清水海上技術短期大学校の学生がタンカー見学 - リアルな職場の大変さと魅力を学ぶ
2024年12月25日(水)15時13分 マイナビニュース
海運会社462社が所属する全国内航タンカー海運組合は11月22日、就職後のミスマッチ防止につなげることなどを目的に、船員の養成学校の学生を対象とする内航タンカ−の見学会を開催した。
当日は清水海上技術短期大学校の1年生120名が、清水港・日の出埠頭の岸壁に係留された2隻の内航タンカーを見学。船員の職場や生活空間となる船内を巡り、乗組員から説明を受けた。
○多種類の荷物に対応したケミカルタンカーに乗船
登録船862隻を有する「全国内航タンカ−海運組合」のほか、昭和日タン、上野トランステック、上野ロジケム、大光船舶といった船主会社と運航会社が主催した今回の見学会。
内航タンカ−の船内外を見学し、船員という職業に対する理解促進や就職後のミスマッチ防止を図ることを目的に企画され、清水海上技術短期大学校の学生や教職員など約150名が参加した。
内航タンカ−は国内港間を航行するタンカ−のこと。石油、ケミカル、ガス、薬品原料などの製品を輸送する内航タンカ−は、国内で約1000隻が就航している。この日、9班に分かれて学生たちが見学したのは5,000kl型白油タンカー船「昭久丸」(昭和日タン所有・運航)と、1,000kt型ケミカル船「のじぎく」(大光船舶所有、上野ロジケム運航)の2隻だ。
電気推進方式の「のじぎく」は、省エネで高効率の二重反転プロペラによるスムーズな駆動が可能なタンカー。総トン数499トンと、一般的なタンカーのイメージからすると小ぶりにも見えるが、ケミカル船のサイズとしては主流の大きさだという。
同船は2009年1月竣工した1000トン積みの船で、各タンク独立のディープウェルポンプ(カーゴタンクの底部に沈められて、積荷を陸上施設に移動させるためのポンプ)を搭載しており、多種類の貨物に対応できる。
航海計器類には電子チャート(海図)やAIS(自動船舶識別装置)といった標準的な機器を備えているほか、先進船舶技術を導入。夜間の暗闇でも赤外線によって周囲の状況を把握できる状況認識カメラなどを航海補助機器として搭載している。
化学薬品をばら積みで運ぶケミカル船が、「白船」(白油と呼ばれるガソリン、灯油、軽油、ジェット燃料油などを運ぶタンカー)や「黒船」(黒油と呼ばれる重油などを運ぶタンカー)と、大きく異なるのが荷役作業だ。
同船が過去に扱ってきた液体化学薬品などの品物は120〜130種類に上るという。当然、混ざると危険な荷物も多いため、カーゴタンクの中は都度クリーニングを行う必要があり、積載する荷物の性質などによって温度管理や掃除の方法なども変わるそうだ。
○荷役作業を担う「昭久丸」のCOCを見学
ケミカル船のタンク内のクリーニングでは、スプリンクラーのような装置を使って水で洗い流した後、船員が毒ガスの検知器など使いながらタンクの内部に入って点検する作業もあるという。これはケミカルタンカー特有の作業で、同種の荷物を運ぶ専用船と呼ばれるタンカーでは、船員がタンクの中に入ることは基本的にあまりないそうだ。
「のじぎく」の乗組定員は6名(+予備室1)で、京浜〜関門の航路を月8〜12航海している。荷物の性質や季節によって扱い方などが変わるといった苦労も多い分、ケミカル船ならではのやり甲斐やおもしろみも大きいという。
今回、同行させてもらった班は同船を見学した後、ガソリンや軽油、灯油といった油種を積む白油タンカー船の「昭久丸」へ。
まずは最上部甲板である「コンパスデッキ」からの眺望を楽しみ、最新式のCOC(Cargo Oil Control room)を見学した。
タンカーは石油・液化ガス等の荷役の際、船に備え付けられたポンプ(カーゴポンプ)を用いている。COCはこのカーゴポンプの起動/停止やバルブの開閉といった操作を遠隔で実行できる荷役全般のコントロール制御室だ。
実際の荷役作業では事故を防ぐため必ずデッキ上の現場にも人員を配置して、トランシーバーで連絡を取り合い、バルブの作動状況などを確認しながら荷役を行っているという。制御室のモニターを見てもラインが複雑すぎて初見ではよくわからないが、学生たちはバルブの開閉状況の見方や操作方法などを教わり、実際にバルブ開閉の操作を体験していた。
通常、荷役の開始から終了までの7時間ほど。流速(時間当たりの移送量)は各製油所などによっても変わり、同船は5000キロリットル積みのため、1時間に500キロリットル流れる場合だと荷役時間は約10時間、1000キロリットルの場合だと約5時間という計算になる。また、油種が2種以上の場合は同時荷役も可能らしい。
その後は船橋、船員の居室、エンジンルームなどを巡り、最後は船首デッキへ移動して、ファイヤーワイヤーと呼ばれる非常用曳航ワイヤーロープなどの説明を受けた。
ファイヤーワイヤーは、引火性液体類などを積む輸送船で火災等の非常事態が接岸中に発生した場合、タグボート等を使用して岸壁から引き出すためのワイヤーロープ。船首と船尾のそれぞれに備えつけられており、危険物を積載する内航タンカーなどでは即時使用可能な状態に準備しておくよう、指導がなされているという。
船員の仕事で最も危険とされる係船作業では、係船索(船舶を岸壁や海底に繋ぎ止めるために使用されるロープ)の付近など危険な場所に立ち入らないよう、とくに新人船員は口酸っぱく注意されることなども説明。
終始、学生たちは実際のタンカーでの仕事内容や注意点などに真剣に耳を傾けていた。
伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら