ついに完結!『銀牙 THE LAST WARS』

12月29日(土)6時0分 JBpress

 師走を迎え、寂しい別れが一つありました。

 先日、週刊漫画ゴラクで連載されていた『銀牙〜THE LAST WARS〜』高橋よしひろ)が完結したのです(コミックスは「20」が最新刊)。

 第一弾の『銀牙−流れ星 銀−』の連載が始まったのは、私が小学生だったころ。セリフを人間の言葉に置き換え、主人公の銀をはじめとする個性的な犬たちの友情や成長、冒険を描くという型破りなこのマンガに、少年心はすっかり魅了されました。

 その後、いちど終了したかに見えたこのシリーズは(長い休憩時間を挟みつつ)、銀の息子であるウィードを主人公に据えた「銀牙伝説WEED」として連載が再開されました。

 もちろん、社会人になっていた私は狂喜乱舞です。一週間のなかで楽しみが、週刊少年ジャンプ発売日の月曜日から、週刊漫画ゴラク発売日の金曜日に変わったのは、言うまでもありません。

 そこから『銀牙伝説WEEDオリオン』を経て、今作の『銀牙〜THE LAST WARS〜』へと続いたこのシリーズ。私の中では生活のリズムの一部になるくらい、思い入れが強い作品です。

 ところで15歳も生きれば長寿と呼ばれている犬の世界。それに対して今作にも登場している熊犬・銀の年齢がいったい何歳なのかにはあえて触れませんが(笑)。

 そんな彼らは、強烈なインパクトを与えた人食い熊・赤カブトや、仔犬や子猿を餌にする大猿、ロシア軍の軍用犬部隊など、さまざまな敵と戦ってきました。


真のリーダーとは何か

 そして今作、彼らの前に立ちふさがったのは、赤カブトの血を受け継ぐモンスーン。奥羽軍の戦士たちは、その異様に発達した左腕の爪牙の前に次々に倒れていきます。それでも、銀の孫であるオリオンをリーダーに、必死に反撃を試みますが・・・。

 巨大熊に奥羽軍が立ち向かう、という構図は基本的には、第一作と同じ。しかし、全国に散らばる仲間たちを集め、一致団結して赤カブトに戦いを挑むという、冒険要素が強い前作とは、一味違ったストーリー展開になっているのが大きなミソです。

 掲載誌が少年誌から青年誌に移行しているのが影響しているのかもしれません。アクション描写よりも、奥羽軍内の人間(犬間?)ドラマにスポットを当て、さらにオリオンの姿を通し真のリーダーとは何かにまで触れています。お気づきの方も多いと思いますが、全体的にビジネス書的要素を強くしているのです。

 また、オリオンの兄のシリウスをもうひとりの主人公に据えているのも大きな見どころのひとつ。復讐の連鎖は何も生み出さないとして、モンスーンとの共存共栄を訴えるシリウス。熊語を必死に覚え、モンスーンとの間に友情を育もうとするその姿は、あえて正義とは何か、という大きな命題を読者に提示します。

 いよいよ物語のラスト、悲しみが残ることもあり勧善懲悪を期待していると少し物足りなさを感じてしまうかもしれません。ただしその余白の部分で、いろいろと考えさせられてしまうことでしょう。

 これで完結と言わずに、ぜひ続編も読みたいものです。


AIとどう共存するか?

 次にご紹介するのは、共存は共存でも、AIとの共存の可能性をシミュレーションした一冊です。

 恥ずかしながら白状すると、私は「AI」という単語に拒否反応を示していました。書店の売場に立っていた数年前ならばともかく、現在のように外商として動き回っていると、新刊や話題書のチェックが疎かになりがちです。

 その繰り返しのなかで、本来であれば知識として仕入れておかなければならない「AI」や「ビットコイン」に関する書籍にどうしても手が伸びず、勉強不足は否めませんでした。

 とはいえ、外商とはいえ、仮にも書店員です。やはり有事の際に備えて、簡単な説明くらいできるようにならなければいけません。

 そこで手にとってみたのが、『マルチナ、永遠のAI。AIと仮想通貨時代をどう生きるか』(大村あつし)。

 二度目の東京オリンピックが終わった数年後が舞台の近未来小説である本書。主人公の岩科正真は、静岡の実家が経営している定食屋の再建を任せられ、大手IT企業のエッテル・マークソンに勤務している幼馴染の五條堀裕樹に手助けを求めます。

 AIの天才開発者として名を馳せている五條堀は、正真に自身が開発した美人AI「マルチナ」のコンサルティングを受けてみては、と提案します。

 初めはAIに拒否反応を示していた正真でしたが、同じく幼馴染みの沙羅が協力してくれる中で、次第にマルチナに心を開いていきます。

 そんなマルチナのなかでも、AIの範疇を越えた感情らしきものが芽生えつつあるなか、巨大企業を取り巻く陰謀の渦に巻き込まれていく正真たち。果たして、彼らはマルチナのことを守り切れるでしょうか・・・。

 書店の店頭には、数多くのビジネス小説が並んでいますが、その多くはビジネスのキーワードの説明に四苦八苦しており、物語としては完成度が高いものに巡り合うことは少ないのが現状です。

 その点、本書は「AI」や「ビットコイン」といったこれからのビジネスのキーワードをていねいに説明しつつも、友情や裏切り、三角関係といったストーリーを展開するうえで欠かせないエッセンスを随所に織り込み、読み応えのある物語に仕上げています。

 私と同様に、「AI」というキーワードが遠く彼方に感じている読者の方は、今すぐ手にとってみてはいかがでしょうか。入門書には最適な一冊であり、より詳細な書籍へ手を伸ばすきっかけにしてくれることでしょう。

 この『マルチナ』を読み終えたあとは、その熱量のまま『宴の前』(堂場瞬一)を読んでみて下さい。

 とある地方の政令都市を舞台に、現職が引退表明した後からスタートし、その後の県知事選挙の模様が描かれています。絡み合う政治家の人間関係、忖度が蔓延する政治現場、続発するスキャンダル・・・。「地方知事選」というキーワードを読み解くには、ぴったりの物語であり、近頃の某県の知事選を巡る騒動の舞台裏にも何となく通じるものがあります。

 また、フィクションとして造形された登場人物たちだと頭では理解しつつも、その生々しい姿を鮮明に見せられて、政治家に失望してしまうのは私だけではないでしょう。

 せめて「マルチナ」で取り上げられた「AI政治家」の誕生に期待しましょうか。その前に、「AI書店員」が誕生して職が奪われる危険性はありますが。

筆者:栗澤 順一(さわや書店)

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