「馬」と「ポンコツ中古車」で戦場にやって来る…プーチン軍が隠し切れないロシアの深刻な"戦車不足"の実態
2025年2月14日(金)12時45分 プレジデント社

2025年2月7日、ロシア・モスクワのクレムリンで会談中のミシュスチン首相に耳を傾けるプーチン大統領。 - 写真=EPA/GAVRIIL GRIGOROV/SPUTNIK/KREMLIN/POOL/時事通信フォト
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2025年2月7日、ロシア・モスクワのクレムリンで会談中のミシュスチン首相に耳を傾けるプーチン大統領。 - 写真=EPA/GAVRIIL GRIGOROV/SPUTNIK/KREMLIN/POOL/時事通信フォト
■“世界第2位の軍隊”が馬に乗り始めた
装備不足に直面するロシア軍の窮状を象徴する映像が、ソーシャルメディア上で話題を呼んでいる。ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ元内務省顧問がXで公開した動画には、ロシア軍兵士が馬に乗って戦地で活動する異様な光景が映し出されている。動画はロシア領内のサハ共和国出身の兵士たちが、馬に乗って戦場に向かう様子を捉えたものだ。
馬に乗った2人の兵士が荒野の泥道を行きながら、会話を繰り広げる。馬上から撮影している兵士が「見ろ、ウクライナにいる奴ら(自身を含むロシア兵ら)
動画を受けゲラシチェンコ氏は、「(アメリカに次ぐ)『世界第2位の軍隊』の真の姿だ。ロシア帝国時代への逆行だ」と批判した。動画は、少数民族への虐待としても問題となっている。ロシアではウクライナへの侵攻以降、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市部と比べ、少数民族が多く居住する地域からの動員が目立つ。民族差別的な動員政策が国際社会からも問題視されている状況だ。動画では戦闘車両を与えられず、騎乗で前線へ向かう実態が明らかになった。
オランダの情報分析サイト「Oryx」の推計によると、ロシア軍は侵攻開始から現在までに、1万5000以上の装甲車両や重装備戦闘機材を失ったとされる。米フォーブス誌は動画を取り上げ、「新しい車両の生産は遅れ、古い冷戦車両の在庫は昨年末に減少している。ロシア軍が最終的に馬に乗ることは不可避だった模様だ」と分析している。
■国産車・ラーダで戦場に乗り付ける
車両不足により、コンパクトカーを軍事車両の代用品として戦地へ投入するという事態も生じている。英テレグラフ紙は、ロシア軍が車両不足を補うため、軍用車両の代わりに市販のコンパクトカーを戦場に投入していると報じる。
記事に添えられた写真には、白の古びたラーダ(ソ連時代から続くロシアの代表的な自動車ブランド)が写っており、リアウインドウにはロシア軍の象徴である「Z」の文字が貼り付けられている。即席の軍用車両に仕立て上げられたようだ。ラーダの整備は芳しくなく、テールランプの片方は点灯していない。ウクライナの泥道を進んでいたこのラーダは、直後、ドローン攻撃の標的になったという。
出典=ウクライナ国防省、ウクライナ軍のドローン攻撃の標的になったロシア軍の車両。民間の車両が戦場に動員されている
テレグラフ紙はこの状況について、「若きロシア兵たちは、ウクライナ軍の砲撃や対戦車ミサイル、ドローンの群れ、地雷の脅威にさらされながら、一般の乗用車で前線に向かっている」と指摘。「通常の銃弾でさえ、ラーダの薄い車体を容易に貫通してしまう」と述べ、兵士たちの危険性を強調している。
アメリカのジャーナリストであるデービッド・アクセ氏は同紙に、「ロシア軍では、民間車両に乗り攻撃することが日常化している」と指摘。軍事用のマーキングを施し、ドローン対策装備を取り付けたラーダがウクライナ軍の陣地を攻撃する映像が、インターネットにも多数流出しているという。
■備蓄した装甲車両の限界
こうした装備不足の背景には、ロシアの軍需産業が抱える構造的な問題がある。英エコノミスト誌によると、ロシアの軍事生産能力が限界に達しており、これがウクライナ戦争における深刻な課題となっている模様だ。
大前提として記事は、ロシアが今も戦闘を継続できているのは、冷戦時代から受け継いだ膨大な装備の備蓄があるからだと指摘。ストックホルム東欧研究センターのアレクサンドル・ゴルツ氏は、その歴史的背景をこう説明する。
「当時のソ連指導部は、西側との軍事技術の格差を認識していました。そこで採用したのが、性能の差を数で補う戦略だったのです。平時から装甲車両を大量生産し、数千台規模で備蓄を進めました」
ロシアはこうして生まれた大量の予備車両を後ろ盾に侵攻を進めてきた。ところが、冷戦時代の遺産に頼るこの戦略は、もはや限界が見えてきている。シンクタンクである欧州政策分析センターのパベル・ルジン氏は「新型戦車や歩兵戦闘車両の新規製造どころか、既存装備の改修すら困難な状況に追い込まれています」と指摘する。
■経済制裁で部品が手に入らない
最大の問題は部品不足だ。2025年用に確保していた戦車部品はすでに底をつき、燃料ヒーター、高電圧電気系統、赤外線熱映像装置といった重要機器は、欧州からの輸入が制裁で途絶えたままだ。
製造の現場からは、さらに切羽詰まった実態が垣間見える。エコノミスト誌の報道によると、兵器工場の溶接作業は今でも手作業が中心だという。24時間操業を目指してはいるものの、人手が集まらない。設備面でも課題が山積みであり、かつてドイツやスウェーデンから購入した工作機械の多くが老朽化し、維持管理さえままならない状況だという。
T-90M主力戦車(写真=ロシア連邦国防省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
砲身の生産問題もロシアに重くのしかかる。生産ラインには、高い硬度の工作を実現する特殊な金属加工機械である、オーストリア製の「回転鍛造機」が欠かせない。だが、これを備えた工場はロシア国内にわずか2カ所。年間生産能力は1工場当たり約100本に過ぎないといい、実戦で必要な数千本規模には遠く及ばない。ロシア軍は激しい砲撃を繰り出しており、砲身の寿命は極めて短い。
ルジン氏は、「ロシアには鍛造機を自力で製造する技術がありません。1930年代にアメリカから輸入した機械や、第二次世界大戦後にドイツから接収した設備に依存したままの状態です」と指摘する。
■装甲車両を温存、歩兵を前に出す戦術にシフト
Oryxの調査報道によると、ロシア軍の戦車保有数は開戦時と比べ、わずか48%にまで落ち込んでいる。装甲戦闘車両の残存率も同水準だという。
ウクライナ軍によって破壊されたロシアのT-90M戦車(写真=АрміяInform/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
こうした生産能力の限界は、すでに前線での戦闘にも明確な影響を及ぼしている。カタールの衛星放送局・アルジャジーラは、ロシア軍の装備不足は、もはや危機的な状況に達しているとみる。ウクライナ軍第25空挺旅団でポクロフスク地域の防衛に当たるセルヒー・オキシェフ軍曹は、同局の取材に、「ロシア軍はもはや装甲車両に頼れない状況です。その代わりにバギーやゴルフカート、一般の乗用車まで戦場に投入しています」と戦場の実態を明かした。
ウクライナ東部の要衝クラホーベに駐屯するウクライナ軍報道官も、同様の変化を指摘する。「この数週間、ロシア軍は装甲車両を伴わない歩兵主体の攻撃にシフトしました。装甲車両は後方からの火力支援に徹し、最前線での攻撃には加わっていないようです」と述べる。
■戦車がいなくなったロシア軍基地も
ウクライナのキーウ・ポストは、衛星写真の分析を基に、ロシアの戦車備蓄が底をつきつつあると報じている。ロシアは開戦時、大小24カ所の基地に計7300台の戦車を保有していた。しかし2024年末までに、11カ所の基地が完全に空になり、残りの基地でも保有台数が半分以下まで減少したという。
最も顕著な例として同紙は、極東地域・アルセーニエフ村近郊の第1295中央戦車修理保管基地の変化を挙げる。2021年の衛星画像では、同基地に約300台の戦車と400台の装甲車両が確認され、その半数近くが実戦可能な状態だった。
ところが、公開情報分析(OSINT)専門家のジャンピー氏が2024年12月に公開した衛星画像では、状況が一変していた。新型車両は姿を消し、砲塔を失った戦車の残骸だけが残されている。現在、この基地で使用可能な車両は全種類合わせても約100台で、そのうち主力戦車は10台に満たない。
この事態についてジャンピー氏は「この基地は事実上、その役目を終えました。完全に空になるまであと1、2カ月でしょう」とコメントしている。
■最新型戦車は「致命的な設計ミス」で役に立たない
ロシアは最新型戦車の投入も試みているが、その結果も芳しくない。米軍事専門サイト「1945」によると、最新型主力戦車T-90Mが、ウクライナ戦争で壊滅的な被害を受け続けている。この戦車は125mm砲や高性能エンジンなど最新の技術を投入して開発されたにもかかわらず、致命的な設計上の欠陥があることが次々と判明している。
同サイトは最大の問題点として、自動装填システムの採用を挙げる。従来は人手で行っていた弾薬装填を自動化したため、弾薬を砲塔付近、すなわち防護が不十分な場所に置かざるを得なくなったという。この致命的な設計ミスにより、自爆ドローンや対戦車ミサイルが上方から攻撃を仕掛けただけで、戦車ごと爆発する事態が相次いでいる。
■精鋭部隊に配備されたのは、「親の世代よりも古い」戦車
作戦遂行面でも深刻な欠陥が表面化している。同サイトは、アメリカ軍とロシア軍の根本的な違いとして、戦闘後の検証作業の有無を指摘する。
アメリカ軍では「アフターアクション・レビュー」と呼ばれる検証会議を徹底しており、戦闘後に全将兵が参加して作戦の成否を詳しく分析する。この検証から得られた教訓は、その後の作戦立案や戦術の改善、さらには将兵の安全確保に向けた新しい戦闘手法の開発にも生かされているという。
ロシア製T62戦車(写真= Israel Press and Photo Agency/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
これに対してロシア軍には、こうした組織的な検証の仕組みが存在しない。その結果、兵士の犠牲者が増え続けているにもかかわらず、同じような戦術を漫然と繰り返す事態が続いているという。
最新型戦車の失敗を受け、ロシアは逆に旧式戦車の投入という選択を迫られている。ナショナル・インタレスト誌の報道によると、ロシア軍はソビエト連邦時代の1960年代に製造された、T-
フォーブス誌はT-62について、「仮に使い物になるとしても、1980年代の基準でかろうじて、という程度だ」と手厳しい。
T-62はロシア軍の精鋭部隊である第1親衛戦車軍にも配備され、窮状を象徴している。同部隊には当初、最新鋭のT-14アルマータ主力戦車が配備される予定だった。だが、実際には旧式のT-62戦車で戦力の補充を行っている。ナショナル・インタレスト誌は「この事実こそが、ロシアの置かれた切迫した状況を如実に物語っている」と結論付けている。
■国際社会と断絶するロシアの急所が露呈した
ロシア軍の装備不足は、もはや取り返しのつかない段階に達している。開戦時に誇った世界最大規模の戦車部隊は、わずか2年で半減した。その補充のため、60年前の旧式戦車から民間車両、さらには馬までもが戦場に投入される異常事態となっている。
根本的な問題は、ロシアの軍需産業が抱える構造的な脆弱性にある。冷戦時代から続く技術面での立ち遅れは、西側諸国による経済制裁によってさらに深刻化した。特に精密機械や電子部品の不足は致命的だ。これは一朝一夕には解決できない課題だ。
組織としての学習能力の欠如も見過ごせない。米軍のような戦闘後の徹底した検証プロセスを持たないロシア軍は、同じ失敗を繰り返している。この問題は、装備の質と量の不足と相まって、戦場での犠牲をさらに増大させている。
こうした複合的な問題を抱えるロシア軍が、近い将来に装備面での立て直しを図ることは極めて困難だろう。むしろ、時間の経過とともに状況は一層深刻化すると予想される。単なる軍事的な課題を超えて、ロシアの国家としての持続可能性にも影響を及ぼす事態が考えられよう。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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