ようやく和式便器を洋式便器にできた…赤字続きの「トヨタの下請け工場」を蘇らせた"婿入り社長"のアイデア

2025年3月10日(月)7時15分 プレジデント社

旭鉄工の木村哲也社長 - 筆者撮影

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愛知県碧南市のトヨタ系の1次サプライヤー、旭鉄工。1941年創業の老舗メーカーがいま注目を集めている。かつて赤字続きだったが、婿入り社長・木村哲也さんのアイデアで黒字企業に生まれ変わった。従業員の給料を増やし、社内の設備も新しくすることができた。どんなアイデアで会社を生まれ変わらせたのか。中小企業診断士でライターの伊藤伸幸さんが取材した――。
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旭鉄工の木村哲也社長 - 筆者撮影

■「有料の工場見学」に見学者が全国各地から集まる


一人3万3000円(税込)の「有料の工場見学」に見学者が殺到している会社がある。


愛知県碧南市に本社があるトヨタ系の1次サプライヤー、旭鉄工。1941年の太平洋戦争勃発の約4カ月に創立され、83年の歴史を持つ老舗メーカーだ。自動車のエンジン部品、エンジンから発生した力をタイヤに伝えるトランスミッション用の部品を製造している。その工場には、2023年度の1年間で600人以上もの人が訪れた。


写真提供=旭鉄工
工場見学の様子 - 写真提供=旭鉄工

売上169億円(2023年度)、従業員400人強(2024年5月時点)で、工場のデジタル変革(DX)を進めて年間10億円の利益アップを実現させた。今では経営改革に成功した企業として、数多くのメディアで紹介されている。


しかし、現社長の木村哲也氏が入社する前は、変化することが許されない「変わらないことが正義」が染みついた会社だった。


■物心がついたときから自動車が大好きだった


1967年、兵庫県神戸市に生まれた木村氏は、物心がついたときから自動車が大好きな子供だった。小さい頃から車に関する本をよく読んでいた。その後、芦屋市に引っ越し、芦屋市立山手中学校に通う。さらに、県内でもトップクラスの中高一貫の進学校である私立白陵高等学校へ進学した。


「無駄なことをするのが大嫌いな性格で、とにかく非効率な勉強はしたくないと思っていました。だから人よりも勉強をしないで成績を良くするにはどうしたらよいかをいつも考えていましたね。それでも集中して勉強するときは結構時間をかけてやっていました。一番頑張ったときは高2くらいかな。夜中の2時まで勉強して、また朝5時に起きてやっていました。でも学校で寝まくっていたので、逆にそのときは成績が落ちました(笑)」


東京大学理科1類に合格し、大学院に進学する。このときも研究よりも車に夢中だった。無類の車好きが高じて、1992年、トヨタ自動車への就職を決めた。トヨタでは技術部門に配属され、主に車両運動性の実験や開発に携わる。オーストラリアの現地法人に赴任し、テストドライバーとして速度制限のない公道で思いっきり車を走らせたこともある。大好きな自動車に関わる仕事だったので、毎日が本当に充実していた。ずっとこの仕事を続けていきたいと思っていた。


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駐在時代の木村社長(右) - 写真提供=旭鉄工

■トヨタ社員から「跡継ぎ」へ


旭鉄工の3代目社長に就任したのは、たまたま結婚相手が2代目社長(現会長)の長女で、跡継ぎを必要としていたからだった。妻の実家に婿養子として入ったものの、跡継ぎになるのは全く気乗りしていなかった。


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2015年3月、「Rallye de Paris」に東京大学のラリーチームで参加。運転は木村社長、助手席には妻・美里さんが座る - 写真提供=旭鉄工

「いずれは入社するのだろうと思っていましたが、結婚してからしばらくの間はほとんど意識していませんでした。しかし、段々とそれが現実に近づいてくると、トヨタの仕事が本当に楽しかったこともあって、やりたくないと思うようになったのです。経営の経験もなかったし、本当にできるのかという不安もありました」


なんだかんだと理由をつけて引き延ばしていたが、いよいよ旭鉄工への入社に向けた動きが進むようになる。2010年8月にトヨタ社内での異動があり、生産調査部に配属となった。生産調査部は、生産効率をあげて無駄を取り除く「トヨタ生産方式」に基づいたカイゼン活動を社内外で推進していく役割を担っており、カイゼンの総本山ともいえるような部署だった。


木村氏はトヨタに入社してからの18年間、車の開発しかやっていなかったので、生産に関わる仕事も経験しておいた方がよいだろうという会社側の配慮だった。木村氏はこの部署で「トヨタ生産方式」やトヨタ流のカイゼンを学びながら、トヨタ時代の最後の3年間を過ごした。


■「3年間は何も変えるな、メモだけしておれ」


2013年4月、旭鉄工に入社した。そこには想像していたものとは全く異なる景色があった。曲がりなりにもトヨタの1次サプライヤーなのだから、それなりにカイゼン活動が進んでいるものだと思っていた。ところが現実はそうではなかったのだ。トヨタはおろか世の中の標準的な会社ができているだろうことがほとんどできていなかった。


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愛知県碧南市にある旭鉄工の本社社屋 - 筆者撮影

毎月1回開催される経営企画会議では、部長たちが自部署の状況を口頭のみで説明していた。できなかった言い訳しかせず、何も決まらない形だけの会議だった。他の会議では数十ページもある分厚い資料が配布されていたが、意味のない形だけの表がやたらとたくさん貼り付けられており、何が言いたいのか全く理解できなかった。


当時の売上高は約150億円、従業員は約400人といった規模であったが、業績面ではかなり厳しい状況だった。万年赤字体質でどれだけ作っても赤字という状況が続いていた。


肝心な生産部門は、部品の品質不具合が多発していた。「再教育します」と言うだけで抜本的な対策を取るという発想が全くなく、同じような不具合が何度も繰り返されていた。これまで続けてきたからという理由だけで、何も変えようとしない。明らかに問題が山積しているのに、社内には全くといっていいほど危機感がない――木村氏の目にはそう映った。


しかし、当時の社長だった義父からは「3年間は何も変えるな、メモだけしておれ」と何度も言われていた。何かを変えることを極端に嫌う性格だった。


これは大変だ。何とかしなければいけない。現状を変えなければいけない。EV化による今後の自動車業界の劇的な変化を考えたら、数年後にはこの会社は確実につぶれるだろう。とにかく全てを変えるしかない。まずはカイゼン活動に取り組もうと思ったが「本当にこの会社に来て良かったのだろうか」と木村氏は自分の選択に疑問を持ち始めていた。


■変えないことが正義の会社


当時の旭鉄工は「何も変えないこと」が社内の暗黙のルールだった。変えようとしない体質が全ての従業員に染みついていた。そこで木村氏はとりあえずすぐにできることから、「変えること」を始めてみた。


最初は文房具や電池だった。ある部署では、これらの備品を明らかに高い金額で昔からの取引先から購入していた。「Amazonならもっと安く買えるのになぜそうしないのか」と尋ねると、従業員から「ここから買うことが決まりになっています」と言われた。「そんな決まりは無視していいから」と言って取引を止めた。他にも長年付き合いのある取引先や社長の親戚筋にあたる取引先もあったが、一切の例外を設けず全て変えていった。しがらみは全く気にしなかった。


形式的な慣行にもメスを入れた。労働組合との折衝の前に、会社側は出席者に対して儀礼的に寿司を出していた。しかし、毎回誰も手を付けないので、木村氏の独断で止めた。そのことを聞きつけた義父がものすごい剣幕で木村氏に言い寄った。


「なぜ勝手に変えてしまったのだ! お前はこれまでの経緯がわかっていない」


事実として誰も食べていないのだ。経緯もくそもあるか――。これが木村氏の本音だった。会社のためには必要なことだという思いがあった。だから、義父の言うことは全て無視してどんどんやり方を変えていった。


それでも長年社内に染みついた体質はすぐには変わらなかった。


従業員たちに「なぜ変えないのか?」と聞くと、「今までずっとこのやり方でやってきました、変えないことが正しいと思っています」と言われてしまう。「これは長い戦いになりそうだ」と気を引き締め、思案を巡らせる日々が続いた。


■「トヨタがいつまでも面倒を見てくれる保証はない」


できることから少しずつ変える。木村氏の取り組みに周囲の反応は冷ややかだった。言われたことはしかたなく対応するが、それ以外は一切変えようとはしない。むしろ、ちょっと気を緩めれば、元に戻してしまいそうな雰囲気があったと木村氏は振り返る。


「本当にこの会社は変わることができるのだろうか……。やっぱりトヨタの仕事の方が楽しかったな」


会社はなかなか変わらない。木村氏はときには落ち込むこともあったが、それでも活動を止めるつもりはなかった。


2013年の年末、ちょっとした事件が起きる。木村氏の靴箱に工場で使われる刃物が入っていた。嫌がらせであることは間違いなかった。誰が入れたのだろうと考えてはみたが、気にしてもしょうがないと思いそのまま無視することにした。


写真提供=旭鉄工
靴箱に入っていた刃物 - 写真提供=旭鉄工

「刃物を見つけたときは少し驚きました。しかし、不思議とあまり気にはなりませんでした。所詮こんなことしかできない人間なんだから恐れることはないと。むしろ嫌がっているんだったら、とことんやってもっと嫌がるようにしてやろうと思いました。改革しなければ結局この会社はつぶれてしまうのだから、もうやるしかなかったのです」


トヨタがいつまでも面倒を見てくれるという保証はない。だから、自分たちで何とかしなければいけない。木村氏は強い危機感と焦りを感じていた。トヨタで働いていたときには、味わったことのない感覚だった。


■トヨタ式「カイゼン活動」をしようとしたが…


ちょうどその頃、木村氏は新たなプロジェクトを始める。カイゼン指導にきていたトヨタ自動車の主幹(課長職)から「生産管理板を書いてPDCAサイクルを回すように」との指示を受け、生産現場の見直しが外部から迫られていた。


「生産管理板」とは、トヨタ生産方式のカイゼン活動で使用されるツールのことだ。時間当たりの生産数量や生産ラインの停止時間、停止した理由などを記録し、問題点を明らかにして、カイゼン活動に繋げていく。


木村氏はトヨタ時代に生産調査部に在籍していたこともあり、生産管理板の必要性を以前から認識していた。しかし、いざ実行に移そうとすると、測定する人員を割り当てる余裕がなく、また正確な時間を記録するのも難しい状況だった。前職のトヨタと違い、旭鉄工では人手もスキルも足りなかった。


そこで、木村氏は人手不足をデジタルの力で補うことにした。当時流行していたIoTシステムを使って生産数量などの記録を自動で集計できるようになれば、「人がいない」という言い訳はできなくなり、カイゼンに弾みがつく。早速、セミナーや展示会を巡ったが、木村氏の要求に合致するものは見つからなかった。


「まずシステムが必要以上に高スペックで価格も高すぎて手が出ませんでした。またこれらのシステムはインターネット接続が前提となっていましたが、当社の設備は昭和時代に導入された古い設備が多く取り付けることができません。加えて時間単位の生産数量や停止時間といった当社が必要とするデータを入手できるものもありませんでした。当社のニーズに合致するものは皆無だったのです」


■「昭和の機械」を自前のシステムでアップデート


しかたがないので、自分たちでIoTシステムを作ることを決めた。社内にはITの専門家はいなかったが、自分たちでできるところまでやってみることにした。設備の稼働状態が正常なのか異常なのかを識別するデータを入手できそうなのはわかっていた。だから、これを集計できるシステムなら自分たちの力でもなんとかなるだろうと考えたのだ。


そして、3カ月前の2013年10月に創設した「ものづくり改革室」のメンバーとともにこのプロジェクトに取り組むことにした。カイゼン活動を進めていくにしても、自分一人ではできることには限界がある。そこで、自分と一緒になって動いてくれるメンバーを集めていたのだ。


木村氏自身もプログラミングの本を読み漁り、IoTシステムに関する知識を蓄えていった。秋葉原に何度も通い、自社のシステムに最適なセンサを探した。こうした試行錯誤を重ねた結果、ついに数百円のセンサ、最低限の機能を有した教育用小型PC、クラウドサービスによる自作のシステムが完成した。


写真提供=旭鉄工
昭和の設備でもデータ収集が可能なシステムを作ることができた - 写真提供=旭鉄工

■ある若手社員との出会い


ようやく完成したIoTシステムだったが、現場の作業員はすぐには使ってくれない。ここでも「変えないことが正義」だった。従来のやり方を変えるという発想がなかったのだ。やはり、いきなり会社全体を変えていくのは難しい。そこでまずは社内でやる気のある人間を見つけて仲間にしていくことを考えた。


2015年4月、現場で元気のある30代半ばの男性係長が偶然目に留まった。ちょっと気になったので話をしてみると、その係長が担当している「フックトラクション」という車を牽引する部品の注文が急増したため、生産能力を大幅に向上させる必要が生じていた。


遅くとも7月までには設備を増設する必要があるため、トータルで約1億4000万円の追加投資が発生するという。当時の同社にとって、この金額は非常に大きな負担だった。そこで木村氏は、新規設備を導入するのではなく、IoTシステムを使って生産性の向上を検討するように彼に指示を出した。


ところが1カ月が経ってもなかなか検討は進んでいないようだった。「このままでは、やはり設備増設が必要になると言い出すだろう」。そう考えた木村氏は、現場に毎日顔を出すことを係長に宣言した。


「俺、これから毎日いくから」


当時、木村氏は副社長に昇格していたが、5月の初め頃から出張時以外は毎日現場まで出向いて、係長と一緒になって改善策を考えることを決めた。IoTシステムによって収集した停止時間などのデータを基に、対応策を検討するミーティングが毎朝9時に行われていた。そこに毎回出向いて、生産性を向上するにはどうすればいいかというアイデアを積極的に出していった。製造設備については全くの素人だったが、率直に感じた疑問点をどんどんぶつけたのだ


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従業員と工場内でミーティングをする木村社長(右) - 写真提供=旭鉄工

■従業員たちに起きた変化


そうすると彼も「副社長がここまで熱心にアイデアを出してくれるのだから」と思ったようで、自分から積極的に改善案を出して取り組むようになった。その結果、ラインの生産性は以前の60%向上。追加投資をしなくてもよくなった。これがIoTシステムを使ってカイゼン活動で成果を出した最初のケースだった。


そして2016年の年頭、木村氏は全従業員が集まる会合で彼を表彰する。それまで会社に表彰制度はなかったが、独断で新設して全員の前で表彰した。


すると彼の周りの人が、どうして表彰されたのかとその理由を聞きに来るようになった。「なるほど、IoTというシステムを使って、こういうカイゼン活動をやれば副社長に褒められるのか」というのがわかって、真似をする人が次第に増えていった。その結果、カイゼン活動に取り組む人が一人また一人と増えていった。


最初は「自分には関係ない」と思っていた従業員も、周囲の人間がカイゼン活動に取り組む姿を目にするうちに、「もしかしたら自分もやった方が良いのでは」と思うようになった。たった一つの部署で始まったカイゼン活動が徐々に社内に広がっていった。最終的には、多くの従業員が、「やらないと取り残される」と危機感を持つようになった。


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IoTシステムを自前で作成した - 筆者撮影
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設備に取り付けるIotシステムの模型。これで設備の稼働状況を把握できるようになった


- 筆者撮影

■会社のためだけに働こうと決めた


明らかに社内の体質が変わりつつあった。


長年赤字体質だった同社にも、ようやく黒字化の目途が立ってきていたのだ。


しかし、2016年2月、木村氏にまたしても事件が起きる。


親戚の叔母が亡くなり、所有していた株式の買い取り依頼を受けた。評価額は3億円強。とても個人で払える金額ではない。義父に相談したところ、「自分で借金して買え。会社は手伝わない。給料も増やさない」とこともなげに断られてしまった。当時は副社長になっていたが、年俸は1500万円だった。3億も払えるわけがない。


自分は好きな仕事を辞めて、人生を懸けてこの会社に転籍した。そして、入社してからも地道にカイゼン活動に取り組んで確実に成果を上げつつあるのに、なんでそんな理不尽なことを言われなければならないのだ。


そう思ったらもう本当に頭にきて、会社を辞めると社内で宣言したのだが、当時の総務部長から何とか辞めないでほしいと懇願されてしまった。


「哲也さんはこの会社を辞めても困らないでしょう。確実に生きていけると思う。でもあなたがいなくなったらこの会社は間違いなく大変なことになる。そうしたら従業員全員が路頭に迷うことになるでしょう。だから会社を辞めるのは何とか思いとどまってほしい」


「言われてみると確かにその通りだ。じゃあ、木村家のためではなく会社のために働こう。その代わり今まで以上に自分のやりたいようにとことんやってやろう」と木村氏は決心した。


最終的にその株式は義父に買い取ってもらうことで何とか決着がついたのだが、その一件以来義父とは一切口を聞かなくなった。この案件が起こってから9年近く、社内はもちろん自宅で顔を合わせることがあっても、一切口を聞くことはなかった。


「でも最近、許すことにしました。さすがに年を取って元気もなくなってきたので、もうそろそろいいだろうと(笑)」


■上積みした利益で和式便器を洋式に


2022年、木村氏が旭鉄工に入社して既に9年の歳月が過ぎていたが、この期間で「変えないことが正義」だった会社の面影はなくなっていた。社内中に自発的にカイゼンに取り組む風土が定着していた。


製造現場でデータを使った素早いカイゼン活動により労務費を低減し、原価データを正確に把握することで、それまでのどんぶり勘定を見直し、適正な見積価格を提示できるようになった。さらに、赤字であることがわかった生産部品は、カイゼン活動により黒字になるまで収益を向上させ、これらの数字が経営全体にどう影響するかを会社全体で共有できるようにした。


このように製造現場から経営までデータを活用できるようにした結果、年間の労務費を4億円も節減することができた。損益分岐点は162億円(2015年度)から133億円(2022年度)まで低下。その結果、売上額は横ばいでも10億円ほどの利益を上乗せすることができた。


従業員にとってみれば、報酬も大事な要素のひとつだ。だから、カイゼン活動の積み重ねにより業績が向上した分を賃上げに反映している。基準内賃金(基本給、役付き手当、精勤手当、家族手当、職務手当)を比較すると、2013年から17%アップ(24年)している。


業績は従業員に開示し、営業利益の金額に応じて賞与の月数を決めている。会社として成果が出た分は、賞与として従業員に還元する。自分たちのやったことが会社の業績に繋がっていくことがわかるので、モチベーションに繋がっていると木村氏は言う。


デジタル化で生み出した利益は、職場づくりにも活用している。社員食堂やトイレの改修につなげた。


写真提供=旭鉄工
新築中の事務所の外観。福利厚生施設としても活用する予定だ - 写真提供=旭鉄工

こういった設備は大きな費用がかかるので、赤字の頃はやりたくてもなかなかできなかったそうだ。利益がちゃんと出る体質になってからやっと直せるようになった。


「トイレは本当に古かったですね。まさに昭和のトイレでした。私でも使うのが嫌だったくらいだから(笑)」


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旧トイレ - 写真提供=旭鉄工
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新トイレ - 写真提供=旭鉄工
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新しい洋式便器になった - 写真提供=旭鉄工

■データを取り、常にPCDAを回し続ける


変わることを嫌う町の工場が、デジタルの力で生まれ変わる――。小さな改革を積み重ね、会社を変えることに成功したポイントを木村氏に聞いてみた。


「一番はとにかくアクションすることですね。他社の取組みとしては、とりあえずたくさんのデータを集めて可視化しているだけで終わってしまうケースが多いのです。そうではなくて、データに基づいてアクションすることが大事です。よくわからないデータをいっぱい集めて並べたところで、結局アクションしないと何も意味がない」


アクションするためには、デジタルで効率化を図ることが大事だと木村氏は言う。要するにデジタルで楽をして人間にしかできない付加価値の高いことに注力することが必要なのだ。同社のカイゼン活動は、デジタルの力を利用して、PDCAサイクルを高速で回すことが特長である。


「受験勉強と同じで、最終的には、企業の活動も結果の点数で評価されるんです。受験勉強の場合は、点数が取れればどういう勉強の仕方をしようが関係ない。別にそんなに分厚い問題集をやる必要はないし、結果が出せるのであれば薄いものでも十分だと思っていました。企業の活動もそれと同じで、成果を出すために最適な方法を常に考える必要があります」


「ただし最適な方法で取り組んでも、すぐに結果が出るとは限りません。カイゼン活動に魔法のアイテムがあるわけじゃないんで。だから、やっぱり地道に継続していくしかないんです。当社で成果が出せたのも、私が率先してこのPDCAサイクルを愚直に回し続けたからだと思っています」


■「人がやらないことをやりたい」


木村氏が取り組むカイゼンは常に進化を続けている。



木村哲也『付加価値ファースト』(技術評論社)

最近では、生成AIを積極的に取り入れて、カイゼンのレベルを格段に向上させた。生成AIがIoTのデータを自動的に巡回し、抽出した問題点に対して迅速にアクションを取る仕組みも構築できている。


また、木村氏の2冊目の著書『付加価値ファースト』(技術評論社)の内容をまるごと生成AIに読み込ませて、自分のクローンも作ってしまった。この本には、木村氏が旭鉄工に来てから取り組んだ一連の社内改革の取組みが具体的に描かれている。これまでの経験や知識に基づいて回答してくれるため、非常に重宝しているそうだ。


最近では、テレビのニュース番組の取材で求められたコメントをこのクローンに回答させた。アメリカの大統領選挙の結果が旭鉄工の経営にどう影響するかについて質問されたのだが、木村氏が答えようと思っていたのとほぼ同じ内容を回答してくれた。


「こういうのが好きなんです。とにかく人がやってないようなことを考えるのが大好き。誰もやっていないことをやりたい。新しいものを世の中に残したうえで、それとともにちゃんとお金を儲けて遊び倒して死にたいと、普段から周りには言っています(笑)」


木村氏のやりたいことは尽きることがない。遊び倒す時間が来るのは、まだまだ先のことになりそうだ。


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いまは自動車部品だけでなく、料理グッズなどの新商品も開発している - 筆者撮影

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伊藤 伸幸(いとう・のぶゆき)
中小企業診断士、ビジネスライター
1966年愛知県生まれ。関西大学社会学部卒。新卒で精密機器メーカーに就職し、営業職を経験後、商品企画、経営企画、事業企画など30年近く企画系の業務に従事。中小企業診断士の資格取得後は、経営ビジョン・戦略策定、重点施策管理、提案書作成など、企業が成長していくために必要となる一連の言語化作業のサポートを中心に活動している。得意分野は事業戦略、方針管理、マーケティング、ビジネスライティング全般。
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(中小企業診断士、ビジネスライター 伊藤 伸幸)

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