【調査】年越しそばにもオススメ! 福井名物「越前そば」の旨さの秘密を探りに本場の蕎麦屋と製粉工場に行ってきた

2022年12月21日(水)10時51分 食楽web


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●調査内容:福井県のローカルグルメ「越前そば」の旨さの秘密とは? 蕎麦の名店と蕎麦粉工場を取材して確かめた

 蕎麦といえば、キリッと辛めのつゆに白っぽい蕎麦をちょっぴり浸し、つるつるっと一気にすすり上げて“のどごし”を楽しむ江戸前蕎麦が有名ですが、一方で、日本には真逆の蕎麦も多数あるのはご存知の通り。つまり、噛めば噛むほど味がにじみ出るタイプのお蕎麦ですね。


東京の蕎麦はのどごし抜群(画像はイメージ)

 筆者はそのどちらのタイプも好きですが、以前、全国の蕎麦を食べ歩く蕎麦マニアが「噛んで美味しい蕎麦なら、福井のが一番好き」と話していました。福井といえば “越前そば”が有名ですが、実は現地では福井の各エリアだけでとれる蕎麦=“在来品種”の蕎麦粉を使うのが常識で、それがなんとも複雑で味わい深いんだそうです。

 実際、日本蕎麦保存会が実施している「おいしいそば産地大賞」では、2020年から2年連続でランキング1位を獲得するなど、福井の蕎麦の実力はそば好きの間で高く評価されています。


在来品種がすくすく育つ福井市内に点在する蕎麦畑

 ただ、筆者は生まれてから一度も福井県に行ったことがなく、福井の蕎麦を食べた経験もなし。いつか現地で食べてみたいと常々思っていたところ、とうとうこの年末、福井を旅するチャンスが到来! 現地で本場の越前そばを味わってきました。しかも福井在住の食いしん坊の案内で、老舗の製粉工場にも潜入してきたので、越前そばの魅力とその裏側をレポートしたいと思います。

まずは地元の人気そば屋で越前そばを食べてみる


福井市にある人気蕎麦屋『その字』。住:福井県福井市高木中央2-2612/TEL:0776-52-1106

 早朝に東京を発って、福井に着いたのはお昼前。到着するやいなや、福井在住の知人に、福井市北部にある蕎麦屋『その字』に案内されました。福井産の在来品種の粉を使ったこだわりの蕎麦が味わえる地元の人気店です。

 オーダーしたのはもちろん越前そば。蕎麦は太めで、がっしりしたタイプ。まずは箸で数本つまんでそのままいただくと…蕎麦の香りが口から鼻に抜けて、実に旨し! 越前そばの場合、玄そばを挽いて使うため、特に香りが強いんだそう。実際、東京の蕎麦屋の主人の言葉通り、蕎麦自体の味わいに奥行きがあって複雑です。


蕎麦はもちろん、小エビと貝柱のかきあげも美味

 食感も、東京の老舗で出すようなつるつるっとした蕎麦とはまるで違います。想像以上に噛みごたえがあり、噛めば噛むほど味わい深いお蕎麦です。

 つゆに蕎麦を浸してすすっていたら、「違う違う、蕎麦の上に大根おろし、ネギ、鰹節をのせて、上から蕎麦つゆをドバッとかけて食べるんですよ」と知人から教育的指導が入りました。なんとも豪快ですね。言われたとおりにドバドバとつゆを蕎麦にかけます。


蕎麦の上に大根おろし・鰹節・ネギをのっけてそばつゆをぶっかける。これが越前おろしそばの流儀

 いざご当地流の食べ方を実践してみたところ…びっくりするほど美味しさが増しました! 蕎麦の旨みに大根おろしのスッキリとした辛味と鰹節・ネギの香味が加わって、旨みが波のように押し寄せてきます。

 夢中ですすって完食。江戸前蕎麦と違ってボリュームも噛む回数も多いせいか、けっこう満腹感もあります。いやー、美味しかった! 濃くて滋味深い蕎麦湯をズズズとすすりつつ、初めて食べた越前そばの味わいの感動にしばし浸ります。しかしこれで終わりじゃありません。その足で製粉工場に行くことになりました。

謎に包まれた蕎麦の製粉工場に潜入


福井の蕎麦に石うすは欠かせない働き手

 我々が向かったのは、福井市にある明治10年創業の製粉会社・株式会社カガセイフンの製粉工場。こちらの蕎麦粉は、全国各地のミシュラン星付きレストランにも愛される超実力派。6代目社長である加賀健太郎さんが工場を案内してくれました。

 ちなみに、工場と聞くとコンピュータで制御された精密機器がオートメーション的にグワングワン動いているようなイメージがあるかもしれませんが、行ってみたら全然違いました。もちろん機械も活躍してるんですが、それ以上に働いているのはズバリ「石うす」。そう、よく昔ばなしなどに出てくるあの石うすです。


37台の石うすが稼働するカガセイフンの工場

 工場のラインに、大量の石うすが当然のような顔をしてずらりと並んでいる様子は、妙にアナログというかスチームパンク的というか、思わず目をこすりたくなります。一体どういうことなんでしょう?

「蕎麦の製粉会社は全国に約1000社あると言われていますが、95%が効率的な機械式の“電動ロール挽き”を採用しています。しかしうちを含め、福井県では石うす挽きが基本なんです」(加賀社長・以下同)


カガセイフンの6代目社長・加賀健太郎さん

「まず福井県の蕎麦の独自性からお話しすると、蕎麦という作物は品種改良を重ねて強くしたり、生産効率を上げていくのが普通ですが、福井では伝統的に県全域のエリアごとの“地の蕎麦=在来種”が育てられているんです。在来種は個体差が大きく育てるのが難しいんですが、味が濃く、ナッツのような香ばしさもあります」

 蕎麦はもともと天候の変化に弱い作物で、品種改良して強くするのが一般的。しかしその分、味や香りも弱くなるんだそう。実際、かつて福井県でも品種改良を試みた時期があったものの、その貧弱な味と香りに生産者と蕎麦屋が納得せず、普及には至らなかったとか。福井県民の強烈な“そば愛”を感じますね。


左が品種改良を行った蕎麦。右が福井の在来種。在来種のほうが大きさも色合いも一定ではなくバラツキがあるが、風味が強く味も濃い

 在来種が美味しいのはわかりました。でも令和のこの時代に、なぜわざわざ石うすで挽くんでしょうか?

「現在、うちでは37台の石うすが稼働しています。先述の機械式のロール製粉に比べ、生産量は約1/100。効率はめちゃくちゃ悪いです。でも、もちろんメリットはあって、高速で挽く機械式だと蕎麦に熱が伝わって風味が落ちますが、石うすならそばの繊維を壊さないので、その心配もありません」

 しかも、石うすは1台ずつ個性があると加賀さんは言います。

「石うすの大きさや回転速度、目立て(面に刻まれた溝)の具合、さらには気温や湿度によっても状態が変わります。だからその日、どの石うすを使って挽くか見極めます。在来種の個性に合った石うすを選び、挽き方も微妙に変えていく。手間はかかりますが、これが在来種の良さを最大限に引き出す方法なんです」


石うすのサイズや回転速度によって、できる蕎麦粉の個性も変わってくる

 ちなみに、これらの石うすは、すべて福井県の美山地区の山でとれる、通称・小和清水石(こわしょうずいし)という石材で作られているとのこと。粒度が均一で細かく、重量もあるため、玄そばを挽くのに適した石なのだそう。

「採石したばかりの石材は水分を含んでおり、使っているうちに歪みが出てくるので、そのまま石うすに加工することはできません。なので、まず20〜30年寝かせて石材の水分を出し切ってから石うすに整形していきます。だからうちには200年ものの石うすもあります。そして石うすの溝を彫り直す“目立て”も、定期的に私が行っています」

 加賀さんはさらりと言ってのけますが、石を寝かせるだけで20〜30年って…効率重視の現代のスピードからすると、想像を絶する手間と時間のかけ方をしているのがわかると思います。工場に並ぶ37台の石うすたちは、ある意味、とんでもないベテラン職人とも言えるわけです。

 ちなみに、カガセイフンさんでは、蕎麦用だけでなく、ガレットやお菓子用、料理用の粉も作っています。オンラインショップ(https://soba-sueyoshi.co.jp/)では、業務用はもちろん、さまざまな種類の蕎麦粉を500g〜売っているので、個人で料理に使ったり、そば打ちに挑戦したい人も利用できます。もちろん、乾麺も販売されているので、年越しそばにも◎。

まとめ


200年前から伝わる石うすで紡がれる蕎麦粉(食楽web)

 そんなわけで、福井の蕎麦は、その美味しさは言うに及ばず、蕎麦の栽培から製粉までのこだわり具合も尋常ではありませんでした。興味のある人は、ぜひ年越しそばにお取り寄せしてみてください。びっくりするほど美味しいですよ。

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