和田秀樹「コロナ禍でむしろ死者数が減ったのは、高齢者が病院に行かなくなったからである」
4月13日(水)17時15分 プレジデント社
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※本稿は、和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
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■健康診断を受けることは「長生き」には寄与しない
私は現役の医師ですが、現代の医療については、少し懐疑的なところがあります。理由は追々お話ししますが、一言で言うなら、医師たちの多くは「数字は見るが、患者は診ていない」と思うからです。その典型的な例が健康診断です。
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日本人の平均寿命が初めて50歳を超えたのは、1947(昭和22)年でした。その頃の「男女の平均寿命の差」は3歳ほどでしたが、いまではそれが6歳に広がっています。
これっておかしいと思いませんか? なぜ、女性の平均寿命は延びたのに、男性は延びなかったのでしょうか。
原因の一つに、日本人の「健康診断信仰」なるものがあると思っています。
定期の健康診断の多くは会社で実施されており、ひと昔前までは、健診を受ける割合は、男性が圧倒的に多いという状況でした。
健診が長生きに寄与するなら、男女の寿命は逆転してもよかったはずなのに、むしろ差が広がってしまった。つまり、健診が意味をなしていないということです。
■数値を正常にするための薬の服用が寿命を縮める
たしかに、健診はガンの早期発見などにつながります。これで命を救われる人もいるでしょう(かえって具合が悪くなる人もいますが)。しかし、健診で示される「正常値」なるものが「本当に正常なのか」は、疑ってみる必要があるでしょう。どの数値が正常かは一人一人違うからです。
一般に、大学病院などの勤務医の多くは、検査の数字は見ますが、患者は診ていません。目の前の患者さんの体に起きている事実よりも、定められた数字を重視しているわけです。そのような医師に診断され、治療されてしまうことを、どう思うでしょうか。不幸なことだと思いませんか?
とくに80歳を過ぎた高齢者の場合は問題がある、というのが老年医療の現場に長年いる私の実感です。数値を正常にするために薬を服用し、体の調子を落とす人や、残っている能力を失ってしまう人、寿命を縮めてしまう人がいるのです。
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■臨床論文が極端に少ない日本医療の現実
『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(NEJM)という医学雑誌があります。200年以上の歴史があり臨床論文の最高峰と言われるもので、世界中の医師や研究者はこの雑誌を高く評価し、情報を寄せます。
しかし、その雑誌に載(の)る日本人の論文はわずか1%ほどです。日本の医学界では大学の医局に残る医師が多く、研究者の割合は世界一なのに、臨床論文は少ない。なぜ、そのような不思議な現象が起こるのか?
それは、定説を覆そうとする研究者が少ないからだ、と私は思っています。先の健診もその一つです。定められた正常値を絶対視して、患者さんが薬による不調を訴えても「数値が悪いので」の一言でおしまい。そんな医療が実際に行われているのです。
この事実から、どんな選択が考えられるのでしょうか?
その一つは「医師の話をうのみにしない」という選択です。
■薬漬けと不要な手術が寿命を縮める
「医者の不養生」という言葉があります。
医師は自分の健康や体には無頓着だという意味です。ウソのような本当の話ですが、医師は患者さんには薬や健診を勧めるのに、自分ではやりたがりません。
おそらく「薬や健診は寿命を大きく延ばすものではない」ということを経験的に知っているからだと思います。それなのに患者さんに対しては「血圧が高い」とか「肝臓の数値が悪い」と言って大量の薬を処方する。「小さなガンが見つかった」と言って手術を勧めるのです。
写真=iStock.com/Ca-ssis
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その結果、どうなるか? 患者さんは薬漬けになったり、小さなガンと一緒に臓器の一部も切り取られたりするのです。若いときならそれもいいでしょう。しかし高齢者になったのなら、それは逆に、不調や寿命を縮める原因になりかねません。
それは果たして、あなたが望む幸せな晩年なのでしょうか?
■病院に行かなくなったら死者数が減った
興味深い事例を二つ紹介しましょう。
まず2020(令和2)年は、新型コロナウイルスの影響で、病院に行く人が大幅に減りました。「コロナに感染したくない」と、少しくらいの不調は我慢したのでしょう。とくに高齢者にはその傾向が見られました。
その結果、意外な現象が起きました。日本人の死亡者数が減ったのです。
つまり「病院に行かないほうが死なない」という皮肉なことが起きたわけです。
もう一つは、北海道夕張市の例です。
夕張市は住民の約半数が高齢者で、全国の市区の中で「高齢化率日本一」と言われた町です。市民にとって病院は命を守る生命線だと思われていました。ところが、2007(平成19)年に夕張市は財政破綻をし、唯一の市立総合病院が閉院してしまったのです。
総合病院は小さな診療所になりました。171床あったベッド数は19床に減らされ、専門医もいなくなりました。
高齢者の多い町で、どうなるのだろう?
市民はもちろん、多くの人が心配しました。結果、どうなったと思いますか?
重病で苦しむ人が増えることはなく、死亡率の悪化も見られなかったのです。日本人の三大死因と言われる「ガン、心臓病、肺炎」で亡くなる人は減り、高齢者一人当たりの医療費も減ったそうです。「わずか19床のベッドで大丈夫か」という心配も杞憂(きゆう)に終わりました。ベッドは空きが出るほどになったのです。死亡する人の数も、以前とほぼ変わりませんでした。まさにいいこと尽くめなのですが、なぜそうなったのか?
その答えを探すことは、現代の高齢者医療が抱える問題を浮き彫りにし、解決策につながる、と私は考えています。
■「もう放っておきましょう」と医師は言えない
夕張市の市民の間では、三大死因の「ガン、心臓病、肺炎」は減ったのに、全体の死亡人数は変わりませんでした。つまり、ほかの原因で亡くなる人が増えたということです。その原因とは何か?
夕張診療所の方によれば、それは「老衰」だったと言います。
老衰は、病気ではなく、少しずつ体が弱って死ぬことです。「天寿をまっとうした死に方」と言ってもいいでしょう。
老衰の場合、多くは家庭や老人ホームなどで息を引き取ることになります。
夕張市では病院が小さくなったため、在宅医療への切り替えを余儀なくされた人もいました。患者さんが入院を望まず、在宅医療を選択したケースが多かったと聞いています。
85歳を過ぎた人は、体の中に「複数の病気の種」を抱えています。明らかな症状はなくても、何らかの不調はあるはずです。
この状態で病院に行けば、たいていの医師は検査をしたり、薬を出したりするでしょう。現代においては、それが当然の医療だからです。逆にそれをしなければ、「あの病院は薬もくれない」と文句を言われてしまいます。
でも、本当にそれが正しい医療なのでしょうか?
和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎新書)
ぜひもう一度、考えてみてほしいのです。
医師は病院に来た高齢者に対し「もう年だから、放っておきましょう」とは言えません。であるならば、患者さんが選択するしかありません。
病院で検査をして病気を見つけてもらい、薬や手術をして寿命を延ばすのか、自宅や老人ホームで好きなことをしながら生きるのか――。
それは、医師ではなく、自分が選択することなのです。
高齢者になれば、病気は全快しません。一時的に快方に向かっても、悪い部分は次々と現れます。厳しい言い方ですが、それが年を取るということなのです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)
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