デフレしか念頭のない世界に、インフレが帰ってきた
デフレしか念頭のない世界に、インフレが帰ってきた
たびたびニュースを騒がせている「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶりであることをご存じだろうか(日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった)。インフレを経験として知っている人は少ない。そんななか、これから物価が上昇していく時代に突入しようとしている。本連載では、ローレンス・サマーズ元米国財務長官が絶賛したインフレ解説書『僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない』から、「そもそもインフレとは何か?」「インフレ下では何が起こるのか?」「インフレ下ではどの資産が上がる/下がるのか?」といった身近で根本的な問いに答えている部分を厳選して紹介する。
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パンデミック後のインフレは「一過性」ではなかった
インフレーション(インフレ、物価上昇)が数十年にわたる冬眠から目を覚ましたのは、2021年のこと。政策立案者たちは当初、新型コロナ(COVID-19)に端を発する世界的な供給不足の影響で物価上昇が起きているのは、主に中古車や半導体などのごく一部の分野だけだ、と思い込んでいた。
それ以外の物価はまだ「落ち着いている」ように見えたため、インフレが加速し始めてもなお、中央銀行家たちは金利の引き上げに踏み切れなかった。インフレは一過性のものに違いない、と踏んでいたのだ。
ところが、インフレは収まるどころか、いっそうの加速を見せる。プーチン大統領によるウクライナ侵攻の決断。それにともなうエネルギー価格の上昇。これらの要因が1970年代(あるいはもっと前)以来となる高いインフレ率を招いた、というのは都合のよい説明ではあったが、実情はもう少し複雑だ。
実際には、あちこちで物価の上昇圧力が高まっていた。労働市場はその大部分が人員不足と賃金の急上昇に見舞われ、尋常でないほど「逼迫」した。
一部の指標を見ると、「実質」金利(名目金利からインフレ率を差し引いた実質的な金利)は下落し、「独立性」を手に入れたはずの中央銀行は、政治的影響下にあった50年前の中央銀行と同じ過ちを繰り返しているように見えた。
そうこうするうちに、ますます熱を帯びていくインフレ症状に見て見ぬふりをしていた人たちは、市場から金銭的な出血を強いられる瀬戸際にまで追い込まれていた[*1]。
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