韓国ドラマは全て「ウソ」なのか ―― 韓国の悲惨な現実『韓国の若者』著者・安宿緑が語るヘル朝鮮の詳細

2020年12月16日(水)16時0分 tocana

「パラサイト 半地下の家族」(2019)が米国アカデミー賞に輝き、サムスン電子がスマホやテレビの世界シェアトップを占めるなど、エンタメやビジネスで躍進を続ける韓国。また、キラキラした若者たちの恋愛や人間模様を描いたドラマも多数ヒットしている。しかし、それは韓国のほんの表の一面に過ぎない。その裏では、韓国の若者達はここ20年間地獄のような社会状況で喘いでいるのだという。


 今年9月に刊行された『韓国の若者 なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』(中央新書ラクレ)は多角的な視点とデータによって、その実態を分析した意欲作だ。著者の安宿緑(やす やどろく)さんに、驚くべき韓国の現状について語ってもらった。


■韓国の若者の悲痛な叫び


ーー安宿緑さん(以下、安さん)が、韓国の若者の悲惨な状況に気づいたのはいつ頃なのでしょうか?


安宿緑 常に気にかけていたわけではなく、直接のきっかけは2017年の韓国の大統領選を取材なんです。


 ソウル市の世宗広場(光化門広場)に若者が大勢集まっていて、彼らの文在寅大統領への期待値の高さと熱量に驚きました。「今度こそ自分達の状況を良くしてくれそうな大統領だ!」と。


ーー日本の若者とは政治に対する関心の度合いがまったく違いますね。


安宿緑 日本の若者は、そこまで政治に熱くならなくても生きていける状況なんだと思います。


 取材するうちに、若者が苦境に立たされていて、そのために政治に期待していることが分かってきました。


 印象的だったのは、正義党の沈相奵(シム・サンジョン)という女性候補の取材でした。泡沫候補ですが、20〜25歳の若者に1000万ウォンを支給するなどの公約をし、若者からの支持を多く取り付けた人です。支持者だという金髪のパンクみたいな格好をした若者に取材すると、「若者の失業対策をしっかり考えてくれているから支持しています」とすごく真面目なことを言うんです。


 若者達の生活と政治が直結しているんだなと思いました。その後、他の雑誌の編集長の要望もあり、韓国の高学歴貧困者について取材をするようになりました。


■超学歴社会が生み出す地獄


ーー韓国の受験戦争の激しさは日本でも有名ですが、韓国の大学進学率は70%台で、日本(2019年で58.1%)よりも高いんですね。


安宿緑 子どもの頃からみんなが必死に勉強するので、全体的に基礎学力が高いと感じます。もちろん日本でいうFラン大学のような大学もありますが、そこの学生でさえ自主的に問題解決をしようとする能力が高いと感じます。そういう若者達が韓国で無駄に消費されているのが、すごく勿体無いと思いますね。


ーー大卒就職率は8年連続で70%台しかないと書かれていましたね。


安宿緑 給料の高い大企業に就職できるのは一部の人だけという点は日本と同じなんですが、その傾向が極端なんです。全体的に学生の基本的なスペックが高く、TOEIC700点以上は当たり前。最低ラインとして700点以上ないと、大企業以外の面接も受けさせてもらえません。実際には800点以上あっても書類選考で落とされます。


 韓国でもっともレベルの高いソウル大学の中でも超優秀なほんの一部の人しか大企業に採用されないので、基本的には「入れない」というのが前提です。



ーー最近話題の韓国ドラマ『梨泰院クラス』で、主人公の好きな女性が、主人公の敵である大企業に、そうと知りながら就職してしまうんですが、好き嫌いを言っていられないくらい大企業に入ることが重要なんですね。


安宿緑 入社できるチャンスがあるなら、入らないという選択は考えられないと思います。大企業なら年収1000万円以上、それ以外の中小企業は30歳で年収200〜300万円と、生涯賃金が大きく違いますから。


 しかし大企業に入れば一生安泰かといえばそうではなく、多くの人が45歳くらいで退職推奨をされます。そのため大企業に入り、早期退職して退職金でチキン屋を経営するのがそこそこの人生コースとされています。


 あとは、公務員試験に若者が殺到しています。最下級の9級公務員にでも受かれば一生食べていけますから。大企業か公務員か、学歴社会によって人生のイメージが固定されてしまってるんです。


■高学歴から低学歴まで続く地獄ロード


ーー大企業に入る以外に豊かに暮らす道はないのが現実なのでしょうか?


安宿緑 親世代の思い込みが強烈で、保守的で閉塞感の強い社会風土があります。


 しかし、若者達の中には「他の道もあるんじゃないか」と考え方を切り替えている人も出てきています。大企業に入っても歯車の仕事しかさせてくれないし、早期退職させられてしまう。「だったら年収300万位でも、自分が満足できる仕事をして楽しく生きられればいいや」という人も増えています。ただ、それだと収入が低いため、結婚や出産に手が届かず、諦めようとする若者が多くなっています。


ーー大卒でも就職が難しいということは、中卒や高卒の人はもっと厳しいのでしょうか?


安宿緑 中卒や高卒の人に関しては本当に韓国の闇というか……。本書で取り上げた高学歴貧困者は、まだその苦しみが可視化できるだけマシなのかもしれません。


ーー日本は国民の半数近くが高卒ですし、幸せに暮らしている人はたくさんいると思います。


安宿緑 韓国では国民の7割が大卒なので、高卒は少数派なんです。「えっどうして高卒なの?」と珍しい人扱いになってしまうんですね。


 さらに「世襲中産層社会」といって、高卒の親の子供は経済的に大学に進学できなくなっています。経済格差で階層が完全に固定され、下克上が難しい社会になりつつあるんです。


 本書では地方の低偏差値の大学に通う人についても書きましたが、地方には地方の地獄があって、高学歴には高学歴の地獄があります。地獄が広範囲に行き渡っているのが今の韓国社会であると、数年間の取材を通じて感じました。



■自殺率の異常な高さ


ーーそれだけ苦しい状況だから、韓国では精神疾患に罹患する若者が多いんですね。


安宿緑 この5年で大幅に増えています。2019年の統計では、パニック障害、不安障害、うつ病、躁うつ病の疾患の増加率すベてで、20代が1位でした。


 一応うつ病に対するケアなど社会的喚起はありますが、根本的な解決にはなっていません。また、若者の自殺率がすごく高いです。


ーー韓国はOECD諸国で自殺率がトップ。10代、20代の自殺率が増加しているんですね。(韓国統計庁「2019年死亡原因統計」)


安宿緑 韓国では「入水自殺に備える」という意味の「漢江の水温チェック」という言葉が流行ったくらい自殺が多いです。でもなぜか、中卒と、大学院卒の人の自殺率だけが低いんです。どちらか極端に振り切れているといいのかもしれません。


 若者の自殺も問題なのですが、実はもっとも高いのは老人の自殺率です。80代男性の自殺率が非常に高いんです。韓国は年金を支給されていない老人が多いので、若者は親に頼ることができますが、独居老人は生活保護でない限り本当に悲惨な生活になります。ごみ拾いをしたり、老人に弁当を宅配するボランティアに頼って、なんとか食いつなぐしかありません。相互扶助によってギリギリのところでなんとか持っている社会なんです。


(つづく)


■安宿緑


東京都生まれ。ライター、編集者。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA! 』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)

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