「ごめんなさい、間違いでした」がなぜ言えない…訂正にも「言い訳」を挟むNHKと週刊文春の「謝れない病」の根深さ
2025年2月13日(木)17時15分 プレジデント社
写真=iStock.com/Bjoern Wylezich
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bjoern Wylezich
■報道内容を相次いで訂正した文春、NHK
元タレントの中居正広さんと女性とのトラブルにフジテレビの幹部社員が関与していたとする「週刊文春・電子版」の記事に関し、週刊文春は1月28日に記事の一部を訂正した。
NHKは2月10日の「ニュース7」で、「2002年に故ジャニー喜多川氏からNHK放送センター内のトイレで男性が性被害に遭った」という過去報道について、誤りがあったことを訂正した。
大手メディアの過去報道の訂正が続いて起こったのだが、両者ともに報道したメディア側が強く批判されるに至っている。
誤報が起きたこと自体が問題であることはもちろんなのだが、メディアの訂正と謝罪のやり方にも問題があったことは間違いない。
読者・視聴者に支持されるメディアになるためにも、訂正と謝罪の仕方を見直すことが急務であると筆者は考えている。
■文春もNHKもできなかった“謝罪の基本”
筆者は、広告会社に19年間勤務してきたなかで、広告表現に問題があって訂正を行ったり、商品回収(リコール)広告、あるいは不祥事が起きた際のお詫び広告・謝罪広告を出稿したり――といった、トラブル対応にも関わったことが何度かあった。
広告業界に限らず、間違いを犯した際には、下記の3点が重要になる。
1.誰に謝るのか(Who) ⇒ 損失を与えた人や組織に対して謝罪する
2.何を謝るのか(What) ⇒ 間違ったことに対して、誠実に謝罪する(ただし、間違っていないことまで謝る必要はない)
3.どうやって謝るのか(How) ⇒ 訂正や謝罪は、影響をおよぼしたのと同範囲かそれ以上の範囲で行う
文藝春秋社もNHKも、この3点ができていなかったように思う。この2社に限らず、メディアが誤報の訂正を行う際には、概してこれができていない。
単なる慣行なのか、「メディアは特別だ」という特権意識があるのかはわからないが、「メディアの常識は、世間の非常識」となってしまっているように思える。
■プライドが邪魔して謝るべき人に謝罪できていない
まず、「誰に謝るのか?」について見ていきたい。
文春の「誤報」によって、最も損害を受けたのは、フジテレビ、および同社幹部のA氏である。最初の報道(ただし、『週刊文春』ではなく『女性セブン』)では、A氏は中居氏と女性との間でトラブルが起きた当日の会合を設定したが、A氏は当日現れなかったとしている。文春の報道では、途中で文脈が変わっており、最終的には、トラブルがあった当日は、中居氏が女性を誘ったということになっている。
原則的にいえば、文春はフジテレビとA氏に対して最優先で謝罪する必要がある。
NHKの故ジャニー喜多川氏の性加害に関しても同様だ。ジャニー喜多川氏は亡くなっているので、謝罪できないのはやむを得ない。ただし、SMILE-UP.社(旧ジャニーズ事務所)に対しては、謝罪はできるし、謝罪すべきである。SMILE-UP.社は、風評被害を受けたのみならず、証言者に対して訴訟を起こさざるを得なくなっているのだ。
文春は読者に対して、NHKは視聴者に対して訂正と謝罪を行ってはいるのだが、最も損害を与えた対象には謝罪はしていない。
「問題を起こした人物や企業に対して、謝罪する必要はない」という主張は成り立たない。大きな問題があったことは事実でも、やってもいないことを「お前がやった」と断罪されていいわけはない。このことは、メディア自身がよく分かっているはずだ。
自分たちが攻撃してきた相手に対して謝罪することは、プライドが許さない屈辱的な行為だと思うかもしれないが、過ちが許される上で、必要な過程である。
写真=iStock.com/mizoula
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■訂正文に「余計な一言」が入り込んでいる
文春とNHKの訂正と謝罪は、一見すると形式は整っているようにも見えるが、肝心の謝罪の部分で余計なことを言ってしまっている。
文春に関しては、訂正文の中に「『A氏がセッティングしている会の“延長”と認識していた』ということがわかりました。」という一文が入っている。
「A氏に誘われた」という点は訂正を加えつつ、「A氏は無関係ではない」という主張は死守しようということだろう。ただし、読み手からすれば、客観的事実が覆ったにもかかわらず、主観的な記述で辻褄を合わせようとしているように読めてしまう。
NHKも同様である。被害を訴えている男性の代理人によると、男性が被害を受けたのは2002年ではなく、2001年だった可能性があるという。NHK側も「被害があったことの信憑性は変わらないと考えている」とコメントしている。
このように主張したければ、「2001年に被害にあった」ということを、しっかり検証して報道しなければならないが、NHKにはそうしようという意図が見えないのが正直なところだ。もちろん、当事者の男性の意向もあろうが、ちゃんと検証も報道もできなければ、「信憑性は変わらない」という部分に疑問符が付いてしまう。
■その余計な一言が致命傷になることもある
訂正と謝罪をするのであれば、単純にそれだけを行えば良い。それら以外の「余計な一言」を入れることで、「居直っている」「自己正当化をしている」と思われて、かえって逆効果になってしまう。
中居さんが1月9日に公式サイトで発表した「お詫び」の文章に、「なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」という一文が含まれていたことで、大炎上してしまった。その後、中居さんのトラブルがフジテレビに飛び火して大問題に発展し、中居さんは「お詫び」の公表からわずか2週間後に引退を表明する結果となった。
この一文の代わりに、「しばらく芸能活動を休止し、反省と自分を見つめ直すための時間を取ります」といった文章を加えていれば、少なくとも中居さんは、第三者委員会の調査結果が出るまでは引退する必要はなかったはずだ。
謝罪文で余計な一言を入れることが、致命傷になってしまうこともあることを忘れてはならない。
■メディアに求められる「誤解を訂正する」役割
中居さんとフジテレビに関する報道について、友人・知人との間で話題になるなかで、多くの人が、「フジテレビの社員が設定した会で、中居さんが女性に性加害を行い、中居さんは9000万円の解決金を支払って示談した」といまなお思い込んでいる。
多くの読者、視聴者は当初の週刊誌報道から情報が更新されず、認識が固定してしまっている。
「A氏が設定した」というのは、少なくともトラブルの当日に関しては誤りであると訂正されているが、最初の女性セブンの記事をはじめとして、ネット上では訂正前の情報が依然として残り続けている。
「9000万円の解決金」については、最初の報道が出た少し後に、女性本人が「9000万円ももらっていない」と証言する報道が出ている。にもかかわらず、依然として多くの人は「9000万円」から更新されておらず、「9000万円も支払うからには、中居さんはよほど女性に対してひどいことをしたのだろう」と思っている人も少なくない。しかしながら、中居さんと女性とのトラブルの内容については、依然として曖昧なままだというのが、実際のところだ。
NHKに関しては、訂正報道が出て間もないので、世の中の認識がどうなっているのかはわからないが、訂正の仕方を考えると、「NHK内で性加害はあった」と認識している人が大半ではないかと思う。
「間違いは訂正するが、誤解や誤認が広がっていることに対して責任は取らない」という態度は、現在においては不誠実であると思う。
現代という時代は、情報源を起点としてネットやSNSで情報が拡散していく時代である。情報源となる情報だけ訂正すれば、誤解や誤認が正せるわけではない。自社の過失で間違いが生じたのであれば、100%の対応はできなくとも、できうる限りの対応策は講じるべきだろう。
■「謝れない」メディアからいずれ読者・視聴者は離れていく
メディアは、政治家や企業の不正や不祥事を暴くという点で、依然として重要な役割を担っていることは間違いない。しかしながら、反省して立ち直ろうとしている人や組織にとって、メディア報道が足かせになることも少なくない。
筆者は、過去に企業の炎上や不祥事への対応を行ってきたが、不祥事を起こした企業が、組織改革、再発防止策を取っている最中に、批判的な報道がされ、対応が遅れてしまうことも多々あった。
正当な批判であれば良いのだが、誤報や偏向報道であれば、それを正すための手続きが必要になる。黙認すれば、風評被害が生じてしまう。何も悪いことをしていない従業員や取引先にまでダメージを与えてしまうこともある。
逃げ場を失った人や組織にとどめを刺すことが、メディアの役割ではないはずだ。
不正を暴いたり、糾弾したりするのは良いのだが、過度に批判したり、自分たちの過ちを認めなかったり、正当化したりするメディアは、視聴者や読者にも支持されなくなってしまう。
ネットでは「マスゴミ」と揶揄されることも多いが、多くの読者や視聴者の一次情報の入手先は、依然としてマスメディアである。
正しい情報を発信することはもちろんだが、もし誤りがあったら、素直に認めて訂正し、誠実に謝罪ができることが、支持されるメディアになる上で必要なことであると思う。
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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。
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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)
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