「兵士ら18人処刑」舞台から消えた金与正の“怖い話”
北朝鮮の金正恩総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長の「立ち位置の変化」が一部で注目を集めている。
8日に開催された朝鮮人民軍創建75周年の閲兵式(軍事パレード)では、父母とともに主席壇に上がった金正恩氏の娘、キム・ジュエさんが大きくクローズアップされた。その一方、壇上に金与正氏の姿はなく、朝鮮中央テレビが公開した映像から、軍人らの後方に黒いコート姿でたたずむ様子が確認されただけだった。
金与正氏は、実質的に北朝鮮のナンバー2だ。重要行事では、兄とともに壇上に位置を占めることが多い。ただ、彼女は党の宣伝扇動部でキャリアを積んできたと見られており、行事では裏方さながらに動き回る姿も見せてきた。
最近のジュエさんの「売り出し」が金正恩氏らによる“練られた演出”であるならば、その仕掛人は金与正氏である可能性もある。聯合ニュースによれば、「海外メディアの中には、金正恩氏夫人の李雪主氏が金与正氏の影響力拡大を懸念しており、安心させるために金正恩氏がジュエさんを表舞台に立たせたという見解も出ている」とのことだが、これは勘ぐり過ぎというものだろう。
また、ジュエさんが金正恩氏の後継者になる可能性を論じる向きもあるが、これも気が早い。
金王朝の権力の基盤は恐怖政治だ。国内を恐怖で支配できなければ体制はもたないが、それは誰にでもできるわけではない。逆に言うと、血の粛清を繰り返してきた故金日成主席や故金正日総書記はそれを上手くこなしてきたのであり、金正恩氏も、その「素質」があるから後継者になれたわけだ。
まだ10歳とされるあどけないジュエさんは、そうしたイメージがあまりに遠い。
一方、金与正氏はどうか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2021年5月、北朝鮮・両江道(リャンガンド)の行政機関幹部の証言として、金塊密輸に関わった国境警備隊の兵士ら10人が、金与正氏の指示により処刑されたと伝えた。
また韓国デイリーNKも2020年12月、汚職を働いていた国家保衛省の中堅幹部ら8人が、やはり金与正氏の指示で処刑されたと伝えている。
こうした情報は、正確ではない可能性もある。ただ少なくとも、こうした「怖い話」が北朝鮮国内で出回っている可能性は高いと言えるだろう。それはつまり、金与正氏が「恐怖の対象」と見られつつあるということなのかもしれない。
同氏がたまに発表する談話で、韓国政府に対する罵詈雑言を並べながら強硬派ぶりを強調している点を見ても、金正恩氏の身に不測の事態が起きた場合に後継者となる準備が進んでいるのは、金与正氏以外には見当たらない。
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