【有馬記念・展望】一年間しのぎを削ってきた一流馬たちの最終決戦場、数々のドラマが生まれた舞台で今年はどうなる
2024年12月19日(木)6時0分 JBpress
(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)
昭和歌謡研究家・堀井六郎氏はスポーツライターとしての顔もあります。とくに競馬は1970年から今日まで、名馬の名勝負を見つめ続けてきました。堀井氏が語る名馬伝説の連載です。
年間最多勝・ルメール騎手はアーバンシックで参戦!
今年も残すところあとわずかとなりましたが、昨年に続き今年もまたクリストフ・ルメール騎手のJRA(中央競馬会)年間最多勝がほぼ確実となりました。
12月13日現在、167勝でライバルの川田将雅(ゆうが)騎手に32勝の差をつけているので、間違いないところでしょう。過去8年で7回目の年間最多勝獲得となると、武豊騎手の18回、福永洋一騎手の9回に次ぐもので、日本競馬界の至宝としてさらに輝きを増しています。
今から19年前の第50回有馬記念で4番人気のハーツクライを御(ぎょ)し、国内無敵だったディープインパクトの猛追を半馬身抑えての快勝はまさに衝撃的でした。あのとき20代半ばだったルメール騎手が、やがて日本の競馬界を席巻していく前触れを予感させるようなレースでもありました。ルメール騎手の初重賞勝利がいきなりこのG1レースというのも彼の大物ぶりを印象付けたように思えます。
2015年に外国人騎手としてJRA通年免許を取得すると、この年から今に及ぶフランス仕込みの騎乗技術と馬に対する感受性を駆使した快進撃が始まりました。そのルメール騎手が今年の有馬記念で騎乗するのが、自ら菊花賞勝利に導いたアーバンシック(父馬がスワーヴリチャード)です。
ドウデュース連覇がかかる武豊の有馬最多勝利更新なるか
さて、毎年11月末開催のジャパンカップが終わると、気持ちはただちに年末の有馬記念へと向かいます。この秋、天皇賞とジャパンカップを武豊騎手とともに制したドウデュース(父馬がハーツクライ)が余勢を駆って出走しますが、有馬記念が同馬の引退レースになることを公表したことでファン投票はダントツの47万8415票を獲得、過去の最多得票36万8304票を大きく更新しました。
もしドウデュースが勝てば昨年に続く連覇、武豊騎手は有馬記念5勝目となり、池添謙一騎手と並ぶ4勝の最多記録をこちらも更新することになります。
年末に行われてきたこのレースは一年間しのぎを削ってきた一流馬たちの最終決戦場となり、総決算レースとして数々の名シーンを生み出してきました。特に超一流馬と称される名馬たちの引退レースの多くはこの有馬記念が開催される中山競馬場が舞台となっています。
古くはオグリキャップ(1990年)、シンボリクリスエス(2003年)、ディープインパクト(2006年)、オルフェーブル(2013年)、ジェンティルドンナ(2014年)、キタサンブラック(2017年)らの名馬がこのレースを勝利で飾って引退して行きました。
中山競馬場の大観衆の前でこのレースに勝利してターフを去る名馬たちの雄姿はよりいっそう輝きを増したものです。
今年、圧倒的に支持されているドウデュースが昨年に続く連覇を達成するのか、2歳年下で今年のダービー馬ダノンデサイル(父馬の父が有馬記念を連覇したシンボリクリスエス)の挑戦をどう受け止めるのか。
あるいは前述のルメール騎手騎乗で菊花賞に勝利したアーバンシックが、父馬の父でもあるハーツクライのように競馬ファンをあっと驚かせてくれるようなレースを演出してくれるのか、興味は尽きません。
ドウデュースの父がハーツクライなので、叔父と甥の対決になるかもしれません。まあ、競馬の世界では珍しいことではありませんが。騎乗する武騎手とルメール騎手の手綱さばきの対決でもあります。
連覇した名馬たちの名レース
「有馬記念の連覇」といえば、すぐに思い浮かぶ馬が4頭います。
新しいところでは(といっても、すでに20年以上経過していますが)、第47回・48回(2002年・03年)優勝のシンボリクリスエス、そして第43回・44回(1998年・99年)のグラスワンダー。
さらに時代を遡り、第29回・30回(1984年・85年)のシンボリルドルフ、第14回・15回(1969年・70年)のスピードシンボリです。
スピードシンボリの大きな活字がスポーツ新聞の1面を飾っていた時代から始まるのが私の競馬史になりますが、ルドルフ、クリスエスのシンボリ勢、グラスワンダーはリアルタイムで応援していました。
スピードシンボリは、現在の満年齢ですと、6歳と7歳時に連覇しています。2着はどちらもゴール前でシンボリに肉薄したアカネテンリュウ、着差はハナ差、クビ差ときわどいものでした。
スピードシンボリを母馬の父に持つシンボリルドルフの連覇は、2レースとも後続馬を寄せ付けず着差以上に圧倒的な強さを感じさせる勝利でした。有馬記念の歴代レースの中で最も落ち着いて見ていたのがルドルフの連覇だったときのような気がします。強かった。
同じ連覇の瞬間でも、シンボリクリスエスとグラスワンダーのゴール前は対照的で、シンボリクリスエスが2着馬につけた着差の9馬身差は今でも有馬記念の歴代最大着差となっています。このときのクリスエスも強かった。対してグラスワンダーの連覇はスペシャルウィークとの鼻差の激闘で、まさに薄氷を踏む勝利でした。
連覇ではありませんが、惜しかったのは第33回と第35回の隔年で優勝したオグリキャップで、第34回(1989年)の有馬記念に優勝していれば3連覇という前人未到の大記録を残せたかもしれませんが、このときは勝ったイナリワンから5馬身ほど離された5着に敗れています。
同じく3連覇を逃した例としてオルフェーブルも第56回と第58回で優勝していますが、第57回のときはフランス遠征(凱旋門賞2着)、そして帰国後はジャパンカップに出走(2着)して疲労残りだったことから回避しています。
ということで、今年の有馬のゴールシーンはどうなりますことやら。武騎手を背にドウデュースが連覇で有終の美を飾るのか、はたまた最多勝騎手の威信をかけてルメール騎手がアーバンシックで一矢報いるのか、それとも伏兵出現で我々を驚かせてくれるのか。毎年のことながら、今年も有馬は必見です!
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
筆者:堀井 六郎