おもちの専門店も多数存在! 福井県の餅の消費量が全国屈指なワケ
2019年12月25日(水)10時50分 食楽web
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総務省の家計調査で福井県が長年1位にランクインしているのが、「油揚げ」と「揚げ物」です。これらはテレビ番組などでも度々取り上げられているので、聞いたことがある人も多いはず。しかし、福井県は「お餅」の消費量も上位にランクインしているのをご存知でしょうか?
今回は福井県の食文化を発信するべく都内でメディア向けに開催されている「ふくいブランド講座」に参加し、福井県の餅文化について学んできました。福井で餅が愛される理由はどこにあるのでしょうか?
福井の冬を代表する餅といえば「とぼ餅」
かまぼこのような半円形をしており、焼いてそのまま食べる。ほんのり塩気があっておやつ感覚で食べたくなる
福井には餅の専門店が多数残っています。そう、あくまでも「専門店」であって、「和菓子屋」のことではないんです。もともとは蝋燭屋だったお店が餅屋に鞍替えしたなんて例もあるそうです。
今回の講座で最初にいただいたのが「とぼ餅」です。これは福井の冬とは切っても切り離せない餅のひとつで、県内の餅屋には必ず並ぶといいます。「とぼ」というのは穀物の計量に使う道具のことで、形がとぼに似ていることからこう呼ばれるようになったそうです。大豆やよもぎ、青のり、桜えびなどの具材を混ぜた「色餅」やうるち米を混ぜた「こごめ餅」などがあるそうです。
食べやすい厚みにカットして販売されている商品が多い
とぼ餅は焼くと外はパリッと、なかはふっくら柔らかいのが特徴です。見た目は「かきもち」に似ていますよね。かきもちは冬場の寒風にさらして乾燥させたものですが、とぼ餅は干さずに半生のものを焼いて食べます。これだけでも福井の餅文化の奥深さに感心してしまいました。
福井の農村部の冬の風物詩でもあるかきもち作り。しっかり干すので冬場の保存食として重宝された。油で揚げる「揚げかきもち」が人気だそう
福井の餅屋にはたいていあべかわ餅があり、注文を受けてから黒蜜ときなこをまぶしてくれる
「土用」と聞いて思い浮かべるのは、多くの人が「うなぎ」だと思います。しかし、福井には「土用餅」と呼ばれる餅があります。これは、田植えが無事に終わったことをねぎらう「五月上げ」という行事で振る舞われるもので、「あべかわ餅」を出すのが一般的。いまでは季節に関係なく、通年販売する店が増えています。
あべかわ餅はそもそも静岡市の名物で、つきたての餅にきなこをまぶし、その上から白砂糖をかけます。しかし、福井のあべかわ餅はしろ砂糖ではなく黒蜜をかけるスタイル。ミネラル豊富な黒砂糖と栄養科の高いきなこ、効率よくエネルギーを補給できる餅を組み合わせた最強フードともいえそうです。
もち米、小豆、塩、砂糖のみで仕上げられたおはぎの賞味期限は当日中だが、それでも大きな容器に入ったものがよく売れるとのこと
おやつといえば、福井ではおはぎもよく食べられています。最近では県内の女性企業組合が手作りするおはぎが大人気で、1日平均1500個、お彼岸のピーク時は1日6000個作ることもあるほどの大ヒット商品に。おはぎといえばお彼岸や地域の行事、田植えのあとに欠かせないおやつでしたが、あべかわ餅と同様、通年を通して食べられるようになりました。
雑煮は煮込んだ丸餅を味噌仕立てにしたシンプルなスタイル
今回は煮崩れしづらい福井の伝統野菜「福井青かぶ」が入っていた
地域性の出やすい餅料理といえば「雑煮」です。福井では煮込んだ丸餅を味噌仕立てでいただくのが一般的。ここに株や白菜を入れる家庭もありますが、基本的には具は餅のみ。具がない代わりに、食べる直前に花がつおをたっぷりかけていただきます。
福井青かぶは12月に一度だけ出荷する貴重な野菜だそう。千枚漬けにも使われる
ちなみに、福井の嶺南エリアでは鰹節の代わりに黒砂糖をかけるそうです。なかなか自分が暮らしたことのある地域以外の雑煮を食べる機会はないですが、これだけシンプルな雑煮は全国を見ても珍しいほうだと思います。この雑煮が広まった理由は諸説あり、質素倹約を重んじた武家の習慣の名残という説などがあるそうです。
人と人を結ぶ役割を果たす餅
白い丸餅はしばしば仏壇にお供えされる。「米=神聖なもの」という意識が根付いている
こうして福井の数々の餅を見てみると、季節や行事にまつわるものが多いですよね。また、お祝い事でも餅は欠かせない存在になっています。たとえば、子どもが初めての節句を迎えるときに、親戚や近所に餅を配ったり、88歳の米寿のお祝いで「米寿餅」を餅屋にオーダーしたり、はたまた厄払いや祭りでも餅を用意するそうです。信心深い地域性を持つ福井において、餅は冠婚葬祭にも深く根付き、とくに喜ばしいことを知らせる品として珍重されています。
だからこそ、福井の餅屋は本物にこだわっており、朝ついた餅をその日のうちに売り切る「朝生」を貫いているのだとか。一度本物の餅を味わうために福井を訪れてみたくなりますね。
●著者プロフィール
今西絢美
編集プロダクション「ゴーズ」所属。デジタル製品やアプリなどIT関係の記事を執筆するかたわら、“おいしいものナビゲーター”として食にまつわる記事も執筆中。旅先でその土地ならではのローカルフードを探すのが好きで、フードツーリズムマイスターの資格も持つ。