マイナス3度の中、全裸になり、持ち込んだサンダルを履きサウナ小屋らしき小屋に入った。

小屋に入るとそこにはすでに4人の男性がいて、話をしていた。小屋の中は暗く、サウナの炉の薪が燃えている炎の光以外に照らすものがないため、お互いの顔も見えなかった。人種の判別もつかない。ただ、全員、全裸らしいことだけはわかる。

「あんた、どこから来たの?」

恐らくフィンランド訛りっぽい男性の声がする。

「俺は、もともとはスイスだよ。Slushでヘルシンキに来てるんだよ」

「あーそうか! 今、Slushやってるんだよね。みんなSlushなの?」

私も含めて、そこにいた5人のうちの4人がSlushで国外からやってきた外国人。そのスイス人に、イギリス人、ロシア人、そして日本人の私と、現地のフィンランド人ということだった。

Slushの時期だからか、はからずもその場は5カ国から全裸の男たちが集まる国際的な場となった。

「ていうか今年Slushどうなの? なんか面白いのあった?」

フィンランド男性が言った。スイス男性が答える。

「いやー、なんかフィンテックものが多くて、俺もコンサルだからいろいろ見たけど、なんつうか、みんな『技術のために技術使ってる』感じだよね。本当に人のためになりそうなものが全然ない」

それに対してイギリス男性は、

「僕は石油会社に勤めているからスマートグリッドを中心に見てるんだけど、なかなかしょうもないよね。表向きはイノベーションとかなんとか言わないといけないんだけど」

するとSlushに参加していないフィンランド男性が怒ったように、

「結局テクノロジーみたいのは人間の生活をダメにしてるんだよ。ソーシャルメディアで、人間の生活はどんどん窮屈になっていく。テクノロジーには手触りがないんだよ。電子書籍とかも、手触りがなくて俺には無理だし、ちゃんと身体で感じることが大事なんだ」

などと返す。そしてその場は、世界から集まった全裸男性5人による「Slush反省会」、あるいは「裏Slush」になった。どこのブースが良かったとか、そもそもAIとか本当に便利なの? とか。テクノロジーに関わり、テクノロジーに惹かれてヘルシンキにやってきた私も含めた人々のテクノロジーに対する本音が暗闇の中で飛び交う。テクノロジーには夢がある。しかし、その夢の中にはバブルみたいにすぐに弾ける単なるバズワードもあるし、本当に信じることができる本当のイノベーションもあるのかもしれない。

今の時代を生きる私たちテクノロジー野郎たちは、もしかしたらどこか無理をして息を切らしながら最先端のテクノロジーに追いついているのかもしれない。UXだUIだ、小難しいことはいろいろあるけど、まあ本当は難しく考えずに気楽にやればいいじゃん。

暗闇の中、テクノロジー野郎たちの本音が蒸気の中に消えていく。温度が下がってくると、床に積まれた廃材をどんどん炉に突っ込んでいく。サウナ室の中で酒を飲む。裏Slushの夜は更けていく。

「私は、フインランドのHealth Techは素晴らしかったと思うよ。人のことを考えてるし、とにかく良くできてるよね」

私が言うと、全裸のフィンランド男性が答えた。

「当たり前じゃん。フィンランドはサウナの国なんだぜ。サウナは最高のHealth Techだよ。わかったら海に飛び込んで身体冷やして来な! 最高だぜ!」

言われたとおり、小屋の外のはしごから波の高いバルト海に飛び込む。めっちゃ冷たいが、めっちゃ気持ちいい。おっしゃる通り、UXがわかっていらっしゃる。しばらく冷気を楽しんでから、私は裏Slush会場であるサウナ小屋に戻っていった。

FINDERS

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