金正恩「謎の沈黙」と飢える国民「声なき断末魔」の不気味
北朝鮮の金正恩総書記が、3週間にわたり沈黙を守っている。元日に、祖父と父の遺体が安置された錦繡山(クムスサン)太陽宮殿を訪問。また朝鮮少年団の代表らと記念写真を撮るなどして以降、動静が伝えられていないのだ。
金正恩氏は昨年12月26~31日に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議で、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)システムの開発や戦術核兵器の大量生産を指示。さらに1日にかけて超大型ロケット砲を発射し、新年から「強硬姿勢」を演出してみせた。
そんな経緯もあり、たった3週間の「沈黙」に注目する向きは少ないと言えるかもしれない。
ただその一方で、北朝鮮経済のいっそうの窮迫を思わせる要素が続けて出ている状況がある。
北朝鮮メディアは、昨年末の党拡大会議で報告されたとみられる経済と食料生産の実績への評価や今年の指針について、建設分野を除いて具体的な内容を報じなかった。金正恩氏は報告で、「経済各部門で達成すべき経済指標と12の重要目標」と「農業分野で徹底して重視すべき課題」を示したというが、具体的な方針も昨年の実績をどう評価したかも伝えていない。
もとより、北朝鮮の公式発表、特に経済分野に関する内容は嘘や誇張だらけだ。だがそれだけに、「嘘や誇張も伝えられないほど酷いのか」とも思える。
また金正恩氏は、今月中旬に開かれた最高人民会議(国会)第14期第8回会議にも出席しなかった。同氏は代議員(国会議員に相当)ではないが、2019年から最高人民会議に出席し、施政演説を行うなどしてきたにもかかわらずだ。
そんな中、19日には米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」が、北朝鮮の食糧事情が危機的な状況にあるとの分析を明らかにした。同サイトによると、北朝鮮の穀物の需要や供給量、食料価格などをもとに分析した結果、穀物の在庫量が最低必要量を下回っていると見られるという。
最低必要量は、食糧均等配分を前提に社会維持に不可欠な食糧の下限を指す。北朝鮮は、国連食糧農業機関(FAO)基準の最低必要量の80%レベルだという。これは、十万人規模の餓死者を出したとされる1990年代の大飢饉「苦難の行軍」に近い状況にあると言えるかもしれない。
北朝鮮は中ロとの一部の貿易取引を除いては、いまだに「コロナ鎖国」を続けており、内部の詳しい状況はなかなか伝わってこない。しかし本欄でも繰り返し伝えてきた通り、デイリーNKや米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)などは、お金や食べ物が底をつき何も口にできない「絶糧世帯」の大量発生など、断末魔とも言える状況について報じている。
最高指導者ならば、ハッタリでも何でも発信すべき状況だろう。そんな中での金正恩氏の「沈黙」は何を意味しているのだろうか。
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