幹部への「ご機嫌取り」のため死に追いやられた北朝鮮の農場員
北朝鮮の道路事情はお世辞にも良いとは言えない。外国人観光客が利用する平壌・開城(ケソン)高速道路には、デコボコな箇所が多数存在し、地ならしする「タコ」という器具を使って、穴を付き固めて補修する様子も見られる。
高速道路がそんな有様なのだから、一般道路の状況は言うまでもない。北朝鮮の教育図書出版社の朝鮮地理全書には、1982年の統計として、全国の1級道路2289.7キロのうち、舗装されているのは914.4キロと記されている。全体の約4割に過ぎない。6級道路に至っては、舗装率は1%にも満たない。古い数字ではあるが、その後の経済状況の悪化を考えると、さほど改善していない可能性が高い。
劣悪な道路事情は事故多発の原因となっている。北部山間地にある両江道(リャンガンド)では2018年3月、季節外れの大雨が降った後に道路が凍結したことで事故が多発、たった1日で300人もの死者を出す事態となった。
道路事情もさることながら、荷台に人を満載したトラックが次々に事故を起こしたことが、大惨事へとつながった。機関や農場、国営の工場が所有する車両も、民間人の所有する運送車両「ソビ車」も、人と荷物の両方を積む。そのため車種はトラックである場合が多いのだが、これが再び悲惨な事故を引き起こしてしまった。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、山中で木材の切り出し作業を行っていた穏城(オンソン)タバコ農場の農場員を乗せたトラックが先月中旬、木材を満載した状態で、凍結した道路で滑り、転落する事故を起こした。
タイヤにはチェーンを装着していたが、凍結した未舗装道路では、無用の長物だったろう。また、コロナ鎖国でガソリン価格が高騰している中、節約のためにかなりの高さまで木材を積み上げていたとのことで、そのせいでバランスを崩したことも考えられる。
この事故で5人が病院に搬送されたが、1人は数時間後に死亡し、残りの4人は重傷を負った。「労働能力を喪失した」(情報筋)、つまり障害が残るとの説明を受けた重傷者の家族は号泣しているという。
家族は、この苦しい時期に一体どうすれば患者のケアをしながら生きていけるのかと、今後のしかかる重い負担に深い溜め息をついている。農場は、家族に1ヶ月の生活費に相当する補償を行ったが、治療に必要な抗生剤などは家族が自費で買わなければならず、経済的負担に苦しんでいる。
近隣住民は、労災なのだから国が補償すべきとの声を上げている。それにしても、5人はなぜ危険な雪山で木材を切り出す作業を行っていたのか。
「まず、タバコ栽培には木材が必要だと言われているが、それに合わせて毎年交代する管理イルクン(幹部)に新しい家を建ててやらなければならない」(情報筋)
穏城郡の農村経営委員会からは毎年、管理イルクンが派遣されてくる。農場員はイルクンが派遣されて来るたびに住宅を新築することを強いられていたようだ。農場員たちは、イルクンのご機嫌取りのために危険な作業を強いられた挙げ句、死に追いやられたのだ。
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