NHK最高裁判決、テレビ所有者間の「公平性」重視…消費者保護的に妥当と言える?

12月29日(金)8時58分 弁護士ドットコム

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NHK受信料をめぐる12月6日の最高裁大法廷判決。示された判断は、相手が受信料契約を拒んでいる場合、判決の確定をもって、契約義務が強制され、(1)テレビなどの設置時期にさかのぼって支払い義務が発生する、(2)消滅時効は判決確定から進行するーーというものだ。


判決が確定したことで、50年前にテレビを設置し、一度も受信料を払ったことがない人は、50年分の支払いを請求される可能性が出てきた。NHKはそうした徴収の仕方を否定しており、あくまで理論的な話ではあるが、一度でも契約していれば、滞納しても直近5年分の支払いで済むことに比べると、バランスを欠いているようにも思える。


最高裁はどうしてこのような判断を下したのだろうか。また、消費者保護の観点から、どのように捉えられるのだろうか。金田万作弁護士に判決を読み解いてもらった。


●「消費者保護」より、受信料負担の「公平性」を重視?

「受信契約をした人と拒絶した人との公平さ(拒絶した人が有利にならないよう)を意識するあまり、結論ありきで出されたような判決と感じました」と金田弁護士は感想を語る。


「結論はともかくとしても、憲法上の権利である表現の自由の派生原理としての情報摂取の自由や私法の大原則である契約締結の自由について配慮が必要で、もっと慎重な検討をした上で説得的な理由付けがあると良かったです。


特にNHKについて自らの思想信条から見たくないしお金も払いたくないという人が、他の民放の放送をテレビで受信できないという不利益については、単なる経済的負担の話ではないというところも考えて欲しかったです」


消費者保護の観点から考えると、どうだろうか。


「消費者保護に欠けるという印象です。総務大臣の認可を受けているとはいえ、規約(日本放送協会放送受信規約)を一方的に契約の条項としているのに、強制的に契約をさせられる。その結果、規約に従って、受信機の設置の月にさかのぼって受信料の支払い義務を発生させられ、しかも現行民法であれば、通常の定期給付債権として5年で時効になるのに、判決確定するまで時効が進行することがないというのは、あまりにもNHKに有利でしょう。


人によっては、数十年分の受信料の支払い義務を、消滅時効も主張できずに、負うことになります。


今回の最高裁判決の結果、受信契約を拒む人に対しては、受信設備の設置の立証が一番の重要なポイントになるので、NHKの徴収員は、契約の締結を拒まれたら、なんとかして受信設備の設置の有無だけでも確認しようとするかもしれません。それが見つかれば、NHKは裁判を提起するだけということになります」


合憲性に着目する報道も多かったが…。


「多数意見の合憲の理由は、端的にいえば、NHKの受信料制度は、放送法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内として認め、立法裁量の範囲内としたことです。


受信契約の強制を合憲としつつも、契約成立を判決確定時としたことで、NHKが訴訟を提起して、かつ受信設備の存在の立証(いつから設置したかも)までして、判決を確定させないと契約が成立せず、受信料の取り立てをできないということでNHKに牽制しつつも、受信契約を素直にした人と拒む人との間で不均衡・不公平感がないように配慮したのではないでしょうか」


●契約していれば5年なのに…消滅時効の判断「バランス欠く」

改めて、今回の最高裁判決を振り返ってもらおう。


「支払い義務がテレビなどの設置までさかのぼるというのは、規約(日本放送協会放送受信規約)5条1項に従ったものです。


この条項が必要かつ合理的で放送法の目的に沿うとしたのは、受信設備設置者間の公平さを重視したためと思われます。受信契約の内容として、上記条項を組入れ、受信設備設置の時から受信料を支払うという契約が判決確定によりNHKと被告で締結されたことになります。


消滅時効については、受信契約が成立する(=拒否している人の場合、判決確定時)までは、NHKが受信料債権を行使できないため、消滅時効は権利を行使することができる時から進行するとの民法166条1項に従って、最高裁判決は結論を導いています。


しかし、契約を締結した人は時効消滅する余地があり、そうでない人はその余地がないというのは、受信設備設置者間の不均衡があると言えます。


そこは受信設備設置の存在の把握の困難さや放送法64条1項の受信契約義務で理由付けをしていますが、不法行為でさえ加害者がわからなくても20年で除斥期間により損害賠償請求の権利が消滅します。バランスを考えれば、NHKの受信料債権をより保護すべき理由とはならないと考えます」


●裁判官の反対意見や補足意見をどう見るか

判決では、反対意見が一つついた。内容をどう捉えるのか。


「木内道祥裁判官の反対意見は納得できる理由付けが多かったです。特に、契約内容についての部分です。契約条項を定めるNHKの規約において、契約単位が世帯ごとであるなど、契約内容(契約主体、契約の種別等)の特定を行うことはできないというのはもっともです。


例えば、シェアハウスなど世帯の異なる人同士で 、共同のテレビを一つ設置した場合など、誰との間で受信契約が成立するかといった疑問が残ります。契約内容を特定できないので、判決で契約を強制できない(しても意味がない)というわけです。この点についての鬼丸かおる裁判官の補足意見は同じ趣旨で、反対意見を書いても良かったのではないかと思います。


また、木内裁判官の反対意見では、受信料債権は受信契約によって生じるので、支払い義務については判決の確定時からというのもわかりやすく、その場合には消滅時効が判決の確定時からというのも当然のことになります。


ただし、不法行為による損害賠償や不当利得返還で、受信料(相当の利益)を得られるのではないかという部分については賛成できません。契約を強制できないのに、別の手段で料金を取るとすれば、実質的には契約したのと同じ効果となるからです。


この点について、小池裕裁判官と菅野博之裁判官が補足意見で述べている、設置者の利得やNHKの損失は発生しないのではないかという疑問や、不法行為構成が公共放送の目的や性質にそぐわないという指摘は的を射ています。もっとも、それらの疑問や指摘は、まさしく受信契約を強制するべきかという論点においても、妥当するところです。


受信料を支払わなくても設置者に利得はなく、NHKにも損失はなく、強制することが望ましくない公共放送の受信契約について、情報摂取の自由や契約締結の自由、さらには思想・良心の自由まで侵す危険があるのだから、本来なら受信契約が強制されるべきではないという結論になってもおかしくはなかったと思います。


やはり、今回の判決では、素直にNHKと契約した人が不利にならないように、公平さが重視されているのだと思います」


(弁護士ドットコムニュース)


【取材協力弁護士】
金田 万作(かなだ・まんさく)弁護士
第二東京弁護士会消費者問題対策委員会(電子情報部会・金融部会)に所属。複数の消費者問題に関する弁護団・研究会に参加。ベネッセの情報漏えい事件では自ら原告となり訴訟提起するとともに弁護団も結成している。
事務所名:笠井・金田法律事務所
事務所URL:http://kasai-law.com

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