お金のない日本人を「4時間8000円」で行列に並ばせる…日本で暗躍する"中国人転売ヤー"の知られざる実態
2024年12月8日(日)16時15分 プレジデント社
撮影=プレジデントオンライン編集部
転売ヤーについて取材を重ねた奥窪優木さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部
■日本で活動する転売ヤーの多くは中国人
――転売ヤーが跋扈(ばっこ)することで一般市民が定価でモノを買うことができないという事態がここ何年か続いているように思います。ただ、実際に転売をしている人たちの実像は見えてきません。奥窪さんから見て、転売ヤーとはどんな人たちなのでしょうか。
商品を安く仕入れて高く売るというのは言ってみればビジネスの基本ですよね。彼らはもちろん儲けるために転売しているのですが、そこにある種のゲーム性を感じているんだろうと僕は感じます。彼らのことを傍で見ていると、市場経済のバグみたいなものを探して儲けるというダイナミックな世界にはたしかに面白みがあるんだろうなと。
――そんな転売ヤーたちの実像についてお聞きしたく思うのですが、そもそも現在の転売市場の盛り上がりの要因はどこにあるのでしょうか?
要因はいくつかあるのですが、まずは中国における需要の大きさがかなり影響しています。よって、日本で活動している転売ヤー自体も中国人であることが多いです。14億人のうち、0.1%の人がある商品を欲していたとしても、140万人です。それって、日本で考えるとかなり大きな需要になりますよね。
■コロナ禍で急増した「転売需要」
それと、僕はコロナ前から転売ヤーたちの取材をしているんですが、コロナ禍で転売市場は大きな変化を迎えたと思っています。
中国政府はコロナ時、かなり厳しく都市をロックダウンしていました。そんな生活の中、例えば「ディズニーランドには行けないけど、せめてディズニーグッズは欲しい」といった需要が増えたと思うんです。ディズニーに限らず、そういった需要に日本国内にいる中国人たちが目を付けたんですね。
■飲食店従業員や学生が「買い子」「並び屋」に
そのグッズを仕入れるには実際に現場でモノを買う「買い子」や「並び屋」が必要になってくるのですが、それも動員しやすかった。
なぜなら、日本でも緊急事態宣言で飲食店従業員たちが職を失ったり、授業がオンラインになったりしたことで暇な学生が増えたからです。その人たちが次々と「買い子」や「並び屋」になりました。この時期を機に、転売市場のシステム化が一気に進んだように思います。
オムツの転売をしているグループがいたとして、これまではそのブームが終わればグループ自体も解散になっていたところが、システム化されたことによって同じ組織が次々と異なる商品を転売するようになりました。転売が持続的なビジネスになったんです。
■「お一人様1点まで」が転売ヤーの旨味になる
――今、コロナ禍は終わったように思いますが、そのときにできたシステムによって、転売市場は引き続き盛り上がっている状態なんですね。
おっしゃる通りです。ディズニーグッズはかなり息が長いですが、羽生結弦グッズは一時の盛り上がりよりは落ち着いています。ですが、転売ヤーたちは次にどんな商品の需要が伸びるか常に探しています。それさえ見つけてしまえば、あとはシステムに当てはめるだけなので。
写真=iStock.com/cjp
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cjp
――現在(2024年11月)の転売市場のおけるトレンドはどんな商品になるでしょうか。
数年前まではロレックスやウイスキーなど、利益率が多く取れる高額商品が人気でした。ただ、中国の経済が不況ということもあり、そういった商品が扱いづらくなりました。
今はディズニーなどキャラもののグッズ、とりわけ限定品が人気です。そもそもの価格が高額ではないので薄利多売で儲けるしかないのですが、限定品であることから希少価値が上がり、利益率も高くなる。加えて、「お一人様1点まで」といったように販売側が転売対策を講じることによっても希少価値は上がってしまいます。結果として、転売ヤーの利益率が上がってしまうという事態も起きているんです。
――それは、なんとも皮肉な現状ですね。
限定品のようにあらかじめ供給量が決められている商品は、転売ヤーからしてみれば狙い目でしかありません。ファンも収集欲を掻き立てられるので、とにかく限定品を転売しておけば儲かるような状況になっています。
販売側がどう売ろうと自由ですが、限定品については一度立ち止まって見直す必要があると思います。今の状態では、転売ヤーに「来てください」と言っているようなものなので。
■転売に加担する学生、主婦、フードデリバリー
――コロナ禍で転売市場がシステム化(=組織化)されたということでしたが、ピラミッドの頂点にいるのはどんな人たちなんでしょうか。
もっとも上にいるのはやはり販路を持っている人です。中国本土に販路があると強いので、自然とトップにいる人間も中国人が多くなってきます。彼らは「転売ヤー」というよりも、「貿易会社」と自認してビジネスをしています。その下にいるのが、現場で並ぶ人たちを動員する「リクルーター」と呼ばれる人たち。
トップにいる人たちがリクルート機能を持っていることもあれば、リクルートだけを行う組織が独立していることもあります。そして、末端が「買い子」や「並び屋」と呼ばれる、実際に商品の買い付けをする人たちですね。
――末端の人間はどんなメンツなんでしょうか。
学生、主婦、フードデリバリーなどのギグワーカー、この三者が多いです。1回4時間の拘束で報酬は8000円~1万円が相場。LINEのオープンチャットで「日雇い」「日払い」などと検索すると、転売グループのチャットがいくつも出てくるんです。そうやって自分からアクセスする人が多いですね。
■中国人転売ヤーに搾取される日本の貧困層
――4時間で8000円~1万円と聞くと、学生や主婦にしては割のいいバイトですよね。
報酬もそうですが、彼らは「日払い」という点に吸い寄せられているんです。とにかくその日の金に困っているような人たちなので。ただ、ピラミッドの中でもっとも搾取されているのは、やっぱり「買い子」と「並び屋」なんですよ。4時間並んで1万円もらえるのであれば、普通に考えて自分で仕入れて自分で売ればそれ以上の儲けになるはずです。でも、それを考えることができないので、言葉は悪いですが「情報弱者」という言葉がしっくり来てしまいます。
とある中国人の転売ヤーは、「並ばせるのは日本人のほうがいい」と言うんです。なぜなら、「中国人はすぐに真似して自分で始めようとする」から。日本人は従順に並んで、金だけもらったら帰ってくれる人が多いらしいです。
■毎月黒字を叩き出せるわけではない
――では、搾取され続ける末端の人たちの上に位置する転売ヤーたちはウハウハなのでしょうか。
そういうわけでもないんです。転売ヤーに常につきまとうのが「在庫リスク」です。もともと末端の人間として「買い子」や「並び屋」をやっていたものの、自分一人で転売をするようになったSくんという大学生がいます。彼はキャンプブームにあやかってキャンプ用品をよく転売していたんですが、ブームは一過性のものですぐに落ち着いてしまいました。
また、焚き火グッズは冬によく売れるなどキャンプ用品は季節に左右される商品が多く、売り時を逃してしまうと大量の在庫を抱えることになります。だから、在庫処分という形で安く売らざるをえないときも多くあり、赤字を出してしまう月もあったと聞きました。
写真=iStock.com/pixeljar
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■利益をすべて失う転売ヤーも
――仕入れる量が多ければ多いほど利益も出しやすくなりますが、逆に在庫を抱えてしまったときの損失は大きそうですね。
「越境転売ヤー」と呼ばれる人たちの例はもっと悲惨です。彼らは日本で大量に仕入れた商品をEMS(国際スピード郵便)などで中国本土に送るのですが、中国側の税関の方針がコロコロ変わるんですよ。何の前触れもなくいきなり課税が強化されたり、本来EMSでは送れない商品を何かに紛れ込ませて密輸できていたものが、いきなりできなくなったりする。
そして、中国の税関に商品が引っかかると、何の連絡もなくただ届かない。日本にいる転売ヤーからしたら、顧客から「商品が届かない」と連絡が来て初めて、税関で引っかかったことを知るわけです。税関に問い合わせると、「処分しました」とだけ伝えられるので、仕入れた商品はすべてパーになるうえに、顧客からの信頼まで失ってしまうのでかなりの痛手です。取引が「BtoB」(企業間取引)だった場合、必然的に大量発注になるので、さらに被害額は跳ね上がることになります。
■どうすれば転売ヤーはいなくなるのか
――今後の日本でもし転売ヤーが衰退することがあるとしたら、どんなキッカケが考えられるでしょうか。
やっぱり日本の転売市場の裏には中国の影が存在しています。中国人の間で、「転売屋から商品を買うのってファンとしてどうなの?」と疑問視する風潮が生まれれば、急速に転売ヤーの需要が減っていくと思うんです。これだけ聞くと夢物語みたいに思えるかもしれませんが、実は15年ほど前には「偽物」を巡って同じことが起きているんです。
一時期、中国では「偽物」の商品が横行したことがありました。当時の中国人は、「偽物でもなんでも構わない」といった国民性だったんですが、次第に偽物の商品を持つことに恥ずかしさを覚えるようになり、偽物の商品が市場からだんだん消えていきました。そのときと同じように「転売ヤーからではなく正規ルートで買った商品じゃないと価値がない」という価値観が生まれる可能性はあると思うんです。
■転売ヤーにただ怒るだけでは何も解決しない
――では、日本人のほうは転売ヤーに対してどんなスタンスでいるのが望ましいと考えますか。
奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)
実際に自分の欲しい商品が転売ヤーによって買えなくなってしまったファンが怒るのはわかるのですが、日本の場合、まったく関係のない人まで転売ヤーを目の敵にしている印象があります。たぶん日本人は「労せずに儲ける」ことに嫌悪感を抱きやすいのかと。転売ヤーは右から左に商品を流すだけで儲けているイメージがあるので、腹が立つのかもしれません。
日本にはかつて「一億総中流社会」と呼ばれた時期がありましたが、今はもはや「格差社会」になっています。転売市場は金を持っている人間が財力で他人から商品をぶん取る……という図式なので、そこに格差社会の側面を見いだしてしまい、アレルギー反応を起こしているのだと思います。でも、転売ヤーも労せずに儲けているわけではない。
ただ、「転売ヤーだって苦労しているんだから理解してあげようよ」と言うつもりはありません。おそらく日本人の多くは、転売ヤーという人たちの実態がわからないまま怒っているんだと思うんです。彼らの実像が見えないままやみくもに怒っているだけでは、いつになっても問題は解決しないのではないでしょうか。
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奥窪 優木(おくくぼ・ゆうき)
フリーライター
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。ツイッターアカウントは@coronasagi
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國友 公司(くにとも・こうじ)
ルポライター
1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。キナ臭いアルバイトと東南アジアでの沈没に時間を費やし7年間かけて大学を卒業。編集者を志すも就職活動をわずか3社で放り投げ、そのままフリーライターに。元ヤクザ、覚せい剤中毒者、殺人犯、生活保護受給者など、訳アリな人々との現地での交流を綴った著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)が、2018年の単行本刊行以来、文庫版も合わせて6万部を超えるロングセラーとなっている。そのほかの著書に『ルポ路上生活』(KADOKAWA)『ルポ歌舞伎町』(彩図社)がある。
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(フリーライター 奥窪 優木、ルポライター 國友 公司)
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