まるで「羊たちの沈黙」北朝鮮最悪の連続猟奇殺人
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は今年の元旦、経済制裁と新型コロナウイルス対策の国境封鎖=貿易停止で経済難の深まる北朝鮮で、強盗や窃盗が爆発的に増えていると伝えている。
RFAによれば、こうした犯罪が増えた理由は経済難のほかに、昨年10月10日の朝鮮労働党創建75周年に合わせて行われた恩赦で7000人の受刑者が釈放されたことがあるとしている。釈放された受刑者にはもともと貧しい家庭の出身者が多いため、家に帰っても仕事もない。また、折からの経済難で困窮に拍車がかかり、生き延びるためには犯罪に走るしかないのだという。
とはいえ、貧しいからと誰もが犯罪者になるわけではないのは、どこの社会も同じことだ。社会全体が急激に貧しくなれば治安は悪化する。しかし、それとは無関係に起きる犯罪もある。
北朝鮮で語り草になっているとされるのが、今から30年前に起きた「パク・ミョンシク事件」だ。農場で12人の若者を切り裂いた連続殺人鬼パク・ミョンシクの犯行は、さながら映画「羊たちの沈黙」に登場する、ハンニバル・レクターの北朝鮮版と言ったところだ。
パク・ミョンシクは1991年10月、咸鏡南道(ハムギョンナムド)新浦(シンポ)市の裁判所で死刑判決を受け、即時執行されたと見られる。パクの犯行はその前年、1990年の春から始まった。1990年と言えば、大飢饉「苦難の行軍」が始まる前のことだ。
北朝鮮はかつて、犯罪の少ない国と言われていた。一部の特権層を除き、皆が平等に貧しいものの、完備された配給システムで食糧や生活必需品を得られるという社会体制のおかげだと言われている。
ところが、配給システムが崩壊、食糧難が頂点に達した「苦難の行軍」の時期に犯罪が増加。平壌郊外の新興住宅地では、殺人なのか、自殺なのか、餓死なのかわからない遺体が毎日のように発見され、中にはバラバラにされたものもあったという。
いずれにしても、パクの犯罪は北朝鮮社会が比較的平穏だった時代のものだ。だからこそ、その時代の人々により大きな衝撃を与えたのかもしれない。
では、その後の北朝鮮社会はどうか。「苦難の行軍」が終わった直後、2000年代前半の数年間を除き、平穏だったと言える時代はなかったかもしれない。2009年11月の貨幣改革失敗で経済は再び大混乱に陥り、小康を取り戻した後には貧富の格差が拡大した。そして金正恩政権の核開発の強行で、史上最強とも言われる制裁下に置かれることになった。
朝鮮労働党第8回大会で経済優先を掲げた金正恩総書記は果たして、社会の平穏を取り戻せるのだろうか。
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